寝ている間の“わずかな明かり”が体に与える影響とは?―睡眠中の光と体の関係

「電気をつけたままでも眠れているから問題ない」

そう感じている方は少なくありません。

実際、夜間にわずかな明かりがあっても、睡眠時間や主観的な眠気に大きな変化を感じないこともあります。

しかし近年、睡眠中の光が“自覚”とは別のかたちで、体の中の働きに影響している可能性を示した研究が報告されています[1]。

実際、目を閉じた状態でも光はある程度透過していると考えられています

人は寝ている間に目を閉じていますが、まぶたは完全な遮光カーテンではないのです。

本記事では、健康な成人を対象に行われた実験研究をもとに、

寝ている間のわずかな明かりが、翌朝の代謝や自律神経の指標とどのような関係を示していたのかを、できるだけわかりやすく解説します。


寝室の明かりはどの程度が問題になるのか?―研究で用いられた「光の強さ」

寝室の照明について考える際、多くの方がまず気になるのは

「どれくらいの明るさなら問題になるのか」という点ではないでしょうか。

今回取り上げる研究では、睡眠中に約100ルクスの室内照明を一晩浴びる条件と、3ルクス未満の非常に暗い環境で眠る条件が比較されました[1]。

100ルクスという明るさは、日常生活では特別に強い光ではありません。

一般的な家庭用の天井照明や、ホテルの室内照明としても珍しくないレベルです。

この研究で重要なのは、「まぶしくて眠れないほどの光」ではなく、「眠れてしまう程度の明かり」が用いられている点です。

つまり、読者の多くが日常的に経験している可能性のある照明環境が対象になっています。

また、対象者は18〜40歳の健康な成人であり、肥満や糖尿病などの基礎疾患を持たない人が選ばれています。

そのため、結果は「特定の病気がある人」ではなく、一見すると健康に問題のない人に起きた変化として捉えることができます。


睡眠中に光を浴びると、体の中で何が起きていたのか

この研究の中心的なテーマは、睡眠中の光が翌朝の代謝や自律神経指標にどのような変化と関連していたかです。

研究では、参加者に対して翌朝に経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)が行われ、血糖値やインスリンの反応が詳細に測定されました。また、心拍数や心拍変動(HRV)といった、自律神経活動の指標も睡眠中に連続して記録されています。

インスリン抵抗性指標の変化(図1)

その結果、睡眠中に100ルクスの光を浴びた翌朝には、

空腹時のインスリン抵抗性指標(HOMA-IR)が、暗い環境で眠った場合と比べて高くなる傾向が示されました[1]。

さらに、OGTTにおいては血糖値自体に大きな差は見られなかったものの、食後早期(30分以内)のインスリン分泌量が多いことが確認されています。

これは、体が血糖値を保つために、より多くのインスリンを分泌して対応していた可能性を示唆する結果です。

心拍数と自律神経の変化(図2)

また、100ルクスの光を浴びて眠った夜は、平均心拍数が高く、心拍変動が低下していました[1]。

心拍変動は、自律神経のバランスを反映する指標の一つで、一般に交感神経が優位な状態では低下することが知られています。

実際、この研究では、睡眠中の交感神経活動が相対的に高まっていた可能性が示唆され、その変化量と翌朝のインスリン分泌量との間に関連が見られています。

ここで重要なのは、これらの変化が一晩の睡眠で観察されたという点です。

ただし、研究者自身も強調しているように、これは短期的な生理反応であり、長期的な健康影響を直接示すものではありません。


より弱い光でも睡眠に影響する可能性

当院の過去のコラムでは、5ルクス(暗い)と10ルクス(やや明るい)の環境を比較したところ、10ルクス条件では睡眠時間が短くなり、睡眠効率も低下していたという研究結果もご紹介しました

10ルクスは、常夜灯やテレビの明かりに近いレベルで、今回取り上げた研究と比べてもさらに弱い光となります。

やはり、ほのかな明かりであっても睡眠に影響する可能性が示唆された点は重要といえるでしょう。


日常生活ではどう考えるべきか―今回の研究結果から読み取れるヒント

では、これらの研究結果を日常生活にどう生かせばよいのでしょうか。

まず大前提として、この研究は一晩の実験結果であり、

「睡眠中に光を浴びると必ず病気になる」「代謝が悪化する」といった因果関係を断定するものではありません。

そのうえで、読み取れる現実的なポイントは次のようなものです。

「眠れているから大丈夫」とは限らない

この研究では、眠気や睡眠時間に大きな変化がなくても、自律神経や代謝関連指標に変化が見られました

つまり、「朝まで眠れた」「途中で起きなかった」という感覚だけでは、睡眠環境の影響を完全に判断できない可能性があります。

寝室の照明環境を見直すという視点

必ずしも「完全な暗闇でなければならない」というわけではありませんが、

  • 天井照明をつけたまま眠る
  • テレビをつけっぱなしで寝落ちする

といった習慣がある場合は、照明の使い方を一度見直してみる価値はあると考えられます。

特に、睡眠中の体は意識していなくても外部刺激に反応している可能性があり、環境調整は比較的取り組みやすい工夫の一つです。


気になる症状がある場合は専門家へ

夜間の照明だけでなく、

  • 睡眠の質に不安がある
  • 朝の疲労感が強い
  • 生活習慣病が気になっている

といった場合には、自己判断だけでなく、睡眠を専門とする医療機関に相談することも重要です。


まとめ

今回紹介した研究は、睡眠中のわずかな明かりが、翌朝の代謝や自律神経の指標と関連していた可能性を示したものです[1]。

眠れている感覚があっても、体の中では別の反応が起きていることがあり、

寝室の照明環境は、睡眠の質を考えるうえで見落とされがちな要素の一つといえるでしょう。

無理のない範囲で、「夜はできるだけ暗くする」という視点を持つことが、

睡眠環境を整える第一歩になるかもしれません。


参考文献

[1]Mason IC, Grimaldi D, Reid KJ, Warlick CD, Malkani RG, Abbott SM, Zee PC. Light exposure during sleep impairs cardiometabolic function. Proc Natl Acad Sci U S A. 2022 Mar 22;119(12):e2113290119. doi: 10.1073/pnas.2113290119. Epub 2022 Mar 14. PMID: 35286195; PMCID: PMC8944904.