睡眠時のお悩みは、単純に「眠れない」だけではありません。
今回は睡眠時のねぼけ行動の総称である「睡眠時随伴症(すいみんじずいはんしょう、睡眠パラソムニアとも言います)」についてご説明します1。
どの程度の人に睡眠時随伴症があるか調べたノルウェーの研究があります2。
ノルウェー国内全体からランダムに選ばれた1,000人の成人への電話調査で、以下のようなことが分かりました。
「今現在(18〜96歳)、以下のような睡眠時随伴症を体験している」(多い順)
「子供の頃の体験も含めて、以下のような睡眠時随伴症を体験したことがある」(多い順)
このことから、睡眠時随伴症は子供の頃に多く、決して珍しい症状ではないことが分かります。
睡眠時随伴症は、症状が起こる時にどの睡眠段階であったのかで分類されています。
睡眠段階について軽く説明すると、人は眠りにつくとすぐに深いノンレム睡眠(脳が休んでいる状態)となり、深いノンレム睡眠とレム睡眠(体が休んでいる状態)を繰り返します3。そして、睡眠欲求が低くなると、眠りは徐々に浅くなり、覚醒する仕組みがあります。
睡眠時随伴症は、症状が起こった時に「レム睡眠」「ノンレム睡眠」のどちらであったかで分類されています4。
「ノンレム睡眠(脳が休んでいる状態)」の時に起こる睡眠時随伴症には、以下のようなものが挙げられます5。
ノンレム睡眠から生じる睡眠時随伴症の多くは、子供の頃に始まり、年齢を重ねるとともに治る傾向があります。
錯乱性覚醒は、ステージ3の深いノンレム睡眠の途中に起こります。
深い睡眠の途中に起きるため、起きた本人は混乱し、時間や空間が分からなくなり、目を開けてぶつぶつと呟いたりします。数分から数時間続くとされています。また、本人はその事を覚えていません。
錯乱性覚醒は、大人より子供に多い特徴があります。寝不足、日中の強度の運動、カフェインの使用、騒音、ベッドパートナーの存在、日中/寝る時のストレスなどが原因になることがあります。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬やアルコールの使用が錯乱性覚醒のきっかけになることも報告されています。
睡眠時遊行症状(寝ている間に歩く)もまた、ステージ3のノンレム睡眠の途中に起こります。
睡眠時遊行症状は、目を開けたままあてもなく部屋の中を歩き回るだけではなく、その行動は以下のように様々です。
睡眠時遊行症状の一部は危険を伴うため、本人だけではなく、同居家族の睡眠にも影響を及ぼします。
大人の睡眠時遊行症状は、むずむず脚症候群、睡眠時無呼吸症候群、頭部外傷、脳卒中、発熱性疾患等、様々な疾患がきっかけで起こるとされています。これもまた、生活習慣(カフェイン・騒音・ベッドパートナーの存在・ストレス等)や特定の薬剤の使用(ベンゾジアゼピン受容体作動薬、アミトリプチリン、ブプロピオン等)がきっかけになる可能性も報告されています6。
「レム睡眠(体が休んでいる状態)」の時に起こる睡眠時随伴症としては、以下のようなものが挙げられます。
レム睡眠行動障害(睡眠中に夢と同じ行動を取る)は、レム睡眠の途中に起こります。
レム睡眠行動障害は、例えば以下のような行動が挙げられます。
そのため、近くで寝ている家族の睡眠にも影響を及ぼす特徴があります。殆どの場合、本人は見ていた夢についてぼんやりと覚えています。
レム睡眠行動障害は、脳梗塞、くも膜下出血、脳腫瘍、頭部外傷、多発性硬化症、ナルコレプシー等、様々な疾患がきっかけとなり起こるとされています。服用している薬剤の休薬(鎮静・催眠薬、SSRI薬、三環系抗うつ薬、コリン作動性薬等)が発症のきっかけとなるという報告もあります。生活習慣では、カフェイン、アルコール、チョコレートの摂り過ぎ、喫煙や鉄欠乏に注意が必要です7,8,9。レム睡眠行動障害は、子供よりも大人に多い特徴があります。
悪夢やうなり声も、レム睡眠の途中で起こります。悪夢は、「今自分は夢を見ている」と自覚のある夢(明晰夢)であることが特徴です。本人は、夢の記憶が曖昧なまま、恐怖とともに覚醒することもあります。耳鼻や声帯の異常がないが繰り返し睡眠中にうなる事も、睡眠時随伴症に含まれます。発症に関連する生活習慣として、カフェイン・アルコール・喫煙・薬物(ベンゾジアゼピン系・抗うつ薬等)・鉄欠乏・ストレス等を確認することが重要です。