子どもに早寝早起きは必要?

こんにちは、睡眠プライマリケアクリニック池袋です。

普段の診療で、中学生〜高校生(12〜18歳くらい)の方から「朝起きれない」「寝坊してしまう」「夜眠れない」「授業中に居眠りしてしまう」という相談を頂くことが数多くあります。またそれを心配した親御さんが受診を勧めて、いらっしゃるケースもございます。

前のコラムでも紹介したように、多くは睡眠のリズムの問題で、程度が重い場合には「概日リズム睡眠覚醒障害(睡眠リズム障害)」の「睡眠覚醒相後退障害(DSWPD/睡眠相後退症候群:DSPS)」と呼ばれています。

(こちらもご覧ください:夜になっても眠れない。朝になっても起きられない。〜リズム障害かもしれません〜

上記コラムでも紹介したように、これらの症状の多くは生活習慣やメラトニン受容体に作用する薬を用いた治療で改善できます。

しかしながら、時には「子どもは早寝早起きするべきでは?」と親御さんから強く言われたり、学校の先生が寝坊をする生徒に対して厳しい指導を行うケースもあります。都道府県によっては0時限といった授業や朝活などの朝早くからの部活動などを実施するケースもあります[1]。

睡眠医学の立場から親御さんや教育関係の方たちに知って頂きたい重要な事実は、中学生から高校生、20歳くらいまでは睡眠リズムが急速に夜型化するため、本来的に「早寝早起きは難しい」ということです。

下のグラフは、Till Ronnenbergという著名な睡眠医学者がヨーロッパの人たち2万5000人ほどを対象に、調査を行った結果を要約した図です[2,3]。横軸に年齢、縦軸にクロノタイプと呼ばれる休日の睡眠中央時間(sleep-corrected Midpoint of sleep in free days: MSFsc)をとっています。注目いただきたいのは、20歳頃までは睡眠中央時間(例えば、夜1時に寝て9時に起きれば睡眠中央時間は5時になります)が男女共に徐々に遅くなるということです。つまり20歳くらいまでは人はどんどん夜型化するのです。逆に20歳より先は歳をとると、睡眠中央時間は早くなり、朝型に変化していくことが分かります。

この結果は様々な研究[4,5,6]で再現されています。つまり、20歳前後の人が朝型の生活を行うのは非常に難しいのです。その年代の人達に早起きを強いると、睡眠不足により、日中の眠気や朝の起床困難を引き起こします(日本の高校生の9割が睡眠不足というデータ[7]もあります)。

勿論、睡眠のリズムには個人差がありますから、朝起きる事ができる人(朝が強い人)はいます。でもそれと同じくらい朝起きられない人(朝が弱い人)もいるのです。

実は、海外では中学校・高校の学校の始業時間を遅らせる取り組みが盛んです。アメリカ小児科学会は中学校・高校を8時30分以降の始業とすることを推奨する声明を2014年に発表しています[8]。学区や学校レベルでは、シアトル、イギリス、バージニア、コロラド、シンガポール、香港、韓国など多数の地域や学校が始業時刻を遅らせています。カルフォルニア州では公立中学校は8時以前、公立高校は8時30分以前の始業を禁止する条例が制定されています[9]。始業時刻を遅らせることで、睡眠時間が増加するだけでなく、自殺企図やうつの減少、肥満の減少、病欠の減少、交通事故の減少、成績の上昇など様々なメリットがあることが知られています[8,10,11,12,13]。イギリスの研究では、8時50分から10時まで始業時刻を遅らせた研究で成績でGoodの評価を受けた割合が12%増加し、病欠が55%減少したことから、8時30分よりも遅い始業時刻を推奨する研究者もいます[13]。

(上記はイギリスの研究[13]。赤の点線はイギリス全体の平均病欠率。10時の始業時刻で病欠が減少し、始業時刻が8時50分に戻ると、病欠も元に戻っています)

