GABAサプリに睡眠改善効果はない? その理由

こんにちは。睡眠プライマリケアクリニック池袋です。

近年、GABA(ギャバ)サプリメント・チョコレート等が注目を集めています。安眠にも効果があると聞きますが、本当のところはどうなのでしょうか?結論から申し上げると、GABAの含まれたサプリやチョコレートを摂取しても、睡眠にはほとんど影響がありません。この記事では、GABAがなぜ効果が無いのかについて、科学的エビデンスをもとに解説します。


GABAが睡眠に効果がない理由①:脳血液関門(BBB)を通り抜けられない

「γ-アミノ酪酸(ガンマアミノらくさん)」、通称「GABA」は、脳の中で非常に重要な役割を果たしている神経伝達物質です。これは脳内の神経細胞でグルタミン酸から合成されることで作られています[1]。脳内でグルタミン酸から生成されたGABAは、抑制系の役割を果たし、神経全体の活動性を低下させることで、睡眠・抗不安・ストレス緩和などの様々な効果を発揮します。(下図)

しかしながら、GABAは、脳血液関門(BBB: Blood Brain Barrier)を通過できないことが知られており、食品として摂取しても脳内に殆ど到達しません[2]。

脳血液関門とは、脳を様々な薬物・物質から保護するための機能で、脳への抗菌薬や薬剤の透過性は非常に低いことが知られています(下図)。透過できるのは、”非常に低分子である(分子量50-100未満)”・”脂溶性である”のどちらかの特徴を持つ物質だけであることが知られています。

GABAは中分子(分子量103)で、水溶性の物質です。どちらも当てはまらず、そのため、脳血液関門(BBB)を通過できません[2]。

GABAが睡眠に効果がない理由②:サプリメントで摂取するGABAの量では腸内細菌を変えるには不十分である

一部にはGABAが腸や腸内細菌を通じて影響を与えるとするような主張を見ることがあります。しかしながら、食事を通じて腸内細菌を変えるには継続的な食事摂取・食生活変容が必要であり、摂取する必要のあるGABAの量も多量になります(下図)。

一部の実験では、GABAの睡眠や腸内細菌の影響を確かめた論文がありますが、非常に高容量のGABA(200㎎/day以上)を使用しており、サプリメントで摂取する量を超えた量を使用しています[2,3]。しかも、実際にそのようにGABAの高容量の投与を行った複数の研究を統合して解析した研究(メタ解析)でも、睡眠に対するポジティブな影響は殆ど観察されなかったことが報告されています[3]。

GABAが睡眠に効果がない理由③:ほとんどの研究がCOI(利益相反)のある研究者によって報告されている

脳血液関門を通り抜けられないはずのGABAに「それでも効果はある」とする研究は、いくつか存在しています。例えば、末梢神経を通じて影響をするというものもあれば、脳血液関門を通り抜けられるレセプターがあるとの主張もあります(学術的には支持されていませんし、上記のメタ解析のように、複数の研究を信頼性の高い方法でまとめると、効果はほとんど消えてしまいます)。

しかしながら重要な点は、GABAの有用性を報告している研究の多くはCOI(利益相反: メーカーから研究費や報酬を提供されていたり、そもそもメーカーに雇用されていたりする状況)がある研究者によって報告されているということです。2020年にGABAと睡眠との効果について複数の論文を系統的に検討した研究では、収集されたすべての論文(11件)で著者にCOIがあることを報告しています[3]。COIがあることで、論文のデータがゆがむことは様々な研究で知られています。例えば、飲酒と脳卒中の関係では、飲料メーカーが支援した研究でポジティブな結果が出やすいことが知られており[4]、解析の過程で様々な(良い結果を出したいという)バイアスが入ってしまうと考えられています(下図)。

皆さんが見るGABAに睡眠改善の効果があるとする記事も、メーカーのものであったり、アフィリエイトのリンクが貼ってあるケースも多いのではないでしょうか? そのような記事は注意深く読む必要があります。

GABA生成をサポートする食事

別にサプリメントで摂取しなくても、GABAは私たちの体内や脳内で自然に生成されています。ただし、それには適切な「材料」が必要となります。食事からGABAを直接的に供給することは難しいですが、では、体内でGABAを円滑に合成するにはどうすれば良いかをご紹介します[5]。

