亜鉛と睡眠 〜バランスの良い食事を〜

こんにちは。睡眠プライマリケアクリニック池袋です。

睡眠外来で「寝られない」「途中で目が醒めてしまう」といった相談を受けた際に、様々な食事に関する質問を外来中にさせて頂くことがございます。食事では食事のリズムや鉄分(フェリチン)が睡眠に関わっていることが分かっていますが、近年注目されている睡眠に重要な微量元素として亜鉛(Zn)があります。

亜鉛は体内に2g程度存在する微量元素で、主に骨格筋、骨、皮膚、肝臓、脳、腎臓などに分布しています(1)。亜鉛は体内で1000個以上のタンパク質と結合して働く可能性があると言われ、その割合はヒトプロテオームの10%にも相当すると言われています(2)。亜鉛は、欠乏により味覚異常、皮膚炎、脱毛、貧血、口内炎、男性の性機能異常、易感染性、骨粗しょう症などが発症するということが知られています(1,3)。特に味覚障害や食欲不振と亜鉛欠乏は関連するため、亜鉛欠乏自体が他の栄養素の摂取も減らして、睡眠障害に関連するというサイクルもみられます。

日本人は平均的には摂取量が少ないことが知られており、日本人を対象にした調査では、摂取推奨量よりもやや低く、平均的には亜鉛欠乏になっていることが知られています(3)。ただし、個々人の亜鉛量は採血をしないことには分かりませんので、採血をして確認させて頂くことがあります(過剰症のリスクもあるため、サプリメント等を内服する際は必要量を守り、定期的な採血によって血清亜鉛を確認することが必要と考えられます)。

亜鉛のカットオフをどのラインで引くかは、研究が多数あり、議論が続いていますが、日本臨床栄養学会は60〜80μg/dlを潜在的亜鉛欠乏、60μg/dl未満を亜鉛欠乏としています(4)。研究によっては、100μg/dl以上の血清亜鉛が7-9時間程度の睡眠時間と関連するとした研究もあります(5)。

亜鉛欠乏は不眠や睡眠障害と関連することが知られており、文献を系統的に集めた研究でも、欠乏が不眠の症状と関連することが知られています(6)。ランダム化比較試験でも、亜鉛摂取により睡眠の質が改善したと報告されるものがあります(7,8)。

摂取の方法として、内服薬を処方する事もありますが、最終的にはバランスの良い食事をお願いすることがあります。食事摂取のバランスの欠如によって亜鉛欠乏になっている場合には、その他の栄養素(鉄、マグネシウム、葉酸、ビタミンD、タンパク質など)が不眠に影響していることもあり、食事の改善が必要なケースもあるためです(6,9,10,11)。

食事の摂取時には、フィチン酸(雑穀などに入っています)、アルコール、コーヒーやお茶(タンニン)、食物繊維、乳製品やカルシウムが吸収を妨げます。一方で、タンパク質やビタミンC、クエン酸などは吸収を促進するため、食事と一緒に摂取することでより効率的に摂取することができます。

当院では、眠りの問題について、上記のようなアプローチも行っており、初診時に採血を行わせて頂くこともございます。不眠や睡眠障害にて、お困りの方はお気軽にご来院下さい。

1) 公益財団法人長寿科学振興財団.  亜鉛の働きと1日の摂取量 健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/mineral-zn-cu.html

2) Andreini, C., Banci, L., Bertini, I., & Rosato, A. (2006). Counting the zinc-proteins encoded in the human genome. Journal of proteome research, 5(1), 196–201. https://doi.org/10.1021/pr050361j

3) 児玉 浩子ほか:日本臨床栄養学会雑誌 38(2) : 104-148, 2016.

4) 日本臨床栄養学会 2018. 亜鉛欠乏症の診療指針 2018. http://jscn.gr.jp/pdf/aen2018.pdf

5) Zhang, H. Q., Li, N., Zhang, Z., Gao, S., Yin, H. Y., Guo, D. M., & Gao, X. (2009). Serum zinc, copper, and zinc/copper in healthy residents of Jinan. Biological trace element research, 131(1), 25–32. https://doi.org/10.1007/s12011-009-8350-9

6) Ji, X., Grandner, M. A., & Liu, J. (2017). The relationship between micronutrient status and sleep patterns: a systematic review. Public health nutrition, 20(4), 687–701. https://doi.org/10.1017/S1368980016002603

7) Saito, H., Cherasse, Y., Suzuki, R., Mitarai, M., Ueda, F., & Urade, Y. (2017). Zinc-rich oysters as well as zinc-yeast- and astaxanthin-enriched food improved sleep efficiency and sleep onset in a randomized controlled trial of healthy individuals. Molecular nutrition & food research, 61(5), 10.1002/mnfr.201600882. https://doi.org/10.1002/mnfr.201600882

8) Gholipour Baradari, A., Alipour, A., Mahdavi, A., Sharifi, H., Nouraei, S. M., & Emami Zeydi, A. (2018). The Effect of Zinc Supplementation on Sleep Quality of ICU Nurses: A Double Blinded Randomized Controlled Trial. Workplace health & safety, 66(4), 191–200. https://doi.org/10.1177/2165079917734880

9) Sato-Mito, N., Sasaki, S., Murakami, K., Okubo, H., Takahashi, Y., Shibata, S., Yamada, K., Sato, K., & Freshmen in Dietetic Courses Study II group (2011). The midpoint of sleep is associated with dietary intake and dietary behavior among young Japanese women. Sleep medicine, 12(3), 289–294. https://doi.org/10.1016/j.sleep.2010.09.012

10) Hashimoto, A., Inoue, H., & Kuwano, T. (2020). Low energy intake and dietary quality are associated with low objective sleep quality in young Japanese women. Nutrition research (New York, N.Y.), 80, 44–54. https://doi.org/10.1016/j.nutres.2020.06.002

11) Komada, Y., Narisawa, H., Ueda, F., Saito, H., Sakaguchi, H., Mitarai, M., Suzuki, R., Tamura, N., Inoue, S., & Inoue, Y. (2017). Relationship between Self-Reported Dietary Nutrient Intake and Self-Reported Sleep Duration among Japanese Adults. Nutrients, 9(2), 134. https://doi.org/10.3390/nu9020134