「一晩寝たら、昨日まで悩んでいたことが不思議と整理されていた」
「考えてもわからなかった問題の答えが、朝になって急に思いついた」
こうした経験は、多くの人が一度は感じたことがあるのではないでしょうか。
睡眠は、疲れを取るだけでなく「記憶を保つ働き」や「情報を整理し直す働き」が提唱されています。
本記事では、以前、科学誌 Nature に掲載された研究をもとに、なぜ寝たあとに考えが整理されやすくなるのか、
そして睡眠中に脳内で起こっていると考えられている「記憶の組み替え」について、一般の方にもわかりやすく解説します。
「一晩寝たら、昨日まで混乱していた考えがすっきりした」
このような経験は、偶然や気分の問題だけで説明できるのでしょうか。
睡眠は、単に体を休ませる時間ではなく、脳にとっては日中に得た情報を整理する大切な時間だと考えられています。
2000年代に発表された認知神経科学の研究では、睡眠が情報の“整理し直し”に関わる可能性が示唆されています[1]。
この研究では、「考えが整理される」「突然ひらめく」といった現象を、実験的に検証しました。
この研究で用いられたのは、「数列変換課題」と呼ばれる課題です[1]。
被験者は、いくつかの数字が並んだ列を、決められたルールに従って順番に処理し、最終的な答えを導き出します。
この課題の特徴は、表向きのルールとは別に、説明されていない“隠れた規則”が存在する点です。
多くの被験者は最初、その隠れた規則に気づかないまま作業を続けますが、
ある瞬間に「実は最初の段階ですでに答えがわかっていた」ということに気づく人がいます。
この瞬間が、いわゆる「ひらめき」や「洞察」にあたります。
研究者たちは、この気づきが起こるかどうか、そしていつ起こるのかを、反応時間の変化から客観的に評価しました。
被験者は、事前に課題の練習をした後、次の3つの条件に分けられました。
その後、再び同じ課題を行い、「隠れた規則」に気づいた人の割合を比較しました。
また、比較対象として課題の事前練習をしていない群も用意しました。
その結果、事前練習をし、睡眠をとった群では、起きていた群よりも、気づきに到達した人の割合が高かったことが示されました[1]。
この結果は、「睡眠をとることで事前練習の記憶が整理され、ひらめきにつながった可能性」を示唆しています。
[1]より引用。日本語の注釈は筆者が挿入したもの。

では、なぜ睡眠をはさむことで「気づき」が起こりやすくなったのでしょうか。
研究者たちは、睡眠中に記憶の表現が整理・再構成される可能性を指摘しています[1]。
これは、「記憶を強くする」というよりも、情報同士の関係性を組み替えるイメージに近いものです。
たとえば、起きている間は、
・作業の手順
・目の前の数字
・操作の順番
といった細かい情報に注意が向きやすくなります。
一方、睡眠中には、それらの情報が再生され、より大きなまとまりとして整理されます。
この過程によって、
「実はこの部分は毎回同じだった」
「ここが本質的なルールだった」
といった、新しい見方が生まれるのではないかと考えられています。
この研究は、あくまで実験課題を用いた基礎研究であり、
「睡眠をとれば必ず良いアイデアが浮かぶ」と断定できるものではありません。
しかし、次のように考えることはできます。
睡眠は、記憶を保存するだけでなく、
考えを整理し、新しい視点を生み出す土台になる可能性がある。
この研究は、そのことを示した一例といえるでしょう。
参考文献
[1]Wagner U, Gais S, Haider H, Verleger R, Born J. Sleep inspires insight. Nature. 2004 Jan 22;427(6972):352-5. doi: 10.1038/nature02223. PMID: 14737168.