ベッドに入ると、明日の予定ややり残しのこと、心配事などが次々と頭に浮かび、なかなか眠りにつけないことがあります。このように、就寝時に心配事や未完了の用事について意識が向きやすくなる状態は、入眠を妨げる一因として知られています。
眠ろうと意識するほど、頭の中で思考がぐるぐると巡り続け、目が冴えて眠れないまま時間だけが過ぎていく──このような経験のある方も少なくないのではないでしょうか。
不眠に対しては、考え方(認知)や行動のパターンに注目する認知行動療法が用いられることがあります。今回ご紹介する認知行動療法では、「眠ろうとする場で考え続けてしまう状態」そのものが、入眠を妨げている可能性に注目します。
ベッドで心配事や予定について考え続けることで、頭が休まらず眠りにつきにくい状態が続きます。その結果、「疲れているのに眠れない」「布団に入ると目が冴える」という状態が繰り返されてしまうことがあります。
こうした流れを断ち切る工夫の一つが、寝る前に考え事を紙に書き出す「To do リスト法」です。考え事を眠る行為そのものから切り離すことを目的とした、認知行動療法のアプローチの一つです。

2017年、アメリカの研究グループによって、寝る前の書き出しが入眠に与える影響を調べた研究が報告されました[1]。この研究では、18〜30歳の若年成人57名(男女) を対象に、就床前に5分間、紙に書く課題が与えられました。
参加者は二つのグループに分けられました。一方のグループには「これから数日間に完了するために覚えておく必要のあること」をTo doリストとして書き出してもらい、もう一方のグループには「過去数日間にすでに完了したこと(完了リスト)」を書いてもらいました。睡眠の状態は睡眠ポリグラフ(PSG)を用いて客観的に評価されています。
その結果、To doリストを書いたグループでは、入眠までにかかる時間が平均で約16分であったのに対し、完了リストを書いたグループでは約25分であり、両群の間に有意な差が認められました[1]。

さらにこの研究では、書き出した内容の量、すなわちリストに含まれる項目数と、入眠までの時間との関係も分析されています。

図に示されているように、To do リストを書いたグループでは、書き出した項目数が多い参加者ほど、入眠までの時間が短い傾向がみられました。逆に、完了リストを書いたグループでは、書き出した項目数が多いほど、入眠までに時間がかかる傾向が示されています[1]。
この結果は、「やったこと」を振り返るよりも、「これからやること」を十分な数書き出す方が、入眠にとって有利である可能性を示しています。実際の分析には、20項目以上を書き出していた参加者も含まれており、数個程度にとどめず、ある程度まとまった数を書き出すことが重要である可能性が示唆されます。
一方で、レム睡眠やノンレム睡眠の割合など、睡眠段階の構成に大きな違いはみられず、この研究では主に「寝つき」に差がみられことが示されています。
人は、終わっていない用事や今後の予定について、就寝時に考えやすいことが指摘されています[1]。未完了のタスクや今後の予定を頭の中に抱えたままでいると、考えが頭から離れにくくなり、入眠の妨げとなる可能性があります。
To do リストとして紙に書き出すことで、こうした未完了の用事や予定を一度外に出し、考え続ける状態から離れやすくなります。この研究では、参加者は問題をその場で解決することは求められておらず、やるべきことを書き出しただけでした。それにもかかわらず、To do リストを書いたグループでは、すでに完了した活動を書いたグループと比べて、入眠時間が有意に短いことが示されました[1]。
この結果から、就寝前に問題を解決することそのものよりも、考え続けてしまう状態から一度離れることが、入眠しやすくなることに関係している可能性があることがうかがえます[1]。

To do リスト法では、就床前に5分間程度、明日以降にやるべきことを書き出します。書き出した内容について、その場で解決しようとしたり、詳しい計画を立てたりする必要はありません。あくまで「頭の中にあることを紙に移すこと」が目的で、短時間で終えることが大切です。数個程度にとどめるよりも、思いつく内容をある程度まとめて書き出す方が、入眠にとって有利である可能性が示されています。
なお、この方法は「寝つき」を良くするための工夫の一つであり、不眠の原因がほかにある場合には十分な効果が得にくいこともあります。気になる症状や寝つき以外の問題が続く場合には、別の対処法が必要になるケースもあります。

寝る前に考え事が止まらず、なかなか眠れないという経験は、多くの人にみられます。今回ご紹介した研究では、やるべきことを紙に書き出すというシンプルな作業だけでも、考え続けてしまう状態から距離を置くことができ、その結果、入眠が早まる可能性が示されています[1]。
日々の悩みや未完了の用事を「頭の中だけで抱えこまない工夫」として、To doリスト法は取り入れやすい方法の一つです。寝る前の時間がつい考え事でいっぱいになってしまう場合には、無理のない範囲で、紙に書き出すという小さなステップから始めてみるのもよいでしょう。ご自身の状態に合った対応を検討するためにも、気になる症状がある場合には、一度ご来院のうえご相談ください。
参考文献
[1] Scullin MK, et al. The Effects of Bedtime Writing on Difficulty Falling Asleep: A Polysomnographic Study Comparing To-Do Lists and Completed Activity Lists. J Exp Psychol Gen. 2018. 147(1):139–146. PMID: 29058942 ; PMCID: PMC5758411.