こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。
欧米などで導入されているサマータイム(夏時間)ですが、日本でも議論に上がることがあります。
一見、日が長くなって活動的になれる良い制度のように思えますが、実は私たちの睡眠と健康には小さくない負担がかかっていることが最新の研究で明らかになっています。
今回は、2025年に発表された最新の系統的レビュー論文[1]を中心に、サマータイムが体にどのような影響を及ぼすのか、エビデンス(科学的根拠)に基づいて分かりやすく解説します。

サマータイム(夏時間)とは、日の出の時刻が早まる春から秋にかけて、時計の針をあらかじめ1時間進めておく制度のことです。
日照時間を有効に活用することで照明などのエネルギーを節約したり、夕方の余暇活動を活性化させたりすることを目的として、現在アメリカやヨーロッパなど世界約70カ国以上で導入されています。日本でも過去に導入されていた時期がありましたが、現在は実施されていません。
しかし、この制度の最大の問題は、社会的な時計は1時間進んでも、私たちの体内時計(生体リズム)はすぐには適応できないという点にあります。この太陽の動きと社会的な活動時間のズレが、睡眠障害や様々な健康被害を引き起こす根本的な原因となります[1]。
サマータイムの開始時期である春には、時計を1時間進めます。たった1時間の変化ですが、私たちの体にとっては「強制的な時差ボケ」が生じる状態です。たった1時間の変化によって、以下のような影響があります。
論文によると、春の移行直後の数日間は、平均して15分から20分程度の睡眠時間が失われることが報告されています。この急激な睡眠不足と生体リズムの乱れは、交感神経を過剰に刺激します。その結果、移行後の数日間(特に月曜日から水曜日にかけて)は、心筋梗塞(心臓麻痺)や脳卒中の発症率が有意に増加するというデータが出ています[1][2]。
睡眠不足は集中力の低下を招きます。春のサマータイム開始直後は、ドライバーの注意力が散漫になることに加え、朝の通勤時間帯がまだ暗いといった環境変化も重なり、致命的な交通事故のリスクが増大することが示されています[1]。
サマータイムの影響は、時計を動かす瞬間だけではありません。期間中ずっと続く「生体リズムのズレ」が、私たちの体にじわじわとダメージを与えます。
私たちの体内時計は「太陽の光」によって調整されますが、サマータイム期間中は自然の光と社会的な時計が常に1時間ズレた状態になります。これを社会的時差ぼけ(ソーシャル・ジェットラグ)と呼びます[1]。
この状態が数ヶ月続くと、代謝機能に悪影響を及ぼし、肥満、糖尿病、心血管疾患のリスクを長期的に高めることが最新の研究モデルでも予測されています[1][3]。

以下に、サマータイムの移行に伴う主な影響を、エビデンスに基づいてまとめました。
| 影響の種類 | 春の移行(1時間進める) | 秋の移行(1時間戻す) |
|---|---|---|
| 睡眠時間 | 平均15~20分減少する [1] | 一時的に増加する [1] |
| 疾患リスク | 心筋梗塞・脳卒中が有意に増加 [1][2] | 大きな変化は認められない |
| 安全面 | 致命的な交通事故が増大 [1] | 一時的に事故が減少傾向 [1] |
| 精神・代謝面 | 社会的時差ぼけによる肥満リスク [1][3] | 季節性感情障害(抑うつ)リスク [1] |
米国睡眠医学会(AASM)などの専門機関は、これらの健康リスクを重く受け止め、サマータイムの導入よりも「恒久的な標準時(冬の時間)」の維持が最も健康的であるという公式見解を出しています[2]。
サマータイムがある環境で生活する場合や、不規則な生活でリズムが乱れがちな方は、以下の点に注意して過ごしましょう。
体内時計をリセットするために、起床後はすぐにカーテンを開けて太陽の光を浴びることが重要です。
また、就寝前のスマートフォン利用は控えましょう。
ブルーライトは、夜の訪れを認識するホルモンであるメラトニンの分泌を抑制し、生体リズムの遅れをさらに悪化させてしまいます。
もし日中の強い眠気や体調不良が長く続く場合は、単なる疲れと放置せず、専門の医療機関を受診することをお勧めします。当クリニックでは、生体リズムの乱れによる睡眠障害や、それに伴う不調の改善に向けた専門的なサポートを行っています。一人で悩まず、どうぞお気軽にご相談ください。
[1] Steponenaite, A., et al. (2025). Daylight-Saving Time & Health: A Systematic Review of Beneficial & Adverse Effects. medRxiv.
[2] American Academy of Sleep Medicine. (2024). Permanent standard time is the optimal choice for health and safety: an American Academy of Sleep Medicine position statement. Journal of Clinical Sleep Medicine.
[3] PNAS. (2025). Circadian-informed modeling predicts regional variation in obesity and stroke outcomes under different permanent US time policies.