睡眠時随伴症(睡眠時のねぼけ行動)について

睡眠時のお悩みは、単純に「眠れない」だけではありません。
今回は睡眠時のねぼけ行動の総称である「睡眠時随伴症(すいみんじずいはんしょう、睡眠パラソムニアとも言います)」についてご説明します1

睡眠時随伴症は珍しくない

どの程度の人に睡眠時随伴症があるか調べたノルウェーの研究があります2
ノルウェー国内全体からランダムに選ばれた1,000人の成人への電話調査で、以下のようなことが分かりました。

今現在(18〜96歳)、以下のような睡眠時随伴症を体験している」(多い順)

  • 悪夢を見る              19.4%
  • 寝言を言う              17.7%
  • 睡眠中にうなる(いびきではない)   13.5%
  • 混乱した状態で起きる(錯乱性覚醒)   6.9%
  • 見ている夢の通りに動く         5.0%

子供の頃の体験も含めて、以下のような睡眠時随伴症を体験したことがある」(多い順)

  • 寝言を言う              66.8%
  • 悪夢を見る              66.2%
  • 睡眠中にうなる(いびきではない)   31.3%
  • 寝ている間に歩く           22.4%
  • 混乱した状態で起きる(錯乱性覚醒)  18.5%

このことから、睡眠時随伴症は子供の頃に多く、決して珍しい症状ではないことが分かります。

睡眠時随伴症は2つに分類されている

睡眠時随伴症は、症状が起こる時にどの睡眠段階であったのかで分類されています。
睡眠段階について軽く説明すると、人は眠りにつくとすぐに深いノンレム睡眠(脳が休んでいる状態)となり、深いノンレム睡眠とレム睡眠(体が休んでいる状態)を繰り返します3。そして、睡眠欲求が低くなると、眠りは徐々に浅くなり、覚醒する仕組みがあります。

睡眠時随伴症は、症状が起こった時に「レム睡眠」「ノンレム睡眠」のどちらであったかで分類されています4

(出典:「眠りのメカニズム」[厚生労働省])

1. ノンレム睡眠から生じる睡眠時随伴症

「ノンレム睡眠(脳が休んでいる状態)」の時に起こる睡眠時随伴症には、以下のようなものが挙げられます5
ノンレム睡眠から生じる睡眠時随伴症の多くは、子供の頃に始まり、年齢を重ねるとともに治る傾向があります。

錯乱性覚醒(混乱した状態で起きる)

錯乱性覚醒は、ステージ3の深いノンレム睡眠の途中に起こります。
深い睡眠の途中に起きるため、起きた本人は混乱し、時間や空間が分からなくなり、目を開けてぶつぶつと呟いたりします。数分から数時間続くとされています。また、本人はその事を覚えていません

錯乱性覚醒は、大人より子供に多い特徴があります。寝不足、日中の強度の運動、カフェインの使用、騒音、ベッドパートナーの存在、日中/寝る時のストレスなどが原因になることがあります。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬やアルコールの使用が錯乱性覚醒のきっかけになることも報告されています。

睡眠時遊行症状(寝ている間に歩く)

睡眠時遊行症状(寝ている間に歩く)もまた、ステージ3のノンレム睡眠の途中に起こります。
睡眠時遊行症状は、目を開けたままあてもなく部屋の中を歩き回るだけではなく、その行動は以下のように様々です。

  • 歩き回る途中で家から出たり、バルコニーから落ちたりする
  • 車を運転して家から出て行く
  • 楽器を演奏する
  • クローゼットに排尿するなどの不適切な行為をとる

睡眠時遊行症状の一部は危険を伴うため、本人だけではなく、同居家族の睡眠にも影響を及ぼします。

大人の睡眠時遊行症状は、むずむず脚症候群睡眠時無呼吸症候群、頭部外傷、脳卒中、発熱性疾患等、様々な疾患がきっかけで起こるとされています。これもまた、生活習慣(カフェイン・騒音・ベッドパートナーの存在・ストレス等)特定の薬剤の使用ベンゾジアゼピン受容体作動薬、アミトリプチリン、ブプロピオン等)がきっかけになる可能性も報告されています6

2. レム睡眠から生じる睡眠時随伴症

「レム睡眠(体が休んでいる状態)」の時に起こる睡眠時随伴症としては、以下のようなものが挙げられます。

レム睡眠行動障害(睡眠中に夢と同じ行動を取る)

