みなさん、こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。
7月になり、暑さが本格的になってきましたね。室温が暑すぎると、眠りづらくなることは経験的にご存知かと思いますが、その科学的根拠が近年明らかになってきました。
本記事では、室温と睡眠の関係について最新の研究知見を解説するとともに、暑い日における快適な睡眠のためのコツをお伝えします。
寝室の温度が高すぎると、良質な睡眠が妨げられることが知られています。Chevance らのレビュー論文[1]では、高い屋内の温度が睡眠の質や量を低下させることが示されました。この傾向は、高齢者、暖かい地域でより顕著でした。
加えて今後は、”地球温暖化により夜間の温度が上昇していくこと”や”我々の身体の環境への適応よりも温度上昇のスピードが早いこと”から、更に睡眠の量や質が悪化する可能性が高いと結論付けています。
では、夏の高すぎる室温やそれに伴う睡眠障害に対してどのように対処をするのが有効でしょうか?当然、室温を下げることは有効であり、エアコン代を惜しまず室温管理を適切に行うことが重要です。一般的に室温26度以下が望ましいとされますが[1]、個人差もあるので自分に合った温度を見つけましょう。
他の対策として、室温下げる以外の方法もあります。就寝前のぬるま湯でのシャワー[2]、夕方以降のサウナのルーチン活用と順応による改善[3]、扇風機の使用(湿度30%未満の時のみ有効)[4,5,6]、日中の十分な水分補給・薄めの寝具・薄手の綿の衣服の活用[7,8]などの有効性が報告されています。定期的な身体活動によって気温への順応性を高めることも、有効性の報告があります[9,10]。クーラーでの温度調整が難しい場合や、より高い効果を得るためには上記のような手段を用いるのも良いでしょう。
むずむず脚症候群は下肢の不快感を主な症状とする睡眠障害です(参考記事:手足がむずむず・そわそわする?むずむず脚症候群ってどんな病気?)が、むずむず脚症候群の症状にも季節性があることが報告されています。Liguori らの研究[11]では、むずむず脚症候群の重症度やむずむず脚に伴う日中の眠気は、冬に比べて夏に増悪することが示されました。特に男性や暖かい地域でこの傾向が顕著でした[11]。
文献[11]より。季節ごとのIRLS(国際むずむず脚症候群重症度スケール)が夏の方が悪いことが分かる
論文の中では、暑さがむずむず脚を悪化させる原因として、夏季中の血清フェリチンやトランスフェリンの減少[12]、微小血管による温度調節能力の低下[13,14]、発汗能力の低下[15]等が挙げられています。汗をかきにくかったり、鉄欠乏の傾向がある方は、夏季の室温管理にはより一層注意が必要ですね。定期的な運動で汗をかきやすくすることやバランスの良い食事も重要です。夏はついつい、部屋に閉じこもって、食も細くなってしまいがちですが、食事や運動にも積極的に取り組んでいきたいですね。
健康的な睡眠のためには、寝室の室温を適切に保ちながら、生活習慣を整えていくことが重要です。今回は暑さにフォーカスした対策をご紹介しましたが、暑い日で睡眠の質が下がるからこそ、一般的な対策(カフェイン・ニコチン・アルコール・昼寝の回避、ストレス管理、睡眠リズムの規則性の維持、騒音や人工光管理など対策)もより重要であるとされています[1]。(参考記事:健康づくりのための睡眠ガイド(2023)の内容を詳細に紹介!(その2)成人期の睡眠)
暑さと睡眠の関係を理解し、上手に室温管理を行いながら、他の対策も併用することで、ぐっすりとした心地よい眠りを得ていきましょう。この記事があなたの睡眠の改善の一助となれば幸いです。
参考文献
[1] Guillaume Chevance, Kelton Minor, Constanza Vielma, Emmanuel Campi, Cristina O’Callaghan-Gordo, Xavier Basagaña, Joan Ballester, Paquito Bernard,A systematic review of ambient heat and sleep in a warming climate,Sleep Medicine Reviews,Volume 75,2024,101915,ISSN 1087-079
[2] K. Kräuchi, T. Deboer. Body temperatures, sleep, and hibernation. Prin Prac Sleep Med, 5 (2011), pp. 323-334
[3] A. Buguet, M.W. Radomski, J. Reis, P.S. Spencer. Heatwaves and human sleep: stress response versus adaptation. J Neurol Sci, 454 (2023 Nov 15), Article 120862
[4] O. Jay, A. Capon, P. Berry, C. Broderick, R de Dear, G. Havenith, et al. Reducing the health effects of hot weather and heat extremes: from personal cooling strategies to green cities Lancet, 398 (10301) (2021 Aug 21), pp. 709-724
[5] N.M. Ravanelli, O. Jay. Electric fan use in heat waves: turn on or turn off? Temperature, 3 (3) (2016 Jul 2), pp. 358-360
[6] D. Gagnon, C.G. Crandall. Electric fan use during heat waves: turn off for the elderly?Temperature, 4 (2) (2017 Apr 3), pp. 104-106
[7] E. Altena, C. Baglioni, E. Sanz-Arigita, C. Cajochen, D. Riemann. How to deal with sleep problems during heatwaves: practical recommendations from the European Insomnia Network J Sleep Res (2022 Sep 8), Article e13704
[8] T.A. Deshayes, J.D. Périard. Regular physical activity across the lifespan to build resilience against rising global temperatures eBioMedicine [Internet], 96 (2023 Oct 1).
[9] H.A. Brown, T.H. Topham, B. Clark, J.W. Smallcombe, A.D. Flouris, L.G. Ioannou, et al. Seasonal heat acclimatisation in healthy adults: a systematic review. Sports Med, 52 (9) (2022 Sep), pp. 2111-2128.
[10] S.A. Morrison. Moving in a hotter world: maintaining adequate childhood fitness as a climate change countermeasure. Temperature, 0 (0) (2022 Aug 4), pp. 1-19
[11] Liguori C, Holzknecht E, Placidi F, Izzi F, Mercuri NB, Högl B, Stefani A. Seasonality of restless legs syndrome: symptom variability in winter and summer times. Sleep Med. 2020 Feb;66:10-14. doi: 10.1016/j.sleep.2019.07.026. Epub 2019 Aug 14. PMID: 31770614
[12] R.P. Allen, C.J. Earley. The role of iron in restless legs syndrome. Mov Disord, 22 (Suppl 18) (2007), pp. S440-S448
[13] J.R. Connor, S.M. Patton, K. Oexle, et al. Iron and restless legs syndrome: treatment, genetics and pathophysiology. Sleep Med, 31 (2017 Mar), pp. 61-70
[14] A.N. Nicolaides, C. Allegra, J. Bergan, et al.Management of chronic venous disorders of the lower limbs: guidelines according to scientific evidence. Int Angiol, 27 (1) (2008 Feb), pp. 1-59
[15] C. Rocchi, M. Albanese, F. Placidi, et al. Chronic dopaminergic treatment in restless legs syndrome: does it affect the autonomic nervous system? Sleep Med, 16 (9) (2015 Sep), pp. 1071-1076