当院の過去の記事で、睡眠リズム障害について説明をしてきました(参考記事・参考記事・参考記事)。睡眠リズム障害は、睡眠障害国際分類(ICSD-3)では”概日リズム睡眠・覚醒障害(CRSWD: Carcadian rhythm sleep–wake disorders)”と呼ばれており、いくつかの種類があります1。今日はCRSWDについて説明していきましょう。
CRSWDとはどのような問題を指すのでしょうか?
以前のコラムで取り上げた通り2、人間は約24時間のサーカディアンリズム(概日リズム)に従って、多くの場合には朝に目が覚め、夜には眠ります。
一日の活動が終わりが近づくと、身体は眠る準備を始めます。夜になると、「メラトニン」というホルモンが増えて、次第に眠くなります。そして朝が近づくと、今度は身体を目覚めさせる「コルチゾール」が増えて、起きられるようになっています。
CRSWDとは、この睡眠と覚醒のリズムがうまく調整できなくなったり、あるいは、その自らのリズムが社会と適合できなくなることです。
睡眠のタイミングがズレてしまい、朝起きられなかったり、日中に眠気が残ったりと、CRSWD患者さんは日常生活でつらい思いをします。
CRSWDの代表的な種類は6つあります3。
睡眠・覚醒相後退障害の場合、寝る時間や起きる時間が遅くなってしまいます。いわゆる「遅寝遅起き」です。
睡眠日誌では以下のようなリズムになります。(※睡眠日誌の説明はこちら)
睡眠・覚醒相後退障害はCRSWDの中で最もよく見られるタイプであり、特に10代の若年者に多いことが知られています。実際、ノルウェーの研究結果では、16–18歳の3.3%が睡眠・覚醒相後退障害であったと報告されています4。過去に紹介しているリズム障害に関するブログ記事(夜になっても眠れない。朝になっても起きられない。〜睡眠リズム障害かもしれません〜等)でも、主に睡眠・覚醒相後退障害について説明しています。
こちらは、「早寝早起き」を指します。
一見、「早寝早起き」は良いことのように思えます。
しかし、睡眠・覚醒相前進障害の場合、その時間が極端で、夕方にはもう眠くなって寝てしまい、その結果夜中に目が覚めてしまったりします5。睡眠日誌では、以下のようなリズムになります。
睡眠・覚醒相前進障害は遺伝的な影響に加えて、加齢によるものが大きいとされており、お年寄りによく見られます6。
不規則睡眠・覚醒リズム障害は、慢性的な睡眠・覚醒リズムの乱れを指します。
乱れたリズムで断片的な睡眠(4時間未満)を取っていることから、日中何度も急な眠気に襲われたりします7。睡眠日誌は以下のような形になります。
どの程度の人に不規則睡眠・覚醒リズム障害が見られるのか具体的な数字はまだ報告されていませんが、重度の精神・神経疾患や、認知症などに多く見られると言われています。生活習慣、食生活、精神疾患等、様々な要因が発症に関わっていると考えられています。
非24時間睡眠・覚醒リズム障害は、全盲の方や、光による体内時計の調節機構が弱い方、そして体内時計の周期が24時間を大きく超えて長い方に起こりやすいとされています。
光はメラトニンを分泌させ、24時間の体内時計を維持するために重要な役割を果たしています8。そのため、光を十分に浴びられていない環境にいる方、全盲の方、遺伝的に光による体内時計調節機能が弱い方は、睡眠・覚醒の概日リズムが24時間から少しずつズレて長くなり、周期的に睡眠障害(入眠困難・起床困難)や日中の眠気を引き起こします。睡眠日誌の例は以下のような形になります。
実際、全盲の方で睡眠障害に悩んでおられる方は多く、フランスの研究では、全盲の方(n=793)の83%が睡眠に問題を抱えているという結果であり9、少なくない割合は非24時間睡眠・覚醒リズム障害(Non-24)であると考えられています。
交代勤務障害とは、不規則な交代勤務制により概日リズムがズレてしまい、不眠症や眠気を引き起こし、労働者のQOLを著しく下げてしまいます。
交代勤務の夜勤のスケジュールに従い睡眠スケジュールが変わります。夜勤が2回の睡眠日誌の例は以下のようになります。
「交代勤務」という用語には一貫した定義はありませんが、米国の研究などでは「勤務の一部が夜7時から朝6時までの間にある場合」と定義されています10。2018年の国民健康・栄養調査の結果によると、20歳以上の日本人口の8.4%が交代勤務に就いているようです11。
時差障害(通称「時差ボケ」)は、他と比較して多くの方が深刻にとらえないことが多いです。
しかし時差障害はれっきとした概日リズムの乱れによる睡眠障害の一種です12。
タイムゾーンをまたぐ東西への移動をした時に、移動後2日以内に全身倦怠感、頭痛、不眠症などの症状が出るのが時差障害です。時差障害はただの旅行疲れとは異なります。旅行疲れはタイムゾーンをまたいでもまたがなくても起こります。しかし、時差障害はタイムゾーンをまたがない南北の移動では起こりません。
早く現地の時間に合わせて活動したい場合の対処法としては、現地で光を浴びることが重要であり、西行きの旅行の後は夕方、東行きの旅行の後は朝に明るい光を浴びることが推奨されています。
NBAチームは東に移動すると負けやすい?
2011〜2021年のNBAチーム(北米のプロバスケットボールチーム)の全11481の試合データを使い、チームの移動の向きと、勝敗に関係があるか調べた面白い研究があります13。
研究では、以下の3つで、チームの成績に違いがあるか比べました。
– 東向きの時差障害
– 西向きの時差障害
– 時差障害なし
結果は、「西向きの時差障害」は大きな影響はありませんでした。
しかし、時差により1日の時間が短くなるため睡眠リズムを崩しやすい「東向きの時差障害」は、チームの勝率を6%も下げていました。睡眠リズムを後退させる西向きへの移動に比べて、東向きへの移動は睡眠リズムを前進させる必要があるため、アスリートにとって適応が難しかったのだと考えられます。
このことから、時差障害はアスリートのコンディションにまで影響を与えることが分かります。
CRSWDを把握するために重要なのが、睡眠日誌です。(当院で使用している睡眠日誌はこちらです。)
睡眠日誌は、睡眠スケジュールだけではなく、その日の気分・体調や、布団に入っていたが眠れなかった時間も記録できるようになっています。睡眠日誌は、あなたの睡眠状態をあらわす大切な情報です。なので、当院で睡眠の相談をされる際には、可能でしたら記入済の睡眠日誌を持参いただければと思います。
(※難しければ、診察当日スタッフがご説明いたしますので、お気軽にご相談ください)。
そして、CRSWDの種類を特定したら、クリニックで行う治療だけではなく、ご自宅でも生活環境を整えていくことが重要です。
今までにご紹介した睡眠のコツもぜひ参考にしてください。