健康づくりのための睡眠ガイド(2023)の内容を詳細に紹介!(その1)

健康づくりのための睡眠ガイドとは何か?

厚生労働省により、約10年ぶりに、健康づくりのための睡眠指針が更新されました[1]。過去10年の研究内容の進展や、日本人の睡眠時間や睡眠環境の変化に合わせて、必要な対策をまとめている内容です。10年前に「健康づくりのための睡眠指針 2014」が策定されましたが、「睡眠による休養を十分とれていない者の割合」が増加してきている(2009年18.4%→2018年21.7%)現状があります(下図)。

今回更新されたガイドは”睡眠を改善させるために、個々人がどのような対策をしたら良いのか?”に踏み込んで、記載されているのが特徴です。今回から全5回の連載に分けて、ガイドの内容をご紹介します。本日は個々人・年齢ごとの必要な睡眠時間についてご紹介いたします。

年齢ごとに必要な睡眠時間が違うということを知っていましたか?

なんとなく皆さんもご存じだと思いますが、年齢によって睡眠時間にはかなりの差があります。子育てをされたことがある方々は赤ちゃんがとても長く寝ることを体感されていると思います。中学生や高校生も睡眠不足で居眠りばかりしていますよね。実は年齢ごとに必要な睡眠時間は異なると言われており、以下のような図に基づいて睡眠時間は変化することが知られています[1,2]。
(この図には、本人は眠っていると感じているが、気づかれない「脳波上は覚醒している」時間が含まれます。たとえば25歳では、睡眠に使える時間は7時間確保すれば良いというわけではなく、8時間程度は必要であることに注意が必要です)

しかし、実際日本人の睡眠時間は30代までの若者が睡眠時間が非常に短く、60代以上の高齢者が睡眠時間が長すぎる、という問題があることが知られています[3]。

ですから、今回の改訂では、年代別の適切な睡眠時間を理解して頂くということを目的として、厚労省が年代別の推奨事項を出しています。成人は最低でも6時間以上の睡眠時間の確保を、子どもは8時間以上の十分な睡眠時間を、高齢者はベッドの上に居すぎないことが重要です[1]。

個人の間でも、必要な睡眠時間は大きく異なります!

さらに重要な点として、個人の睡眠時間も非常に大きな差があることが知られており、今回のガイドでも紹介されています。例えば、20代の方の必要睡眠時間は8時間程度ですが、前後2時間程度に殆どの方が分布する(95%程度の方)と言われています[4,5]。実は個人ごとに異なる最適な睡眠時間の分布を正確に調べた研究は少ないのですが、日本の研究[4]やアメリカの研究[5]では、推奨時間の前後2時間程度に分布すると考えられており、米国や日本の推奨でも同様に考えられています[1,6]。

では、何をもとに最適な睡眠時間を考えたら良いのでしょうか?実は最も健康アウトカム(肥満、心臓病、うつ病、自殺、事故や怪我等)に関係するのは睡眠休養感・主観的満足度だということが、わが国、諸外国の様々な研究から分かっています[7-13]。

皆さんも、朝起きた時によく眠れたと思えていますか?、日中の活動に支障は出ていないでしょうか?

睡眠による休養感が損なわれている時には、是非自分の睡眠を見直してみてください。睡眠の質や休養感にて、お困りの方は、睡眠外来にて医師に相談し、改善の手立てを一緒に考えていくのも有効です。

まとめ

本日は厚労省の睡眠ガイドから年齢ごとに必要な睡眠時間と個人間での差についてご紹介しました。上記の内容を是非皆さまの日々の睡眠改善に活用頂ければ幸いです。それでも睡眠に困った際には睡眠外来を活用して頂き、皆さんの睡眠を一緒に良くしていくことをお手伝いさせていただきます。

当院の記事が皆さまの睡眠改善の一助となることを願っております。

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連載(その2)はこちらからご覧ください:成人期の睡眠

連載(その3)はこちらからご覧ください:こどもの睡眠

参考文献:

[1] 厚生労働省 2024年 健康づくりのための睡眠ガイド2023 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html

[2] Ohayon MM, Carskadon MA, Guilleminault C, Vitiello M V. Meta-analysis of quantitative sleep parameters from childhood to old age in healthy individuals: Developing normative sleep values across the human lifespan. Sleep 27: 1255-1273, 2004.

[3] 総務省 2016年 社会生活基本調査

[4] Kitamura S, Katayose Y, Nakazaki K, Motomura Y, Oba K, Katsunuma R, Terasawa Y, Enomoto M, Moriguchi Y, Hida A, Mishima K. Estimating individual optimal sleep duration and potential sleep debt. Sci Rep. 2016 Oct 24;6:35812. doi: 10.1038/srep35812. PMID: 27775095; PMCID: PMC5075948.

[5] Krueger PM, Friedman EM. Sleep duration in the United States: a cross-sectional population-based study. Am J Epidemiol. 2009 May 1;169(9):1052-63. doi: 10.1093/aje/kwp023. Epub 2009 Mar 18. PMID: 19299406; PMCID: PMC2727237.

[6] Hirshkowitz M, Whiton K, Albert SM, Alessi C, Bruni O, DonCarlos L, Hazen N, Herman J, Adams Hillard PJ, Katz ES, Kheirandish-Gozal L, Neubauer DN, O’Donnell AE, Ohayon M, Peever J, Rawding R, Sachdeva RC, Setters B, Vitiello MV, Ware JC. National Sleep Foundation’s updated sleep duration recommendations: final report. Sleep Health. 2015 Dec;1(4):233-243. doi: 10.1016/j.sleh.2015.10.004. Epub 2015 Oct 31. PMID: 29073398.

[7] Watson NF, Badr MS, Belenky G, Bliwise DL, Buxton OM, Buysse D, Dinges DF, Gangwisch J, Grandner MA, KushidaC, et al. Joint consensus statement ofthe American Academy of Sleep Medicine and Sleep Research Society on the recommended amount of sleep for a healthy adult: Methodology and discussion. J Clin Sleep Med 11: 931-952,
2015.

[8] Kim SJ, Lee YJ,Cho SJ,Cho IH, LimW, LimW. Relationshipbetween weekend catch-up sleep and poor performance on attention tasks in Korean adolescents. Arch Pediatr Adolesc Med165: 806-812, 2011.

[9] Montaruli A, Castelli L, Mulè A, Scurati R, Esposito F, Galasso L, Roveda E. Biological rhythm andchronotype: New perspectives in health.Biomolecules11: 487, 2021.

[10] Banks S, Van Dongen HP, Maislin G, Dinges DF. Neurobehavioral dynamics following chronic sleep restriction: dose-response effects of one night for recovery. Sleep 33: 1013-1026, 2010.

[11] Yoshiike T, Kawamura A, Utsumi T, Matsui K, Kuriyama K. A prospective study of the association of weekend catch-up sleep and sleep duration with mortality in middle-aged adults.SleepBiolRhythms, 2023.

[12] Yoshiike T, Utsumi T, Matsui K, Nagao K, Saitoh K, Otsuki R, Aritake-Okada S, Suzuki M, Kuriyama K. Mortality associated with nonrestorative short sleep or nonrestorative long time-in-bedin middle-agedand older adults.SciRep12: 189, 2022.

[13] Otsuka Y, Kaneita Y, Tanaka K, Itani O, Matsumoto Y, Kuriyama K. Longitudinal assessment of lifestyle factors associated with nonrestorative sleep in Japan. Sleep Med 101: 99-105, 2022.