高校生の眠気と夜ふかし、その理由は?

こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。今日はある論文[1]を題材に、高校生の睡眠についてご紹介したいと思います。 

高校生は体内時計の変化によって夜型傾向が強まりやすく、夜ふかしや朝の起きづらさ、日中の眠気が起こりやすい傾向にあります(参考記事)。これらの問題の背景にはカフェイン摂取や電子機器の使用、照明環境、食事のタイミングなどの生活習慣が深く関係していることが示唆されています。しかし、従来の研究ではこれらの要因を個別に検討しているものが多く、生活習慣の相互作用やその総合的な影響については十分に検討されていませんでした。そこで、東京医科大学の志村哲祥医師らの研究グループは、高校生を対象に、生活習慣が睡眠の質や日中の眠気、クロノタイプにどのような影響を与えているのかを包括的に調査しました。これにより、高校生特有の睡眠問題の背景をより詳しく明らかにすることを目指しました。

高校生294人に聞いた生活習慣と睡眠の関係

本研究では、東京都内の高校生344名を対象にアンケート調査を実施し、そのうち294名の完全回答を分析対象としました。調査では、以下の評価指標が用いられました。

  • 人口統計:年齢・性別など
  • ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI):睡眠障害の度合いを評価(高スコアほど重症)
  • 子どもの日中眠気尺度(PDSS):日中の眠気を評価(高スコアほど重症)
  • クロノタイプ尺度:朝型・夜型の傾向を測定
  • 生活習慣の質問項目:夕食時間、カフェイン摂取、電子機器の使用、朝の太陽光を浴びるか、夜間の照明など

統計解析から見えた睡眠問題と生活習慣の関係

まず人口統計データより、約半数の生徒(53.1%)がが睡眠障害があるとされるPSQIスコア6以上であることが分かりました。日中に強い眠気を感じている生徒は43.9%、夜型傾向を持つ生徒は46.6%と、多くの生徒に何らかの睡眠の問題があることが分かります。これらの睡眠の問題と生活習慣との関連を明らかにするために2つの異なる統計手法を用いて分析が行われました。

多変量ロジスティック回帰分析

生活習慣などの要因が、睡眠障害があるかどうか、日中の眠気があるかどうか、夜型傾向があるかどうかという“ある/ない”の2択の状態に与える影響を「オッズ比(OR)」という形で数値化しました。オッズ比が高いほどその要因によってリスクが高まることを意味しています。
この分析より以下のようなことが明らかになりました:

  • ベッドで電子機器を使用することは約3倍(OR=3.01)、夜間のカフェイン常用は約2倍(OR=2.22)睡眠障害のリスクを高めていた。
  • 夕食の時間が不規則であることは約2倍日中の眠気のリスクを高めていた(OR=2.06)。
  • 夜間に明るい部屋で過ごすことは約2倍夜型傾向であった(OR=1.89)。
【多変量線形回帰分析】

睡眠に関連するスコア(PSQI、PDSS、クロノタイプ)を“連続的な点数”とし、その点数にどの要因がどれくらいの影響を与えているかが「回帰係数(β)」として示されています。値が大きいほど影響が大きいことを意味しています。
この解析から以下のことが分かりました:

  • 部活動に所属していない、または運動を伴わない部活動に所属している生徒はPSQI(睡眠障害の程度)が高い傾向にあった(β=0.233、0.115)。
  • 夕食の時間の不規則さベッド内でのディスプレイ使用はPDSS(日中の過度の眠気の程度)を高めていた(順にβ=0.182,0.150)。
  • ベッド上での電子機器使用朝に太陽光が入らない部屋で寝ていることはクロノタイプが夜型傾向であった(β=0.239、β=0.139)。

これらの結果から、電子機器の使用習慣、食事の時間、カフェイン摂取、光環境といった日常的な生活習慣が、睡眠の質や眠気、生活リズムに対して明確に影響を及ぼしていることが分かりました。つまり、睡眠の質を向上させるには、生活リズムの見直しや電子機器の使用制限、光環境の整備など、多方面からのアプローチが求められます。

睡眠障害の背景にある“夜型”というリスク

睡眠の問題と生活習慣との関連だけでなく、「夜型傾向」「睡眠障害」「日中の眠気」の3つの睡眠の問題同士の関係を調べるために、構造方程式モデリングという方法を用いて分析が行われました。

その結果、夜型の生活傾向が強い人ほど、睡眠の質が悪くなりやすい関係、睡眠の質が悪いと、日中の眠気が強くなるという関係が明らかになりました。つまり、夜型傾向がある人は、睡眠の質が下がり、その結果、日中の活動にも影響が出てしまうという「夜型傾向→睡眠障害→日中の眠気」の流れが統計的に裏付けられたのです。さらに、夜型であることは睡眠の質を下げるだけでなく、それとは別に直接的にも日中の眠気を引き起こすという「夜型傾向→日中の眠気」の流れも有意な結果として得られました。

一人ひとりに合った睡眠習慣の見直しを

本研究から、生活習慣が高校生の睡眠の質、日中の眠気、クロノタイプにそれぞれ異なる形で影響していることが分かりました。また、睡眠障害や夜型傾向、日中の眠気といった問題が、個別ではなく密接に関連し合っていることが明らかになりました。

夜型傾向が強い人には「夜の電子機器使用を控える」こと、睡眠の質が悪い人には「夜のカフェイン摂取を避ける」こと、日中の眠気が強い人には「夜の電子機器使用を控える」ことに加えて、「夕食の時間を規則的にする」といったようにそれぞれの問題に応じた介入が重要でです。一人ひとりの状態に応じて、優先的に改善すべき習慣を見極め、実行していくことがより良い睡眠を得るための第一歩となります。

参考文献

[1] Shimura, A., Hideo, S., Takaesu, Y., Nomura, R., Komada, Y., & Inoue, T. (2018). Comprehensive assessment of the impact of life habits on sleep disturbance, chronotype, and daytime sleepiness among high-school students. Sleep medicine44, 12–18. https://doi.org/10.1016/j.sleep.2017.10.011