「不眠」ってなんだろう

眠りの悩みは、寝ても寝ても眠い(過眠)、日中の眠気が強い、など様々ですが、代表的なものとして不眠があります。

我々のクリニックでは、「夜眠れません。不眠症でしょうか?」「毎日4時間しか寝ていません。これって不眠症なんでしょうか?」といったご相談をたくさん頂戴します。

では、そもそも不眠とはなんでしょうか。「夜眠れない=不眠」なのでしょうか。

多くの方が誤解されていますが、厳密な意味では、「夜眠れない = 不眠」、「睡眠時間が短い = 不眠」ではありません。

実は、不眠というのは、「眠る機会・環境が適切であるにも関わらず、睡眠が障害され、それによって日中の活動に支障をきたす状態」とされています。1

つまり、眠るための環境が整っておらず眠れていない場合は、そもそも不眠ではないのです。このようなケースではまずは環境調整をして、それでもなお眠れないのかを調べるべきです。そのような調整をせずに漫然と睡眠薬に頼って睡眠をとるのは適切とは言えず、まずは専門の医師に「本当に眠れる環境が整っているか」を確認してもらうべきでしょう。

眠るための環境が整っていない方、というのは意外と多いです。例えば、夜でも部屋がとても明るい、寝る直前までスマートフォンを見ている方。逆に、朝起きたときにしっかりと朝日を浴びず、睡眠・覚醒のリズムが乱れている方。「光」は眠りに極めて大きな影響を与えることがわかっています。2 3

他にも睡眠環境に関わる項目は多岐にわたります。

コーヒー、紅茶などに含まれるカフェインの摂り過ぎが良くないのはもちろん、アルコールも睡眠を妨げます(確かに寝つきは良くなりますが、睡眠が浅くなり、結果的には眠りの質を落とします。)。4

さらに、塩分の摂り過ぎや、室温も睡眠に影響を与えることが分かっています。

このような眠る機会・環境が整備されていない方は、日々のちょっとした点を改善してあげるだけで劇的に睡眠の悩みが解消することがあります。

換言すれば、眠るための環境調整をすることなく、ただ睡眠薬のみに頼るのは適切とは言えないでしょう。

もっとも、環境をいくら調整しても睡眠薬を使わざるを得ないケースも存在します。

また、改善には時間がかかったり、仕事やライフスタイルの事情から改善を十分にできないこともあります。そのような場合に、きっかけづくりという意味で適切な睡眠薬を、適切な使い方で使用することは問題ないと考えます。

なお、睡眠薬を使うことに不安感を抱かれる方もいるかと思います。最近では依存(使うとやめられなくなる)も耐性(使っているうちに効き目が悪くなる)もほとんどない安全な薬も登場しています。

睡眠薬の適切な使い方については別稿でお話する予定です。

また、不眠というのは、「眠る機会・環境が適切であるにも関わらず、睡眠が障害され、それによって日中の活動に支障をきたす状態」でした。

そこで、同様に、「夜眠れない」と悩んでいる場合でも、日中の活動に支障をきたしていなければ不眠とは言えないことになります。しばしば、本人にとっては必要な睡眠時間が確保できている(そして、日中の活動に支障もきたしていない)のにも関わらず「もっと長く眠る」ことが目的化してしまう方がおられます。このような場合眠りたいのに眠れないことに悩むあまりかえって生活の質を落とす結果となるおそれがあります。

必要な睡眠時間は年齢によっても異なりますが、個人差が極めて大きいです。ただ、例えば20代だと平均的に約8時間の睡眠が必要と言われており、多くの日本人は慢性的な睡眠不足の状況に陥っていると言えます。5 6

以上のように、「夜眠れません」というお悩みをお持ちの場合でも、

・環境を改善することで睡眠薬に頼ることなく治療できる場合

・そもそも日中の生活に困っておらず、治療する必要がない場合

も多いです。

もっとも、ご自身では判断困難であったり改善困難であったりすることも多いと思われます。

睡眠薬を飲むことだけが「夜眠れない」ことへの対処法だけではありませんので、お困りの方は気軽に睡眠を専門に扱う医療機関への受診されることをおすすめ致します。

引用文献
1 American Academy of Sleep Medicine International Classification of Sleep Disorders. – 3rd Edition. Academy of Sleep Medicine, 2014.
2  Shimura A, Sugiura K, Inoue M et al. Which sleep hygiene factors are important? comprehensive assessment of lifestyle habits and job environment on sleep among office workers. Sleep Health. 2020 Jun;6(3):288-298.
3  Shimura A, Hideo S, Takaesu Y et al. Comprehensive assessment of the impact of life habits on sleep disturbance, chronotype, and daytime sleepiness among high-school students. Sleep Med. 2018 Apr;44:12-18.
4  Ohayon MM. Epidemiology of insomnia: what we know and what we still need to learn. Sleep Med Rev. 2002 Apr;6(2):97-111.
5  Roffwarg HP, Muzio JN, Dement WC. Ontogenetic development of the human sleep-dream cycle. Science. 1966 Apr 29;152(3722):604-19.
6  総務省統計局「平成28年社会生活基本調査結果」