受験シーズンが近づいてきて、夜遅くまで勉強を頑張っている方も多いのではないでしょうか。
思春期では、起きている時間が長くなっても眠気が強くなりにくく、体内時計のリズムも後ろにずれるため、「夜型」の傾向が強まりやすくなります[1]。
しかし、入試本番は多くの場合「朝」。夜型のままでは、試験の時間に十分な集中力を発揮できないのではないか、と心配になることもあるかもしれません。働く環境であれば勤務時間をある程度調整できる場合もありますが、入試の開始時刻は決まっているため、自分のリズムを合わせるしかありません。夜型の傾向がある人では、「少しでも朝型に近づけたい」と感じることも多いでしょう。
実際に、生活リズムを整えるなどの工夫で体内時計を朝寄りに動かすことはできるのでしょうか。

こちらのコラムでもご紹介しましたが、人には「朝型」「夜型」といった生活リズムの傾向があります。この傾向は「クロノタイプ(Chronotype)」と呼ばれ、生まれつきの体質や年齢に左右されます。
夜型の人では、体内時計(概日リズム)と、学校などの決められた朝から始まる活動時間帯との間にずれが生じやすく、体のリズムをその時間帯に合わせて行動することが難しくなります。夜型の学生では、こうした「社会的ジェットラグ」と成績の低さが関係していることが報告されています。
オランダの中高生523人を対象として、1年間の試験成績をもとに、クロノタイプや社会的ジェットラグが成績にどのように関係しているかを分析した研究[2]では、夜型の生徒は特に朝に行われた理系科目の試験成績が低い傾向がみられました。一方、午後に行われた試験では朝型・夜型の差はみられませんでした。つまり、朝型や夜型といった体質の違いそのものではなく、試験が行われる時刻が成績に影響していたことがわかります。
このように、夜型の人では朝の時間帯に十分な力を発揮しにくい場合があります。入試のように「決められた朝の時刻」に合わせて集中力を発揮するには、自分の体内時計を少しずつ朝寄りに整えておくことが大切です。
そこで、若い世代を対象に体内時計を前倒しできるかどうかを調べた研究をご紹介します。

体内時計のリズムはおよそ24時間周期で繰り返されています。このリズムの進み具合や遅れ具合を示す指標を「位相(phase)」と呼びます。体内時計が刻んでいる“自分の中の時刻”のようなものです。この位相を、光や睡眠スケジュールによってどの程度動かせるのかを調べた研究があります。
イギリスの Dijkらの研究[3]では、健康な成人14人(平均25.8歳)を対象に実験が行われました。参加者は、就寝・起床時刻を徐々に早めながら、明るさの異なる2種類の光環境のいずれかで過ごす条件下で、位相がどう変化するかが調べられました。この実験では、5日間かけて就寝・起床時刻を合計10時間早めるスケジュールで過ごし、その後も数日間、前倒しした時刻で生活を続けました。
光の環境は、次の2通りで比較されました。
① 中程度の光条件: 1日を通して約90〜150ルクス(家庭の落ち着いた室内照明に相当)で過ごしました。
② 起床後しばらく明るい光で過ごす条件:起床後の早い時間帯(おおむね起床1時間後から)に、約10,000ルクス(薄曇りの日の屋外の太陽光に相当)の明るい光を5〜8時間浴びました。光を浴びる時間は日ごとに調整され(5日間で順に5、5、6、7.5、8時間)、それ以外の時間は約90〜150ルクスの明るさで過ごしました。
その結果、②の明るい光で過ごした群では、体内時計の指標となるメラトニン(夜になると増えて眠りを促すホルモン)の分泌の位相が約8時間前進しました。一方、①の中程度の光条件の群では明確な変化は見られませんでした。

この結果は、研究施設内で光と睡眠時刻を厳密に管理した条件下で得られたものです。起床時刻と光を浴びる時刻の両方を徐々に早め、最終的には深夜から明るくするという、家庭では再現が難しい条件で実施された結果ではありますが、起床直後から明るい光を取り入れることが体内時計の調整に有効であることを示す結果といえます。
また、日常生活に近い環境で、人工照明と自然光の違いによる体内時計への影響を比較した研究もあります。
アメリカのWrightらの研究[4]では、健康な成人8人を対象に、人工照明のある通常の生活環境で過ごす場合と、電気照明を使わず自然光だけで過ごす場合とで、体内時計への影響を比較しました。
参加者はまず、人工照明のある室内環境で1週間生活し(日中の平均照度は約1000ルクス、夜も完全な暗さにはならない照明環境)、その後、山のキャンプ場で1週間、人工照明を一切使わずに生活しました。
自然光だけのキャンプ場では、日中の照度は平均4500ルクスと明るく、夜になるとはほぼ暗闇になるため、明暗のメリハリがはっきりしていました。一方、通常の生活環境では、照明によって夜も完全には暗くならない状態が続きました。

その結果、自然光のみの環境で過ごした場合には、メラトニン分泌の開始時刻(DLMO: Dim Light Melatonin Onset)が平均で約2時間早まり、体内時計がより早い時刻へ前進することが明らかになりました。
これらの結果は、夜間の照明が明るく昼夜の明暗差が小さい現代の照明環境では体内時計が遅れやすく、一方、自然の明暗サイクルのもとでは体内時計が前進(朝型に近づく)しやすいことを示しています。つまり、昼と夜の明暗差(明暗のコントラスト)が、体内時計のリズムを整えるうえで重要な要素であることが明らかになっています。

体内時計は個人差が大きく、一般的には、夜型から朝型へと完全に変えるのは難しいとされています。しかし、生活リズムを整えて少しずつ就寝・起床を早めることで、ある程度体内時計を朝寄りに近づけることは可能です。
入試当日に集中力を発揮するためには、急に早起きするよりも、一定期間をかけて就寝・起床時刻を徐々に早めていくのが現実的です。「夜更かしを避け、朝の光をしっかり浴びる」「午前中にウォーキングや軽いジョギングなどの適度な運動をする」など、自分のリズムを少しずつ朝寄りに動かすことが、効果的な準備といえるでしょう。
睡眠に関して不安や悩みがあれば、どうぞお気軽に当クリニックにご相談ください。
参考文献
[1] Hagenauer MH, et al. Adolescent changes in the homeostatic and circadian regulation of sleep. Dev Neurosci. 2009. 31(4):276–284. PMID: 19546564 ; PMCID: PMC2820578
[2] Zerbini G et al. Lower school performance in late chronotypes: Underlying factors and mechanisms. Scientific Reports. 2017; 4385
[3] Dijk DJ et al. Amplitude reduction and phase shifts of melatonin, cortisol and other circadian rhythms after a gradual advance of sleep and light exposure in humans. PLoS One. 2012;7(2):e30037. PMID: 22363414 ; PMCID: PMC3281823
[4] Wright KP Jr, et al. Entrainment of the human circadian clock to the natural light-dark cycle. Curr Biol. 2013; 23(16):1554–1558. PMID: 23910656 ; PMCID: PMC4020279