仰向けで寝ると認知症リスクが上がる!?認知症予防に繋がる枕とは?

近年、睡眠と認知症の関係が注目を集めています。そんな中、寝る姿勢が認知症のリスクに影響するという驚きの研究結果が発表されました。

仰向けで寝るとアルツハイマー病リスクが3.5倍に!?

米国の研究チームが、健常者と認知症患者の睡眠中の体勢を比較したところ、衝撃的な事実が明らかになりました。アルツハイマー病、パーキンソン病、軽度認知障害の患者は、健常者に比べて仰向けで寝る時間が有意に長かったのです。

オッズ比は以下の通りです。

  • アルツハイマー病: 3.5倍
  • パーキンソン病: 3.6倍
  • 軽度認知障害: 2.2倍

つまり、仰向けで寝ることで、認知症やパーキンソン病のリスクが2倍以上に跳ね上がる可能性があるということです。[1,2]

仰向けが脳の浄化システム「グリンパティック系」を阻害する!?

なぜ、仰向けで寝ると認知症リスクが高まるのでしょうか?その秘密は、脳の中の「グリンパティック系」にあります。

グリンパティック系は、睡眠中に脳の老廃物を排出する重要な仕組み。アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβの除去にも関わっています。

文献[3] より グリンパティック系はアミロイドベータの排泄に関わる

ところが、ラットを使った実験で、仰向けやうつ伏せの体勢ではグリンパティック系の機能が低下し、アミロイドβが脳内に蓄積しやすくなることが分かったのです。

さらに、仰向けだと脳脊髄液の流れが変化し、脳内の有害物質が頸部の血管や脳神経に流れ出てしまう量が増加。これでは、脳のアミロイドベータ等のたんぱく質の浄化効率が下がってしまいます。[4]

横向きで寝れば認知症予防できる?

では、認知症等の神経変性疾患の予防のためにはどのような姿勢を取ればすればよいのでしょうか?

研究結果からは、横向きで寝ることで、グリンパティック系の働きが活発になり、脳内有害物質の浄化作用が高まることが示唆されています。[4] また、寝返りを打ちやすい枕・横向きで寝やすい枕として、固い枕(ラテックス・形状記憶枕)や抱き枕が有用であるという研究もあります。[5,6]

ただし、人間を対象とした研究はまだ少なく、さらなるデータの蓄積が必要です。また、睡眠の質や生活習慣など、他の要因への対策も欠かせません。深睡眠(脳波上のN3を示します)の間で、グリンパティック系の働きは活発になることが知られており、深い睡眠を十分とれるような生活習慣を構築することも重要です。

文献[3] より グリンパティック系はNREM 3期の間に機能が活性化することが知られている

とはいえ、寝る姿勢を変えるだけで認知症リスクが変わる可能性があるのは、非常に興味深い発見だと言えるでしょう。当記事が皆さまのより良い睡眠の参考になりましたら幸いです。

参考文献

[1] D Levendowski, C Walsh, T Neylan, J Lee-Iannotti, D Tsuang, C Berka, G Mazeika, B Boeve, E St. Louis, P012 Head Position During Sleep: Potential Implications for Patients with Neurodegenerative Disorders, SLEEP Advances, Volume 4, Issue Supplement_1, October 2023, Page A38, https://doi.org/10.1093/sleepadvances/zpad035.097

[2] Levendowski DJ, Gamaldo C, St Louis EK, Ferini-Strambi L, Hamilton JM, Salat D, Westbrook PR, Berka C. Head Position During Sleep: Potential Implications for Patients with Neurodegenerative Disease. J Alzheimers Dis. 2019;67(2):631-638. doi: 10.3233/JAD-180697. PMID: 30614805; PMCID: PMC6398535.

[3] Nedergaard M, Goldman SA. Glymphatic failure as a final common pathway to dementia. Science. 2020 Oct 2;370(6512):50-56. doi: 10.1126/science.abb8739. PMID: 33004510; PMCID: PMC8186542.

[4] Lee H, Xie L, Yu M, Kang H, Feng T, Deane R, Logan J, Nedergaard M, Benveniste H. The Effect of Body Posture on Brain Glymphatic Transport. J Neurosci. 2015 Aug 5;35(31):11034-44. doi: 10.1523/JNEUROSCI.1625-15.2015. PMID: 26245965; PMCID: PMC4524974.

[5] Gordon SJ, Grimmer-Somers KA, Trott PH. A randomized, comparative trial: does pillow type alter cervico-thoracic spinal posture when side lying? J Multidiscip Healthc. 2011;4:321-7. doi: 10.2147/JMDH.S23028. Epub 2011 Aug 17. PMID: 21966226; PMCID: PMC3180478.

[6] Person E, Rife C, Freeman J, Clark A, Castell DO. A Novel Sleep Positioning Device Reduces Gastroesophageal Reflux: A Randomized Controlled Trial. J Clin Gastroenterol. 2015 Sep;49(8):655-9. doi: 10.1097/MCG.0000000000000359. PMID: 26053170.