健康づくりのための睡眠ガイド(2023)の内容を詳細に紹介!(その7)睡眠に注意が必要な交替制勤務

現代は24時間型社会です。
様々なサービスを24時間受けられるため便利な反面、労働者は不規則な勤務形態を強いられています。
本コラムでは、厚生労働省発表の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を元に、交替制勤務をされている方に向けて、睡眠への影響や注意点について、ご紹介します1

交替制勤務とは

交替制勤務とは、仕事の始まりと終わりの時間が一定ではなく、勤務時間帯が変化する勤務形態を指します。
交替制勤務は、例えばある日は朝から勤務、翌日は昼から勤務、翌々日は夜から勤務など、勤務時間帯が日ごとに変化することを指します。(毎日夜勤である等、日ごとに同じ時間に勤務する場合は交替制勤務ではありません)

厚生労働省の労働安全衛生調査(2022年度)によると、国内で交替制勤務に就いている労働者の割合は、19.8%という結果でした2,3。統計上、交替制勤務をされている方は以下のような方々であると報告されています。

  • 交替制勤務に就いている者は女性の方が多い(男性18.0%、女性23.2%)
  • 年齢が若い方が多い(20歳未満は43.0%、60歳以上は16.0%)
  • 就業形態別では、パートタイム労働者の方が多い(正社員18.8%、パートタイム労働者33.2%)
  • 交替制勤務の多い業種は、宿泊業・飲食サービス業(36.1%)、生活関連サービス業・娯楽業(35.9%)、卸売業・小売業(30.4%)、医療・福祉(27.6%)等である

交替制勤務は睡眠・健康状態が悪化しやすい

これまでの研究結果によると、交替制勤務には様々な弊害が報告されています。
例えば、「不眠4」「睡眠の質の低さ5」「心筋梗塞6」「膀胱がん7」「閉経年齢の早さ8」など、様々な交替制勤務の健康リスクが挙げられます。

これらの健康リスクは、交替制勤務により睡眠状態が悪化しやすいこと、体内時計に異常をきたしやすいこと、またその他の心理社会的ストレスが、その発生に関与していると考えられています9。そのため、たとえ交替制勤務であっても、可能な限り良い睡眠を取るよう工夫することで、できるだけリスクを下げることが重要です。

(出典:RECORDs. 夜勤・交替制勤務. https://records.johas.go.jp/article/21

交替制勤務者が良い睡眠を取るために出来ること

光を利用する

日光には、体内時計を調整する力があります。朝に日光を浴びると、体内時計が「早寝・早起き」出来るように前倒しになります。逆に、夕方以降に光を浴びると、体内時計が「遅寝・遅起き」するように後ろ倒しになります。この光を利用して、以下のような取り組みが可能となります。

例えば、週に数1〜2回夜勤シフトが入る場合は、夜勤中に強い光を浴びることを避け、夜勤が明けた朝に日光を浴びましょう10。そして夜勤明けは(可能であれば)そのまま眠らず、いつもより早い夕方の時間から朝まで眠りましょう。このような方法で、普段とほぼ同じの体内時計のリズムを保つ事が出来ます。

仮眠を取る

頻回に交代制のシフトに入る場合には、「勤務直後に眠らない」という対処法が難しい場合もあるでしょう。その場合は、仮眠を活用する方法もあります。その場合には「いつ仮眠を取るのか」が重要になります。
日本人12人を対象に、仮眠の開始時間(夜中0時から vs. 朝方4時から)と仮眠の長さ(1時間 vs. 2時間)が眠気や疲労感にどう影響するのか調べた研究があります11。それによると、遅い時間(朝方4時)から長く(2時間)仮眠を取った方が、早い時間から仮眠を取るよりも朝時点での疲れが取れているというものでした。同時に測定した脳波測定の結果では、遅い時間に眠った人では徐波睡眠と呼ばれる深い睡眠が取れている時の脳波が多く出たことが分かっており、より深い睡眠が取れる時間帯に仮眠をとることの重要性が示唆されました。

(※出典:Kubo, T., et al. “Impact of nap length, nap timing and sleep quality on sustaining early morning performance” Ind. Health.
2007 Aug;45(4):552-63.)


