当院に職員の服装規定がない理由

当院ではスタッフ(医師/事務等)の服装規定を設けておりません。制服は存在せず、公共の場で着用していて問題がないものであること(例:不潔でない、過度な露出がない、人と接触した際に危険がない)のみを要件としております。スタッフの働きやすさを鑑みての部分もありますが、より大切な観点がございますのでご紹介させて頂きます。

心理学的に取り扱われる「認知の歪み」の一種に、社会通念上の役割を自他へ強く求めがちで、かつ、それが破られると怒りなどを感じる「でなければならない思考」「であるべき思考」(cognitive distortions: should statements / must statements)というものがあります。

※この度合いを定量化する時には、Q.「周囲(世界)がどのようにあるべきかについてのルールのリストのようなものがあり、そのルールがおかされると、怒りを感じる」、 A.「1:全くそうではない」~「5:常にそう」などのような質問を用います。(“You have a list of how the world should work. When the rules are violated, you feel angry.”)[1]

この思考は、本来は不要な怒りの感情を生むだけではなく(他者の行為やあり方が自らに危害を加えているわけではないのに怒りを感じている状態であり、「自分が軽視されている」「あいつはみんなと違うことをする悪いやつだ」のような不合理な自動思考がベースに存在することが多いです)、抑うつ・不安を生じるリスクともなります[2,3]。

認知の歪みの実情に関する多国間比較の研究は乏しいものの、公共交通機関の運転手が就労中に飲水をしたり、警察官や消防士、救急隊員、自衛官等が就労中に制服でコンビニエンスストアに立ち寄って買い物をしたりすることがクレームの対象となりうる日本では、この認知の歪みを持つ方が多いことが推察されます。

良好な睡眠づくりと、健やかなメンタルヘルスの増進をお手伝いすることがミッションである当院では、そのような認知の歪みを追認し増長させるような体制をとらないというポリシーを採用しております。つきましては「医療従事者らしい服装」や「フォーマルな服装」をスタッフに強制することを敢えて行っておりません

(医師は白衣を着用していることが多いですが、これは採血や処置をするための作業着という側面がございます。白衣に恐怖感のある小児の方等の診察の場合には着脱可能ですので必要に応じてご連絡ください)

ご理解賜われれば幸いでございます。

一方、患者様に実害の生じる服装類があった場合には(例えば、不潔である、露出が激しく視線に困る、鋭利な装飾品をつけており身の危険がある、等)、忌憚なくご指摘ください。

何卒宜しくお願い致します。

引用文献:

[1] Covin, Roger, et al. “Measuring cognitive errors: Initial development of the Cognitive Distortions Scale (CDS).” International journal of cognitive therapy 4.3 (2011): 297-322.

[2]Wilson, Coralie J., et al. “The role of problem orientation and cognitive distortions in depression and anxiety interventions for young adults.” Advances in Mental Health 10.1 (2011): 52-61.

[3] Mercan, Neşe, Melisa Bulut, and Çiğdem Yüksel. “Investigation of the relatedness of cognitive distortions with emotional expression, anxiety, and depression.” Current Psychology 42.3 (2023): 2176-2185.