現代は24時間型社会です。
様々なサービスを24時間受けられるため便利な反面、労働者は不規則な勤務形態を強いられています。
本コラムでは、厚生労働省発表の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を元に、交替制勤務をされている方に向けて、睡眠への影響や注意点について、ご紹介します1。
交替制勤務とは、仕事の始まりと終わりの時間が一定ではなく、勤務時間帯が変化する勤務形態を指します。
交替制勤務は、例えばある日は朝から勤務、翌日は昼から勤務、翌々日は夜から勤務など、勤務時間帯が日ごとに変化することを指します。(毎日夜勤である等、日ごとに同じ時間に勤務する場合は交替制勤務ではありません)
厚生労働省の労働安全衛生調査(2022年度)によると、国内で交替制勤務に就いている労働者の割合は、19.8%という結果でした2,3。統計上、交替制勤務をされている方は以下のような方々であると報告されています。
これまでの研究結果によると、交替制勤務には様々な弊害が報告されています。
例えば、「不眠4」「睡眠の質の低さ5」「心筋梗塞6」「膀胱がん7」「閉経年齢の早さ8」など、様々な交替制勤務の健康リスクが挙げられます。
これらの健康リスクは、交替制勤務により睡眠状態が悪化しやすいこと、体内時計に異常をきたしやすいこと、またその他の心理社会的ストレスが、その発生に関与していると考えられています9。そのため、たとえ交替制勤務であっても、可能な限り良い睡眠を取るよう工夫することで、できるだけリスクを下げることが重要です。
日光には、体内時計を調整する力があります。朝に日光を浴びると、体内時計が「早寝・早起き」出来るように前倒しになります。逆に、夕方以降に光を浴びると、体内時計が「遅寝・遅起き」するように後ろ倒しになります。この光を利用して、以下のような取り組みが可能となります。
例えば、週に数1〜2回夜勤シフトが入る場合は、夜勤中に強い光を浴びることを避け、夜勤が明けた朝に日光を浴びましょう10。そして夜勤明けは(可能であれば)そのまま眠らず、いつもより早い夕方の時間から朝まで眠りましょう。このような方法で、普段とほぼ同じの体内時計のリズムを保つ事が出来ます。
頻回に交代制のシフトに入る場合には、「勤務直後に眠らない」という対処法が難しい場合もあるでしょう。その場合は、仮眠を活用する方法もあります。その場合には「いつ仮眠を取るのか」が重要になります。
日本人12人を対象に、仮眠の開始時間(夜中0時から vs. 朝方4時から)と仮眠の長さ(1時間 vs. 2時間)が眠気や疲労感にどう影響するのか調べた研究があります11。それによると、遅い時間(朝方4時)から長く(2時間)仮眠を取った方が、早い時間から仮眠を取るよりも朝時点での疲れが取れているというものでした。同時に測定した脳波測定の結果では、遅い時間に眠った人では徐波睡眠と呼ばれる深い睡眠が取れている時の脳波が多く出たことが分かっており、より深い睡眠が取れる時間帯に仮眠をとることの重要性が示唆されました。
交代制勤務の間に仮眠をとる際には、身体が夜であると感じられる環境で(例:できるだけ部屋を暗くする)、一定時間以上(最低でも2時間以上)の仮眠を取った方が良いと考えられます。2-3時間程度の時間であっても、上記のような条件で仮眠を取ることで、全く仮眠を取らない場合と比べて、眠気を感じづらかったり、疲労感が低かったり、仕事効率が良かったりという報告も複数あります12。加えて、仮眠をとって活動を再開する際に、太陽光を浴びるのも有効です。起床後に太陽光を浴びることで、体内時計を前倒す調節ができるため、有効に活用しましょう。
❝ 仮眠をした警察官は交通事故を起こしにくい? ❞
イタリアの交替制勤務の警察官1,195人を対象に、仮眠の重要性を検討した研究があります13。
仮眠をしている警察官は、一般的な警察官(仮眠あり+仮眠なし)と比較して、夕方から夜間の交通事故(1993〜1997年)を起こしやすいかどうかを調べました。
それによると、仮眠を取った警察官は、一般的な警察官(仮眠あり+仮眠なし)よりも起こす交通事故の数が少ないことが分かりました。このように、仮眠は健康だけではなく、安全にも影響することから、仮眠がいかに重要かが分かります。
(※出典:Garbarino, S, et al. “Professional shift-work drivers who adopt prophylactic naps can reduce the risk of car accidents during night work” Sleep. 2004 Nov 1;27(7):1295-302.)
カフェインには、覚醒作用があります。
いつも通り夜に眠る場合は、夕方以降(15時〜)のカフェイン摂取を控えるよう勧められますが、交替制勤務で夜間に働いている場合は、眠気覚ましとして使用するケースがあります14。
しかし、寝る時間の近くにカフェインを摂ると、睡眠の質が下がり、中途覚醒が増え、総睡眠時間も短縮されやすくなります15。そのため、眠気覚ましのためにやむを得ずカフェインを摂るとしても、就寝する8-10時間前までの摂取に留めるようにしましょう。午前9時に就寝する場合には午後11時~午前1時までの摂取にとどめた方が望ましいでしょう。
❝ カフェインはどの程度なら摂ってもいいのか? ❞
カフェインを体内で代謝する能力は個人によって異なります。
そのため、人により一日に摂取出来るカフェイン量は実質異なります。
カナダ(Health Canada)やヨーロッパ(European Food Safety Authority、通称EFSA)などでは、一日のカフェイン摂取量の推奨は「400 mg未満」が推奨されています16。カフェイン400 mgは、コーヒーであれば約600ml程度(マグカップで約3杯)の量です。
コーヒー以外の飲料にもカフェインは含まれていますので、以下の表を参考にカフェインと上手に付き合いましょう。
(出典:「健康づくりのための睡眠ガイド2023」[厚生労働省])