レム睡眠行動障害(睡眠中に夢と同じ行動を取る)は、レム睡眠の途中に起こります。
レム睡眠行動障害は、例えば以下のような行動が挙げられます。

  • 夢の中の通りにキックやパンチをする
  • 夢の中の通りに叫ぶ
  • 夢の中の通りに立ち上がってジャンプしたり危険行動も取る

そのため、近くで寝ている家族の睡眠にも影響を及ぼす特徴があります。殆どの場合、本人は見ていた夢についてぼんやりと覚えています。

レム睡眠行動障害は、脳梗塞、くも膜下出血、脳腫瘍、頭部外傷、多発性硬化症、ナルコレプシー、様々な疾患がきっかけとなり起こるとされています。服用している薬剤の休薬(鎮静・催眠薬、SSRI薬、三環系抗うつ薬、コリン作動性薬等)が発症のきっかけとなるという報告もあります。生活習慣では、カフェイン、アルコール、チョコレートの摂り過ぎ、喫煙や鉄欠乏に注意が必要です7,8,9レム睡眠行動障害は、子供よりも大人に多い特徴があります。

悪夢を見る・うなり声をあげる

悪夢やうなり声も、レム睡眠の途中で起こります。悪夢は、「今自分は夢を見ている」と自覚のある夢(明晰夢)であることが特徴です。本人は、夢の記憶が曖昧なまま、恐怖とともに覚醒することもあります。耳鼻や声帯の異常がないが繰り返し睡眠中にうなる事も、睡眠時随伴症に含まれます。発症に関連する生活習慣として、カフェイン・アルコール・喫煙・薬物(ベンゾジアゼピン系・抗うつ薬等)・鉄欠乏・ストレス等を確認することが重要です。

まとめ

  • 睡眠時随伴症は珍しくない
  • 睡眠時随伴症には「レム睡眠から生じる睡眠時随伴症」と「ノンレム睡眠から生じる睡眠時随伴症」がある
  • ノンレム睡眠から生じる睡眠時随伴症(混乱した状態で起きる、寝ている時に歩く、恐怖で起きる)は、子供に多く、多くは年齢とともに治っていく
  • レム睡眠から生じる睡眠時随伴症(夢と同じ行動を取る、うなり、悪夢)は、大人にも多く生じる
  • 睡眠時随伴症は本人に危険を伴ったり、近くで寝ている家族の睡眠に影響したりするため、症状がある場合は睡眠外来で相談を

参考文献

  1. 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究部 睡眠・覚醒障害研究部. 睡眠時随伴症. https://www.ncnp.go.jp/nimh/sleep/sleep-medicine/parasomnia/index.html ↩︎
  2. Bjorvatn B, Grønli J, Pallesen S. Prevalence of different parasomnias in the general population. Sleep Med. 2010 Dec;11(10):1031-4. doi: 10.1016/j.sleep.2010.07.011. Epub 2010 Nov 18. PMID: 21093361. ↩︎
  3. e-ヘルスネット. 眠りのメカニズム. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-002.html ↩︎
  4. Singh S, Kaur H, Singh S, Khawaja I. Parasomnias: A Comprehensive Review. Cureus. 2018 Dec 31;10(12):e3807. doi: 10.7759/cureus.3807. PMID: 30868021; PMCID: PMC6402728. ↩︎
  5. Irfan M, Schenck CH, Howell MJ. Non-Rapid Eye Movement Sleep and Overlap Parasomnias. Continuum (Minneap Minn). 2017 Aug;23(4, Sleep Neurology):1035-1050. doi: 10.1212/CON.0000000000000503. PMID: 28777175.  ↩︎
  6. Howell MJ. Parasomnias: an updated review. Neurotherapeutics. 2012 Oct;9(4):753-75. doi: 10.1007/s13311-012-0143-8. PMID: 22965264; PMCID: PMC3480572. ↩︎
  7. Xi Z, Luning W. REM sleep behavior disorder in a patient with pontine stroke. Sleep Med. 2009 Jan;10(1):143-6. doi: 10.1016/j.sleep.2007.12.002. Epub 2008 Jan 28. PMID: 18226960. ↩︎
  8. Wong JC, Li J, Pavlova M, Chen S, Wu A, Wu S, Gao X. Risk factors for probable REM sleep behavior disorder: A community-based study. Neurology. 2016 Apr 5;86(14):1306-1312. doi: 10.1212/WNL.0000000000002414. Epub 2016 Jan 27. PMID: 26819459; PMCID: PMC4826335. ↩︎
  9. Vorona RD, Ware JC. Exacerbation of REM sleep behavior disorder by chocolate ingestion: a case report. Sleep Med. 2002 Jul;3(4):365-7. doi: 10.1016/s1389-9457(02)00008-4. PMID: 14592201. ↩︎