女性は一生を通じてホルモンの影響を受け続けます。このホルモンの影響により、睡眠は影響を受けるでしょうか?
本コラムでは、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を元に、月経による睡眠への影響についてお話したいと思います1。
女性は約1ヶ月のサイクルで月経を繰り返します。
月経のサイクルは、下の図のように、月経から排卵までの「卵胞期(らんぽうき)」と、排卵から月経までの「黄体期(おうたいき)」に分かれています。
エストロゲンが多く分泌される卵胞期は問題は少ないのですが、プロゲステロンが多く分泌される黄体期には月経前症候群(PMS)が起こりやすいとされています。PMSとは月経前に起こる心身の不調で、この様々な症状の中に、睡眠状態の悪化(睡眠が浅くなり、日中の眠気が強くなる)も含まれます2。
❝ PMSが重症である女性は、睡眠状態の悪化に加えて朝の目覚めや精神状態も悪くなりやすい ❞
PMSの症状が重度の女性と、PMSがない女性を比較した米国の研究があります3。
それによると、PMSの有無にかかわらず、卵胞期に比べて黄体期は睡眠状態が悪いと自己評価していました。また、PMS重症の女性のみ、黄体期の精神状態の悪化、朝の目覚めの悪さを報告していました。PMSの有無で比較すると、PMS重症の女性は、PMSがない女性と比較して、REM睡眠(体は休んでいるが、脳は覚醒に近い状態になっている睡眠)の時間が長いという結果でした。
このことから、女性は黄体期は睡眠状態が悪化しやすいことが分かります。
月経の経血量が多い時、貧血(鉄不足)に陥ってしまうことがあります。
鉄不足は睡眠にも影響を及ぼす時があります。
経血量が多く、体内の鉄が不足すると、脳内のドーパミンも不足してしまいます。
この脳内のドーパミン不足が原因となり、「むずむず脚症候群(安静時に出現する不快な感覚(むずむずだけでなく、痛みや灼熱感も含む)。特に夕方から夜に増悪し、動かすと症状が楽になることが多い)」が出現・増悪します4。
(※参考:手足がむずむず・そわそわする?むずむず脚症候群ってどんな病気?)
女性は特に月経や妊娠によって鉄不足になりやすいため注意した方が良いでしょう。
実際、フランス人を調査した研究では、むずむず脚症候群のある割合は、女性は約10%、男性は約5%と、女性は男性の2倍程度の頻度で症状が報告されました5。
むずむず脚症候群は見逃されやすい疾患です。
夜寝る時につい足を動かしてしまって寝にくいという方は、睡眠外来を受診してみてください。
生理痛がある南アフリカの女子大生を対象に、生理痛と睡眠状態の関係を調べた研究があります6。
生理痛のある者を2グループに分け、「プラセボ(鎮痛薬として患者に渡す体に害のない薬の形をした物質[デンプンやスターチなどが多い])」と「鎮痛薬(ジクロフェナクナトリウム)」のいずれかを飲んでもらいます。すると、生理痛がある者のうち、鎮痛薬を飲んだ者は、飲まなかった者と比べて、睡眠の質が良く、朝の集中力が高い結果でした。
生理痛が酷く眠れないという方は、まずは何か病気が隠れていないか確認するため、産婦人科・婦人科へ受診し、今ある症状を伝えてください。
月経による不快感だけでなく、ホルモンによる影響で、女性は睡眠状態が定期的に悪化しやすくなります。
そのため、ご自身の月経周期を把握し、睡眠状態が悪化しやすい時期には特に良い眠りのための対策を取りましょう。
良い眠りのための方法としては、朝日に当たる、15時以降のカフェインを控える、飲酒しない、鉄分を摂る、寝る前にスマホなどの明るい画面を見ないなどの基本的な対策があります。特に、朝日にあたることや夜の光を避けることは、PMSによる不眠症状を減らす上で有用な対策と考えられます。小規模な臨床研究では、PMSによる不眠・不快症状が強い群では、卵胞期や黄体期に夜の血漿中メラトニン濃度が下がっていることが示されています7。夜のメラトニン分泌を良好にし、深い睡眠を取るためには、午前中は十分な太陽光を浴び、夜はディスプレイからの光や蛍光灯の光を避けることが重要です。
文献[7]より 卵胞期(Follicular Pahse)及び黄体期に(Luteal Phase)にメラトニン分泌が悪くなっていることが分かります。
これまでに紹介した以下コラムもぜひ参考にしてみてください。