交代制勤務の間に仮眠をとる際には、身体が夜であると感じられる環境で(例:できるだけ部屋を暗くする)、一定時間以上(最低でも2時間以上)の仮眠を取った方が良いと考えられます。2-3時間程度の時間であっても、上記のような条件で仮眠を取ることで、全く仮眠を取らない場合と比べて、眠気を感じづらかったり、疲労感が低かったり、仕事効率が良かったりという報告も複数あります12。加えて、仮眠をとって活動を再開する際に、太陽光を浴びるのも有効です。起床後に太陽光を浴びることで、体内時計を前倒す調節ができるため、有効に活用しましょう。

仮眠をした警察官は交通事故を起こしにくい?



イタリアの交替制勤務の警察官1,195人を対象に、仮眠の重要性を検討した研究があります13
仮眠をしている警察官は、一般的な警察官(仮眠あり+仮眠なし)と比較して、夕方から夜間の交通事故(1993〜1997年)を起こしやすいかどうかを調べました。

それによると、仮眠を取った警察官は、一般的な警察官(仮眠あり+仮眠なし)よりも起こす交通事故の数が少ないことが分かりました。このように、仮眠は健康だけではなく、安全にも影響することから、仮眠がいかに重要かが分かります。


(※出典:Garbarino, S, et al. “Professional shift-work drivers who adopt prophylactic naps can reduce the risk of car accidents during night work” Sleep. 2004 Nov 1;27(7):1295-302.)

カフェインを利用するには注意が必要

カフェインには、覚醒作用があります。
いつも通り夜に眠る場合は、夕方以降(15時〜)のカフェイン摂取を控えるよう勧められますが、交替制勤務で夜間に働いている場合は、眠気覚ましとして使用するケースがあります14

しかし、寝る時間の近くにカフェインを摂ると、睡眠の質が下がり、中途覚醒が増え、総睡眠時間も短縮されやすくなります15。そのため、眠気覚ましのためにやむを得ずカフェインを摂るとしても、就寝する8-10時間前までの摂取に留めるようにしましょう。午前9時に就寝する場合には午後11時~午前1時までの摂取にとどめた方が望ましいでしょう。

カフェインはどの程度なら摂ってもいいのか?

カフェインを体内で代謝する能力は個人によって異なります。
そのため、人により一日に摂取出来るカフェイン量は実質異なります。

カナダ(Health Canada)やヨーロッパ(European Food Safety Authority、通称EFSA)などでは、一日のカフェイン摂取量の推奨は「400 mg未満」が推奨されています16カフェイン400 mgは、コーヒーであれば約600ml程度(マグカップで約3杯)の量です。

コーヒー以外の飲料にもカフェインは含まれていますので、以下の表を参考にカフェインと上手に付き合いましょう。


(出典:「健康づくりのための睡眠ガイド2023」[厚生労働省])

まとめ

  • 「交替制勤務」とは、働く時間帯が日によって異なること
  • 「交替制勤務」の影響で、睡眠のリズムが乱れ、眠りづらくなり、心筋梗塞など様々な健康リスクを起こしやすくなる
  • 「交替制勤務」が睡眠へ与える影響を小さくするために利用出来るものは、「光」「仮眠」「カフェイン(摂取する時間・量に注意)」

