睡眠外来では睡眠薬をあまり出さない、その理由 (1) 不眠があっても睡眠薬を使う前に

実は「睡眠薬」の処方をまず行うべき睡眠の問題など存在しないということ、ご存知でしたか?

以下の図は、医師が診察・治療で基本的に用いていく治療アルゴリズムである「ガイドライン」で、特にこれは「うまく眠れない」こと、つまり「不眠」に関する治療ガイドラインです。

※睡眠学会のガイドラインより

ここでは、「不眠があったら睡眠薬を処方する」とはけして書かれていないことが分かります。

「眠れない」という困りごとがあったとして、まずはじめに行うのは、「それは本当に不眠なのか」「治療をすべき不眠なのか」「リズムの問題はないのか」「ムズムズ脚など別の睡眠障害ではないのか」「身体疾患の疑いはないのか」などの検討となります。

ご本人の「単に眠れない」という訴えだけでは不眠症とは診断できず、日中機能障害(昼間眠いなど)や、その他いくつかのチェックポイントを満たして初めて、「不眠」という診断になります。なお、その他の睡眠障害には薬剤を使わないと治せないものもありますが、この場合には睡眠薬ではない別の薬剤(鉄剤、サプリメント、神経痛の薬、パーキンソン病の薬、抗うつ薬の一種など)や治療器具(睡眠時無呼吸に利用する機器など)が使用されます。

そして、様々なことを検討して、やはり「治療を要する不眠である」となった場合にまず行われるのが、睡眠薬の投与ではなく、「睡眠衛生指導」です。

カフェインや光、特定の食事内容など、様々な睡眠に関わる生活習慣や、眠る際の環境や心理状況など、「睡眠衛生」と呼ばれる睡眠に関連する生活習慣・環境が、かなりの頻度で不眠を引き起こします。そしてこれらに問題がある場合、不眠を「治す」ために必要なのはその生活習慣や環境の是正であり、服薬ではありません。睡眠薬の使用はあくまで「対症療法」にすぎず、原因を突き止められていないばかりか、不眠を「治す」ことができていません。これは例えて言えば「熱が出てつらいので解熱薬を飲む。しかし何で熱が出ているのかは分からない。そして薬の効果が切れたらまた熱が出る」ということと同義です。

当院では「睡眠衛生指導」を非常に重視して治療を行っています。薬剤を使わずとも、あるいは一時的にだけ使用するだけで、不眠が軽快し、その後通院が不要となる患者様は数多くいらっしゃいます。

行うべきことは、まず「不眠の原因をさぐる」こと。そして、「疑わしい生活習慣等(睡眠衛生)の問題があればまずその是正を試みる」ことです。そのため、睡眠外来では最初からいきなり大量に睡眠薬が処方されるようなことはまずありません。(もちろん、不眠が現在すでに非常につらい場合には、最初に一時的に処方を行うことはあります。これはまさに解熱薬のような使用例です)

次のコラムでは、睡眠薬でも、特にベンゾジアゼピン系と呼ばれる旧来型の睡眠薬の処方が極力控えられる理由を述べていきます。