
こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。今日はある論文[1]を題材に、体内時計に合った生活の重要性についてご紹介したいと思います。
人にはそれぞれ、体内時計(サーカディアンリズム)が備わっており、それに基づいて「朝型」「夜型」といった生活リズムの傾向があります。この傾向は「クロノタイプ(Chronotype)」と呼ばれ、生まれつきの体質や年齢によって大きく左右されます。例えば、思春期には夜型傾向が強くなり、中高年になると朝型に移行するのが一般的です。しかし、社会や職場では「朝型」が前提とされており、「夜型」の人が早朝から働くことを求められると、体内時計とのズレが生じ、慢性的な睡眠不足や睡眠障害を引き起こします。
こうした状態は、いわば「社会的時差ボケ(ソーシャル・ジェットラグ)」とも言われ、メンタルヘルスの悪化の原因になるとされています。さらに、この影響は個人の健康だけでなく企業の生産性にも関わります。睡眠不足や体調不良の状態で出勤を続けた結果、集中力や判断力が低下し、生産性が損なわれる状態を「プレゼンティズム(Presenteeism)」と言います。
東京医科大学の志村哲祥医師らの研究チームは、8,000人以上の企業勤務者を対象としたオンラインによる質問票調査を行い、クロノタイプは睡眠障害を介して間接的にプレゼンティズムに影響を与え、「個人の体内時計に応じた働き方」が生産性向上のカギになることを示しました。今回は志村哲祥医師らの研究を紹介するとともにクロノタイプとプレゼンティズムの関係について説明していきたいと思います。
志村医師らの研究では、2017~2019年にかけて東京都内の42企業に勤める8,155人の企業勤務者を対象に、オンラインによる以下の質問票調査を実施しました。
まず、MSFsc(クロノタイプ)の分布は以下のとおりでした。平均値は4:28 (±1:35)であるものの、例えば、4時に寝て10時に起きるような夜型群も一定数いることが分かります。

また、単回帰分析の結果、MSFsc(クロノタイプ)が夜型であるほどわずかに生産性が低下(プレゼンティズムが増加)していたことが分かりました (p<0.001)。しかし、PSQI(睡眠の問題)の値を共変量に加えると、クロノタイプが夜型であることは有意な説明変数ではなくなった(p=0.151)ことから、クロノタイプは直接ではなく、睡眠の問題を介してプレゼンティズムに影響を与えていると考えらます。
そこで、クロノタイプ→ 睡眠の問題 → プレゼンティズムという一連の因果関係を明確にするために、構造方程式モデリング(SEM)・パス解析を行いました。

図より以下のことが分かります。
クロノタイプ → 睡眠の問題
夜型傾向が強いほど睡眠の質が悪化(標準化係数 = .153, p<.001)。
睡眠の問題 → プレゼンティズム
睡眠の質が悪いと生産性が低下(プレゼンティズムの増加)(標準化係数 = .394, p<.001)。
クロノタイプ → プレゼンティズム
直接の関係は有意でない(標準化係数 = .014, ns)。
クロノタイプが夜型であること自体が直接プレゼンティズムに影響を与えるのではなく、睡眠の問題を通じて間接的に影響していると考えられます。つまり、「夜型だから仕事の効率が悪い」のではなく、「夜型傾向が原因となって生じる睡眠障害」が本質的な問題だということが明らかになったのです。クロノタイプは生まれつきの体質であり、それ自体を変えるのは難しいですが、睡眠の問題を解決することによって、夜型によるパフォーマンスの低下も改善できる可能性があるのです。
また、階層的重回帰分析の結果、朝型では起床時刻が遅れるほど生産性が低下(プレゼンティズムが0.059%増加)するのに対し、夜型では起床時刻が遅れるほど生産性が向上(プレゼンティズムが0.158%減少)する傾向が確認されました。


夜型傾向のある人にとって、早朝からの勤務や学業は、体内時計に逆らった行動になります。無理して朝早く起きようとすると十分な睡眠時間が確保できず、慢性的な睡眠不足に陥る可能性があります。つまり、夜型の人が「早起き」に合わせて生活しようと努力すると生産性の低下につながってしまう危険性があるということです。このことからも、個人の体内リズムを無視した一律の生活スケジュールではなく、それぞれのクロノタイプに配慮した柔軟な働き方や学び方が求められると言えるでしょう。
この研究では、生産性の低下の直接的な原因は「夜型であること」そのものではなく、夜型の人が無理に朝型のスケジュールに合わせようとすることで生じる「睡眠障害」であることが明らかになりました。夜型傾向を持つ人が、自身の体内時計に逆らって早起きを続けることは、慢性的な睡眠不足や質の悪い睡眠につながり、それが集中力や判断力の低下、ひいてはプレゼンティズムという形で生産性を著しく損なう要因となります。したがって、クロノタイプに応じた生活リズムの調整や、睡眠の質を保つ工夫こそが、生産性を高めるうえで重要な鍵であるといえるでしょう。
[1] Shimura, A., Yokoi, K., Sugiura, K., Higashi, S., & Inoue, T. (2022). On workdays, earlier sleep for morningness and later wakeup for eveningness are associated with better work productivity. Sleep, 95, 111–118.