厚生労働省より「健康づくりのための睡眠ガイド2023」が発表されました[1]。
前回は、「健康づくりのための睡眠ガイド2023(厚生労働省)」の紹介(その1)として、我々に必要な睡眠時間についてご紹介しました。今回は、特に成人期の睡眠についてご説明します。具体的には、「成人期の睡眠時間と寝だめについて」「質の良い睡眠をとる方法」についてお話します。
成人期とは、様々な定義がありますが、WHOによると19歳以上(国の法律によっては、これより若い場合もある)とされています。
19歳以上といえば、学校に通ったり、社会で働いたり、子育てをしたり、充実しつつも、大変忙しくされている時期ではないでしょうか。
前回の連載(その1)によると、成人期に必要な睡眠時間は、個人差はありますが、おおむね「最低でも6時間以上」でした[1]。
では、実際に大人は何時間眠っているのでしょうか?
その結果は、6時間以上眠れている大人は半数以下というものでした(女性50代を除く)。
睡眠不足がまねく悪い結果の研究報告は様々なものがあります。
肥満、高血圧、糖尿病、心疾患、脳血管疾患、うつ病……睡眠時間が足りないだけで、このような病気になりやすくなります。
病気だけではありません。
睡眠時間が足りない人(6時間未満)は、睡眠時間が足りている人(6時間以上)と比べて死亡するリスクが1.12倍という研究結果すらあります[2]。
睡眠時間の確保は、健康な生活を送るためにはとても重要であることが分かります。
「平日は忙しいので睡眠不足気味だけど、寝れる時に寝だめしてるし大丈夫!」
このセリフを聞いた方は、おそらく大勢いらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、そんなことが出来るほど、甘くはありません。
睡眠は貯金できないのです。
睡眠不足がたまり(これを「睡眠負債」といいます)、睡眠を取り返そうと長く寝ると、体は楽になりつつも、いざ起きた時に「今は朝?夜?」と、ぼんやりしてしまった方もいるのではないでしょうか。
この寝だめ習慣について、面白い研究結果があります。
40〜64歳の成人を対象とし、「睡眠時間」と、「寝だめ習慣」の情報を集めました。その上で、睡眠習慣と死亡との関係を調べました[3]。
(出典:Yoshiike T, et. al. “A prospective study of the association of weekend catch-up sleep and sleep duration with mortality in middle-aged adults” Sci Rep. 2022 Jan 7;12(1):189.)
すると、想像通り、睡眠時間が足りていない人は、寝だめのありなし、寝だめの量に関わらず、死亡リスクの推定値は高くなっていました。睡眠時間が足りている人は、寝だめをしない人と比較して、1時間未満の短い寝だめをした方が、死亡リスクが下がる結果でした。しかし、たとえ睡眠時間が足りている人でも、2時間以上の長い寝だめをした場合は、死亡リスクの推定値が高くなっていました。
このことから、以下のことがわかります。
昨今、睡眠時間の長さだけではなく、睡眠の質、つまり「睡眠で疲れがしっかり取れた感覚」が睡眠の指標として注目されています。この疲れが取れた感覚のことを、「睡眠休養感」といいます。
成人の「睡眠休養感」と死亡との関係について調べた以下のような研究があります[4]。
睡眠時間の長さ、「睡眠休養感」のありなしで、死亡リスクを比べました。
基準を睡眠時間がまあまあ(5.5〜6.9時間)の、「睡眠休養感」のある人(疲れが取れている人)とします。
すると、睡眠時間が短く(5.5時間未満)、「睡眠休養感」がない人(疲れが取れていない人)は、死亡リスクが1.5倍高い結果でした。逆に、睡眠時間が長く(6.9時間以上)、「睡眠休養感」がある人(疲れが取れている人)は、死亡リスクが0.55倍と低くなりました。
つまり、十分な時間、疲れが取れたと自分が感じる睡眠を取ることが重要であるといえます。
近年の日本人のデータ(国民健康・栄養調査)では、睡眠で休養が取れていると答えた人の割合は、およそ8割だそうです[5]。特に20歳以上の成人において7割程度と低く、残念ながら年々減少傾向を示しています。
質の良い睡眠のためには、まずは十分な睡眠時間の確保が最優先となります。
また、「睡眠休養感」のある睡眠のために、以下のようなことを心がけるとよいでしょう。
眠れないことに、何か別の病気が影響しているかもしれません。
以下のような症状が続く場合、医師にご相談ください。
[1] 厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド2023. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html
[2] Itani O, Jike M, Watanabe N, Kaneita Y. Short sleep duration and health outcomes: a systematic review, meta-analysis, and meta-regression. Sleep Med. 2017 Apr;32:246-256. doi: 10.1016/j.sleep.2016.08.006. Epub 2016 Aug 26. PMID: 27743803.
[3] Yoshiike T, Kawamura A, Utsumi T, Matsui K, Kuriyama K. A prospective study of the association of weekend catch-up sleep and sleep duration with mortality in middle-aged adults. Sleep Biol Rhythms. 2023 May 5;21(4):409-418. doi: 10.1007/s41105-023-00460-6. PMID: 38468822; PMCID: PMC10900010.
[4] Yoshiike T, Utsumi T, Matsui K, Nagao K, Saitoh K, Otsuki R, Aritake-Okada S, Suzuki M, Kuriyama K. Mortality associated with nonrestorative short sleep or nonrestorative long time-in-bed in middle-aged and older adults. Sci Rep. 2022 Jan 7;12(1):189. doi: 10.1038/s41598-021-03997-z. PMID: 34997027; PMCID: PMC8741976.
[5] 厚生労働省. 国民健康・栄養調査. https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html