長く寝ても“眠れなかった気がする”のはなぜ?研究が示す睡眠の錯覚

「昨日は10時間も布団に入っていたのに、ほとんど眠れなかった気がする。」

そのように感じた経験はありませんか。

実は、睡眠時間の“感じ方”と、脳波で測定した実際の睡眠時間は必ずしも一致しないことが、海外の研究で示されています[1]。

しかもこのズレは、不眠症の患者さんだけでなく、健康な人にも起こり得ることが報告されています。

なぜこのような「睡眠の錯覚」が起こるのでしょうか。

本記事では、入院下で行われた研究結果をもとに、睡眠時間の感じ方がズレる理由について、わかりやすく解説します。

長く寝たはずなのに「眠れなかった」と感じる理由

睡眠の評価には、大きく分けて2つの方法があります。

  • 主観的評価:本人が「何時間眠ったと思うか」を自己申告する
  • 客観的評価:脳波で睡眠時間を測定する

不眠症の診断は、主に本人の訴えに基づいて行われます。

しかし過去の研究では、「実際の睡眠時間よりも短く感じている」ケースが存在することが示されています[1]。

このような現象は「睡眠誤認」と呼ばれており、重要なのは、これが必ずしも“思い込み”という単純な問題ではなく、睡眠中の脳の状態や時間感覚の処理が関係している可能性がある点です。


健康な人でも起こる“睡眠の錯覚”──入院研究の結果

この現象を検討するために行われたのが、Bianchiらの研究です[1]。

研究の概要

  • 対象:健康な成人44名
  • 方法:時計や外光などの時間手がかりを排除した入院環境
  • 条件:
    • 夜間に12時間の睡眠機会
    • 昼間に4時間の睡眠機会
  • 各睡眠後に「何時間眠ったと思うか」を自己申告

というような研究です。

通常、健康な人は自分の睡眠時間を比較的正確に見積もると考えられています。

実際に、最初の“普段通りの睡眠”では、主観と客観はほぼ一致していました。


図1 睡眠時間の誤認

図1(DおよびE)では、

  • 主観的睡眠時間(自己申告)
  • 客観的睡眠時間(脳波測定)

が比較されています。

結果は興味深いものでした。

  • 12時間の夜間睡眠機会(赤枠)では、主観的な睡眠時間(左図赤枠)は実際(右図赤枠)よりも短く見積もる(過小評価)
  • 4時間の昼間睡眠機会(青枠)では、主観的な睡眠時間(左図青枠)は実際(右図青枠)よりも長く見積もる(過大評価)

という結果になりました。

特に12時間の睡眠機会があった群では、

  • 実際: 約500分以上(8時間半)
  • 主観: 約360分(6時間程度)

となり、約100分以上も短く感じています[1]。

つまり、「長く寝たのに眠れなかった気がする」という感覚は、健康な人でも生じ得る現象だったのです。


睡眠の感じ方は「浅さ」や「中途覚醒」だけでは決まらない

では、このズレは「眠りが浅いから」起こるのでしょうか。

研究では、

  • 睡眠効率
  • 中途覚醒時間(WAPSO)
  • 覚醒回数
  • 各睡眠段階(レム睡眠やノンレム睡眠)

との関連が検討されました。

しかし、

  • 睡眠の断片化(中途覚醒の多さ)とズレは単純には一致しない
  • 「浅い睡眠が多い=強く過小評価する」とは限らない

という結果でした[1]。

つまり、睡眠の主観的体験は、単なる睡眠の深さだけでは説明できない、より複雑な現象である可能性が示唆されています。


まとめ

今回ご紹介した研究で明らかになったことは以下の通りです。

  • 睡眠時間の感じ方と実際の睡眠時間は一致しないことがある
  • 健康な人でも、長時間睡眠で「眠れなかった気がする」ことが起こり得る
  • そのズレは、単純に「浅い睡眠」だけでは説明できない

「眠れていない気がする」という感覚はつらいものですが、それが必ずしも“全く眠れていない”ことを意味するとは限りません。

睡眠について強い不安が続く場合は、自己判断だけで抱え込まず、客観的な評価を含めて医療機関で相談することも一つの選択肢です。


参考文献

[1]Bianchi MT, Wang W, Klerman EB. Sleep misperception in healthy adults: implications for insomnia diagnosis. J Clin Sleep Med. 2012 Oct 15;8(5):547-54. doi: 10.5664/jcsm.2154. PMID: 23066367; PMCID: PMC3459201.