睡眠時間がワクチン効果に与える影響──B型肝炎など複数のワクチン研究から──

体を守る「抗体」──免疫とワクチンのしくみを知る

ワクチンを接種したときに、「ちゃんと効果が出るだろうか」と気になる方は多いのではないでしょうか。
同じワクチンを受けても、感染しにくくなる人と、そうでない人がいます。

その違いを生む要因の一つとして、睡眠との関係が研究で報告されています。

そもそも、私たちの体には、ウイルスなどの病原体が入ってきたときに、それを見つけて排除する「免疫」という防御のしくみがあります。
免疫には、生まれつき備わっている自然免疫と、いったん出会った病原体を記憶しておき、次に同じ病原体が入ってきたときに素早く防ぐ備えをつくる獲得免疫があります。

ワクチンは、実際に感染しなくても、体に「病原体の一部」を覚えさせることでこの獲得免疫をつくり、次に本物のウイルスが入ってきたときにすぐに防御反応を起こして排除できるようにするものです[1]。つまり、実際に感染することなく、安全な形で体に「感染したときと同じ備え」を学ばせる仕組みといえます。

ワクチン接種によって体内では「抗体」と呼ばれるたんぱく質が作られます。抗体はウイルスの表面に結合して感染を防ぐ働きを持ち、その量(抗体価)はワクチンの効果を評価する指標の一つです。

このようにしてつくられる免疫の働きがどの程度発揮されるか──その違いに関わる要因の一つとして、睡眠が関係していることがわかってきました。

睡眠時間が短いと、免疫のつき方が弱まる?

近年の研究では、睡眠時間がワクチン接種後の免疫のつき方に関わる可能性が報告されています[2]。対象となったのはB型肝炎ワクチンで、接種前から睡眠を記録し、その後の抗体のつき方を追跡した研究です。

この研究には、これまでB型肝炎ウイルスに感染したことがなく、ワクチン接種も未経験の健康な成人125名(40~60歳)が参加しました。参加者は、初回・1か月後・6か月後の合計3回、B型肝炎ワクチンを接種しました[2]。

睡眠はアクチグラフ(腕時計型の活動量計)と睡眠日誌で記録し、次の3項目を評価しました。

  • 平均睡眠時間
  • 睡眠効率(ベッドにいた時間のうち、実際に眠っていた時間の割合)
  • 眠りの深さや満足感といった主観的な睡眠の質

ワクチンの効果は、血液中のHBs抗体の値で評価されました。
接種のたびに採血を行い、各回接種後の抗体反応と、最終的な免疫の成立が調べられました。

2回目接種の前に採血を行い、初回接種後の抗体反応(一次抗体反応)を評価しました。(この段階での結果については明確な関連は報告されていません)。
3回目接種の前に採血を行い、2回目接種後の抗体反応(二次抗体反応)を評価しました。
3回目接種の6か月後(初回接種から約1年後)に、抗体が10 mIU/mL以上となり、感染を防げる水準に到達しているかを確認しました。

睡眠時間が長い人の方が、免疫がつきやすい

解析の結果、ワクチン接種の前後1週間に記録された睡眠時間が、その後どの程度抗体がついたかに関係していることがわかりました。

  • 平均睡眠時間が7時間以上の人では、抗体が10 mIU/mL以上に達した割合は88.9%でした。
  • 6時間未満の人では42.2%にとどまりました。

つまり、睡眠時間が短い人では、十分に免疫ができた割合が7時間以上眠った人のおよそ半分にとどまっていたのです。この傾向は、年齢・性別・体格指数(BMI)、そして初回接種時の抗体反応とは関係なく見られました[2]。

一方で、眠りの深さや満足感といった主観的な質や睡眠効率は、抗体のつきやすさに明確な関連は見られませんでした。ワクチンの抗体獲得に関連していたのは「眠りの主観的な質」よりも、むしろ「睡眠時間(量)」だったのです。

なお、この研究は健康な中年成人を対象にB型肝炎ワクチンで行われたものであり、すべての年代や他のワクチンにそのまま当てはまるとは限りません。また、経過を追って観察した研究であるため、「睡眠不足が直接的に抗体反応を弱める」と因果関係を断定することはできません。

他のワクチンでも同じ傾向が?

B型肝炎だけでなく、インフルエンザA型肝炎などを対象にした複数の研究でも、睡眠時間が短い人ほどワクチン後の免疫反応が弱い傾向が示されています。こうした複数の研究をまとめたメタ解析[3]や体系的に整理したシステマティックレビュー[4]でも、同様の結果が繰り返し報告されています。

さらに、COVID-19(新型コロナウイルス)ワクチンを対象とした研究でも、睡眠時間が短い人では抗体の増え方が小さいことが示されています[5]。
この研究では、mRNAワクチン(ファイザー社またはモデルナ社)を接種した成人を対象に、接種の前後数日間(約5日間)の睡眠をアクチグラフで測定しました。その結果、平均睡眠時間が6時間未満の人では、6時間以上眠った人に比べて、ワクチン後の抗体の増え方がおよそ半分程度にとどまっていました[5]。

また、ワクチンの「接種時刻(朝か午後か)」と免疫反応の関連について、システマティックレビュー[3]で検討されましたが、研究間で結果は一致しておらず、今後の検討課題とされています。

まとめ

今回ご紹介した研究では、睡眠時間が長いほどワクチン後の抗体反応が強く、免疫がしっかりつきやすいことが示されました。ワクチン接種の際に十分な睡眠を確保することは、感染症から身を守るための免疫力を高める生活習慣の一つといえるでしょう。

眠りが浅い、寝つけないなどのお悩みはありませんか?

睡眠についてのお悩みや不安がある方、改善をご希望の方は、ぜひ一度、当クリニックにご相談ください。専門医が丁寧にお話を伺い、最適な方法を一緒に考えてまいります。

参考文献

[1] Plotkin SA. Correlates of protection induced by vaccination. Clin Vaccine Immunol. 2010;17(7):1055–1065. PMID: 20463105; PMCID: PMC2897268.

[2] Prather AA et al. Sleep and antibody response to hepatitis B vaccination. Sleep. 2012;35(8):1063–1069. PMCID: PMC3397812; PMID: 22851802.

[3]Spiegel K et al. A meta-analysis of the associations between insufficient sleep duration and antibody response to vaccination. Current Biology.2023;33(5):998–1005.e2. PMID: 36917932.

[4] Rayatdoost E et al. Sufficient Sleep, Time of Vaccination, and Vaccine Efficacy: A Systematic Review of the Current Evidence and a Proposal for COVID-19 Vaccination. Yale J Biol and Med. 2022;95(2):221–235.PMCID: PMC9235253; PMID: 35782481.

[5] Izuhara M et al. Association between sleep duration and antibody acquisition after mRNA vaccination against SARS-CoV-2. Front Immunol. 2023; PMID: 38149250; PMCID : PMC10750410.