些細なことで動揺したり、いつもより気分が不安定になったりすることはありませんか。
そんなとき、もしかすると原因の一つに「寝不足」があるかもしれません。睡眠不足のとき、恐怖や不安を感じやすくなり、脳の反応も強まることが研究で示されています。
今回は、こうした人の感情反応や気分の変化が、睡眠不足によってどのように脳の活動に表れるのかを明らかにした研究をご紹介します。

睡眠不足が学習や記憶、代謝、免疫など、さまざまな機能を損なうことはよく知られています。しかし、睡眠が「感情をつかさどる脳のはたらき」にどのように関わるのかは、これまで十分に解明されていませんでした。
この研究[1]では、睡眠不足のときに、感情のバランスを保つ脳のはたらきがどのように変化するのかを検証しました。
解析には、fMRI(機能的MRI:脳の血流変化をもとに活動部位を画像化する技術)を用い、感情を引き起こす脳の扁桃体(へんとうたい:amygdala)と、感情を制御する内側前頭前野(medial prefrontal cortex:前頭前野のなかでも感情の調整に関わる部分)のはたらきの関係を調べています。
研究では、18~30歳の健康な成人26人を対象に「一晩まったく眠らなかった群」と「通常どおり眠った群」とを比較しました。
睡眠または徹夜の翌日、参加者に、中立的なものから強い不快感を与えるものまで、感情刺激の強さを段階的に変えた画像を見せました。そして、そのときの脳の活動をfMRIで観察しました。
その結果、一晩眠らなかった人では、扁桃体の反応が、十分に眠った人よりも著しく強くなっていました。扁桃体は、恐怖を感じるときに強く反応する脳の中枢で、感情に関わる情報を受け取り、反応する役割をもつことが知られています[2]。このように、睡眠不足の状態では、恐怖や不安といった感情に過敏に反応しやすくなることがわかったのです。
さらに、睡眠不足では、感情をコントロールする前頭前野のはたらきが弱まり、扁桃体を抑える力が落ちることで、感情のバランスを保ちにくくなる可能性が示されています。

睡眠不足の影響は、感情の働きを抑える内側前頭前野にも及んでいました[1]。
通常、この部分は扁桃体の活動を抑えて、感情の反応を落ち着かせるはたらきをしています。しかし、睡眠不足の状態では、この前頭前野と扁桃体のつながりが弱まり、同時に扁桃体の反応が強まることが観察されました。
つまり、感情を調整する脳のはたらきがうまく働かず、感情反応が過剰になりやすい状態になっていたのです。

その後の研究では、睡眠不足が「ネガティブな感情」だけでなく、「ポジティブな感情」に対しても反応を強めることが示されています[3][4]。喜びや達成感などうれしい刺激を感じるときにはたらく「報酬系(腹側線条体など)」の反応が過剰になり、同時に感情を調整する内側前頭前野との結びつきが弱まっていました[3]。
このことから、睡眠が不足すると「感情の高まりをうまく調整する仕組み」が働きにくくなり、感情の起伏が大きくなる可能性が示唆されています。

こうした一連の研究をまとめたレビュー論文[4]では、特にレム睡眠中に、扁桃体と前頭前野のネットワークが再調整され、日中に受けた感情的な刺激への反応を落ち着かせることが報告されています。この再調整が十分に行われないと、翌日も感情の高ぶりが続き、小さな刺激にも過敏に反応しやすくなるおそれがあります。
睡眠不足になると、感情を起こす脳のはたらきが過剰に働き、それを抑えるはたらきが弱まることが分かっています。つまり、寝不足のときに気分が不安定になったり、感情の振れ幅が大きくなったりするのは、脳の神経メカニズムが一因として関係していると考えられます。
睡眠は、単なる休息ではなく、脳が一日の感情体験を整理し、心のバランスを取り戻すための時間でもあります。心が不安定に感じるときは、睡眠の質を見直すことも大切です。
睡眠に関して不安や悩みがある方は、ぜひ当クリニックにご相談ください。健康的な眠りをサポートいたします。
参考文献