睡眠には生活習慣だけでなく、「環境」も大事であることをこれまでにお伝えしてきました。
例えば、「夜間の騒音」が睡眠に良くない1のは勿論のこと、「枕(低すぎても高すぎても睡眠の質が低下)」2や「季節(睡眠時間が夏は短く、冬は長くなる)」3等も睡眠に影響を及ぼすことが分かっています。
このコラムでは、「就寝時の明かり」がどう睡眠に影響するかについて簡単にご説明します。
「真っ暗闇じゃないと寝れない」
「夜中トイレに行くから豆電球だけつける」
「暗いのは怖いし電気つけたまま寝る」
…など、誰かと就寝時の明かりについて話したことがある方は多いのではないでしょうか。
人間は寝ている時に、光を感知しているのでしょうか?
日本人大学生33名を対象に、目を閉じた状態でどのくらい光が見えているのか調査した研究があります4。それによると、以下のように、目を閉じた状態でも光の色はある程度見えているという結果でした。
Table 1. 目を閉じた状態でどのくらい色が分かるのか?(被験者33名の結果)
光の色 | 赤色 | 黄色 | 緑色 | 青色 | 白色 |
---|---|---|---|---|---|
実効透過率*の平均値(%) | 52.4 | 26.2 | 21.6 | 4.5 | 42.7 |
(*まぶたによる減衰の直接的な測定ではなく、まぶたを通じて知覚される光の強さの変化から、実効透過率を計算。なお、先行研究よりも高い透過率であることから、知覚を考慮した際の減衰率は低い可能性があることが論文内で言及されている
よって、寝る時の光は見えている、光の色も透過率に影響する、ということが分かります。
では、睡眠時の明かりは睡眠状態にどのように影響するのでしょうか?
韓国人の大学生28名を対象に、睡眠時のほのかな明かりがどの程度睡眠に影響するのかを調べました5。参加者を2グループに分け、Aグループの寝る時の明かりを「5ルクス(暗い)6」、Bグループを「10ルクス(薄明かり)7」に設定しました(※ルクスとは明かりの単位で、数字が大きいほど明るくなります)。
どちらのグループも可能な限り同じ状態で寝る前の時間を過ごし(例: 服薬しない、飲酒・カフェインは摂取しない)、就寝時の部屋の明るさだけ違う状態にしました。実験前夜と1日目は暗闇で就寝し、2日目のみ違う明るさのなか就寝しました。寝る時間は夜の11時から朝の7時に設定し、それぞれ睡眠状態を調べました。
そうすると、「10ルクス(薄明かり)」の明るさの部屋で眠ったBグループは、より大幅に「睡眠時間」が短く、「睡眠効率」が低くなっていました。
Table 2. Aグループ(5ルクス※暗い)とBグループ(10ルクス※薄明かり)の睡眠状態の比較
睡眠指標 | 実験日 | Aグループ | Bグループ |
---|---|---|---|
睡眠時間(分) | 1日目 | 441.9(暗闇) | 446.9(暗闇) |
↳2日目 | ↳429.0(5ルクス) | ↳432.8(10ルクス) | |
睡眠効率(%) | 1日目 | 95.9(暗闇) | 96.8(暗闇) |
↳2日目 | ↳94.4(5ルクス) | ↳95.1(10ルクス) |
以上の実験から、たとえほのかな明かりであっても、睡眠状態を悪化させると考えられます。実際、今回は詳細な内容を紹介しませんでしたが、システマティックレビューと呼ばれる複数の論文を統合した研究8でも、夜間の室内の少量の光曝露(5.8 nW/cm2/sr~=緑色の波長の時に6lux程度~)によって睡眠障害が増えることが示されています。
良い睡眠のために、今までご紹介した良い睡眠環境9に、「出来るだけ暗い場所で眠る」という項目をぜひ足してみてください。