睡眠ガイド2023(厚生労働省)紹介シリーズ

参考文献

  1. 厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド2023. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html ↩︎
  2. 厚生労働省. 労働安全衛生調査(実態調査). https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/list46-50_an-ji.html ↩︎
  3. e-Stat. 労働安全衛生調査(実態調査). https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450110&tstat=000001069310 ↩︎
  4. Brito RS, Dias C, Afonso Filho A, Salles C. Prevalence of insomnia in shift workers: a systematic review. Sleep Sci. 2021 Jan-Mar;14(1):47-54. doi: 10.5935/1984-0063.20190150. PMID: 34104337; PMCID: PMC8157778. ↩︎
  5. McNamara KA, Robbins WA. Shift Work and Sleep Disturbance in the Oil Industry. Workplace Health Saf. 2023 Mar;71(3):118-129. doi: 10.1177/21650799221139990. Epub 2023 Feb 16. PMID: 36794861. ↩︎
  6. Vyas MV, Garg AX, Iansavichus AV, Costella J, Donner A, Laugsand LE, Janszky I, Mrkobrada M, Parraga G, Hackam DG. Shift work and vascular events: systematic review and meta-analysis. BMJ. 2012 Jul 26;345:e4800. doi: 10.1136/bmj.e4800. PMID: 22835925; PMCID: PMC3406223. ↩︎
  7. Haghayegh S, Liu Y, Zhang Y, Strohmaier S, Papantoniou K, Markt S, Giovannucci E, Schernhammer E. Rotating Night Shift Work and Bladder Cancer Risk in Women: Results of Two Prospective Cohort Studies. Int J Environ Res Public Health. 2023 Jan 26;20(3):2202. doi: 10.3390/ijerph20032202. PMID: 36767572; PMCID: PMC9915636. ↩︎
  8. Stock D, Knight JA, Raboud J, Cotterchio M, Strohmaier S, Willett W, Eliassen AH, Rosner B, Hankinson SE, Schernhammer E. Rotating night shift work and menopausal age. Hum Reprod. 2019 Mar 1;34(3):539-548. doi: 10.1093/humrep/dey390. PMID: 30753548; PMCID: PMC7210710. ↩︎
  9. Gurubhagavatula I, Barger LK, Barnes CM, Basner M, Boivin DB, Dawson D, Drake CL, Flynn-Evans EE, Mysliwiec V, Patterson PD, Reid KJ, Samuels C, Shattuck NL, Kazmi U, Carandang G, Heald JL, Van Dongen HPA. Guiding principles for determining work shift duration and addressing the effects of work shift duration on performance, safety, and health: guidance from the American Academy of Sleep Medicine and the Sleep Research Society. J Clin Sleep Med. 2021 Nov 1;17(11):2283-2306. doi: 10.5664/jcsm.9512. PMID: 34666885; PMCID: PMC8636361. ↩︎
  10. Zee PC, Goldstein CA. Treatment of shift work disorder and jet lag. Curr Treat Options Neurol. 2010 Sep;12(5):396-411. doi: 10.1007/s11940-010-0090-9. PMID: 20842597. ↩︎
  11. Kubo T, Takeyama H, Matsumoto S, Ebara T, Murata K, Tachi N, Itani T. Impact of nap length, nap timing and sleep quality on sustaining early morning performance. Ind Health. 2007 Aug;45(4):552-63. doi: 10.2486/indhealth.45.552. PMID: 17878627. ↩︎
  12. Ruggiero JS, Redeker NS. Effects of napping on sleepiness and sleep-related performance deficits in night-shift workers: a systematic review. Biol Res Nurs. 2014 Apr;16(2):134-42. doi: 10.1177/1099800413476571. Epub 2013 Feb 13. PMID: 23411360; PMCID: PMC4079545. ↩︎
  13. Garbarino S, Mascialino B, Penco MA, Squarcia S, De Carli F, Nobili L, Beelke M, Cuomo G, Ferrillo F. Professional shift-work drivers who adopt prophylactic naps can reduce the risk of car accidents during night work. Sleep. 2004 Nov 1;27(7):1295-302. doi: 10.1093/sleep/27.7.1295. PMID: 15586782. ↩︎
  14. Gurubhagavatula I, Barger LK, Barnes CM, Basner M, Boivin DB, Dawson D, Drake CL, Flynn-Evans EE, Mysliwiec V, Patterson PD, Reid KJ, Samuels C, Shattuck NL, Kazmi U, Carandang G, Heald JL, Van Dongen HPA. Guiding principles for determining work shift duration and addressing the effects of work shift duration on performance, safety, and health: guidance from the American Academy of Sleep Medicine and the Sleep Research Society. J Clin Sleep Med. 2021 Nov 1;17(11):2283-2306. doi: 10.5664/jcsm.9512. PMID: 34666885; PMCID: PMC8636361. ↩︎
  15. Clark I, Landolt HP. Coffee, caffeine, and sleep: A systematic review of epidemiological studies and randomized controlled trials. Sleep Med Rev. 2017 Feb;31:70-78. doi: 10.1016/j.smrv.2016.01.006. Epub 2016 Jan 30. PMID: 26899133. ↩︎
  16. Verster JC, Koenig J. Caffeine intake and its sources: A review of national representative studies. Crit Rev Food Sci Nutr. 2018 May 24;58(8):1250-1259. doi: 10.1080/10408398.2016.1247252. Epub 2017 Jun 12. PMID: 28605236. ↩︎