米国を中心に、Start School Later [14]という学校の始業時刻を遅らせるための研究者、医師や市民の活動があります。日本支部(Tokyo Chapter)[15,16]もあり、学校の始業時刻を遅らせ、子どもの睡眠時間を確保するための取り組みに国際的に協力しています(国際共同調査、カンファレンスや学会での意見交換・学会発表、学校の先生に向けた講演会などを実施しています)。

(上記:Start School LaterのWebsite)

今回はやや社会的な話題でしたが、学校の始業時間と睡眠について、少しでも正しい知識が提供できたら幸いに思います。

当クリニックでは子どもの睡眠の問題も扱っておりますので、何かお困りごとがありましたらいつでもお気軽に受診ください。

[1] 高校の“朝課外”「強制された」生徒の声相次ぐ 本来は任意のはずが… 福岡の県立高 西日本新聞 2018/4/18 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/409407.amp

[2] Foster, R. G., & Roenneberg, T. (2008). Human responses to the geophysical daily, annual and lunar cycles. Current biology : CB, 18(17), R784–R794. https://doi.org/10.1016/j.cub.2008.07.003

[3] Roenneberg, T., Kuehnle, T., Pramstaller, P. P., Ricken, J., Havel, M., Guth, A., & Merrow, M. (2004). A marker for the end of adolescence. Current biology : CB, 14(24), R1038–R1039. https://doi.org/10.1016/j.cub.2004.11.039

[4] Carrier, J., Monk, T. H., Buysse, D. J., & Kupfer, D. J. (1997). Sleep and morningness-eveningness in the ‘middle’ years of life (20-59 y). Journal of sleep research, 6(4), 230–237. https://doi.org/10.1111/j.1365-2869.1997.00230.x(1997).

[5] Fischer, D., Lombardi, D. A., Marucci-Wellman, H., & Roenneberg, T. (2017). Chronotypes in the US – Influence of age and sex. PloS one, 12(6), e0178782. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0178782

[6] Randler, C., Faßl, C., & Kalb, N. (2017). From Lark to Owl: developmental changes in morningness-eveningness from new-borns to early adulthood. Scientific reports, 7, 45874. https://doi.org/10.1038/srep45874

[7] 片岡千恵ら(2014)我が国の高校生における危険行動と睡眠時間との関連,日本公衛誌,第61巻第9号

[8] CNN October 14, 2019: California pushes back school start times for middle and high school students https://edition.cnn.com/2019/10/14/health/california-later-school-start-times-trnd/index.html

[9] Adolescent Sleep Working Group, Committee on Adolescence, & Council on School Health (2014). School start times for adolescents. Pediatrics, 134(3), 642–649. https://doi.org/10.1542/peds.2014-1697

[10] Wheaton, A. G., Chapman, D. P., & Croft, J. B. (2016). School Start Times, Sleep, Behavioral, Health, and Academic Outcomes: A Review of the Literature. The Journal of school health, 86(5), 363–381. https://doi.org/10.1111/josh.12388

[11] Owens, J. A., Dearth-Wesley, T., Herman, A. N., Oakes, J. M., & Whitaker, R. C. (2017). A quasi-experimental study of the impact of school start time changes on adolescent sleep. Sleep health, 3(6), 437–443. https://doi.org/10.1016/j.sleh.2017.09.001

[12] Chan, N. Y., Zhang, J., Yu, M. W., Lam, S. P., Li, S. X., Kong, A. P., Li, A. M., & Wing, Y. K. (2017). Impact of a modest delay in school start time in Hong Kong school adolescents. Sleep medicine, 30, 164–170. https://doi.org/10.1016/j.sleep.2016.09.018

[13] Kelley, P., Lockley, S. W., Kelley, J., & Evans, M. (2017). Is 8:30 a.m. Still Too Early to Start School? A 10:00 a.m. School Start Time Improves Health and Performance of Students Aged 13-16. Frontiers in human neuroscience, 11, 588. https://doi.org/10.3389/fnhum.2017.00588

[14] Start School Later Website: https://www.startschoollater.net/

[15] Start School Later プロジェクト(日本版): https://startschoollater.esleep.jp/

[16] Welcome to ​Start School Later Tokyo, Japan! https://www.startschoollater.net/jp—tokyo.html