  • タンパク質の摂取
    GABAの元となるのはグルタミン酸というアミノ酸で、このアミノ酸は特に肉、魚、大豆、卵といった、タンパク質が豊富な食品に多く含まれています。タンパク質が分解されると、グルタミン酸を含む様々なアミノ酸が体内にとりこまれます。また、茶などに含まれる別のアミノ酸の一種であるテアニンは、グルタミン酸の体内での輸送をサポートする役割をもっており、それもGABAの合成に役立つ可能性があります。
  • ビタミンB6の摂取
    グルタミン酸を分解してGABAを生成する際に、ビタミンB6が必要となります。ビタミンB6は、鶏肉、豆類、バナナ、大豆製品などに含まれています。

タンパク質やビタミンB6をしっかりと摂取することで、GABAやGABAの材料となる神経伝達物質の生成が促され、結果として快適な睡眠につながる可能性があります。しかし、栄養バランスが偏ってはいけません。タンパク質だけでなく、野菜や果物、炭水化物など、多様な食品群から栄養を得ることが重要です。主食・主菜・副菜のそろった食事を心がけましょう。実際に様々な疫学研究(=様々な人々の生活習慣を追跡して、健康状態の帰結を見た研究)でも、バランスの良い食事が睡眠の質を高めることが知られています[6][7]。

まとめ

経口摂取のGABAが睡眠の質を向上させることはできないものの、GABAを合成するのに必要な栄養素を含む食事は、より良い眠りに繋がることが分かっています。

睡眠の質を向上させるには、栄養バランスの整った食事を摂る、規則正しい睡眠習慣を身につける、過度なストレスに晒されない等といった基本的なライフスタイルの改善が最も大切です。
当院の記事が皆さまの睡眠改善の一助となることを願っております。

参考文献:

  1. Petroff OA. GABA and glutamate in the human brain. Neuroscientist. 2002 Dec;8(6):562-73. doi: 10.1177/1073858402238515. PMID: 12467378.
  2. Boonstra E, de Kleijn R, Colzato LS, Alkemade A, Forstmann BU, Nieuwenhuis S. Neurotransmitters as food supplements: the effects of GABA on brain and behavior. Front Psychol. 2015 Oct 6;6:1520. doi: 10.3389/fpsyg.2015.01520. PMID: 26500584; PMCID: PMC4594160.
  3. Hepsomali P, Groeger JA, Nishihira J, Scholey A. Effects of Oral Gamma-Aminobutyric Acid (GABA) Administration on Stress and Sleep in Humans: A Systematic Review. Front Neurosci. 2020 Sep 17;14:923. doi: 10.3389/fnins.2020.00923. PMID: 33041752; PMCID: PMC7527439.
  4. McCambridge J, Hartwell G. Has industry funding biased studies of the protective effects of alcohol on cardiovascular disease? A preliminary investigation of prospective cohort studies. Drug Alcohol Rev. 2015 Jan;34(1):58-66. doi: 10.1111/dar.12125. Epub 2014 Mar 7. PMID: 24602075; PMCID: PMC4441279.
  5. Gasmi A, Nasreen A, Menzel A, Gasmi Benahmed A, Pivina L, Noor S, Peana M, Chirumbolo S, Bjørklund G. Neurotransmitters Regulation and Food Intake: The Role of Dietary Sources in Neurotransmission. Molecules. 2022 Dec 26;28(1):210. doi: 10.3390/molecules28010210. PMID: 36615404; PMCID: PMC9822089.
  6. Shimura A, Sugiura K, Inoue M, Misaki S, Tanimoto Y, Oshima A, Tanaka T, Yokoi K, Inoue T. Which sleep hygiene factors are important? comprehensive assessment of lifestyle habits and job environment on sleep among office workers. Sleep Health. 2020 Jun;6(3):288-298. doi: 10.1016/j.sleh.2020.02.001. Epub 2020 Apr 28. PMID: 32360019.
  7. Godos J, Grosso G, Castellano S, Galvano F, Caraci F, Ferri R. Association between diet and sleep quality: A systematic review. Sleep Med Rev. 2021 Jun;57:101430. doi: 10.1016/j.smrv.2021.101430. Epub 2021 Jan 16. PMID: 33549913.