こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。
「平日は寝不足だから、休日にたっぷり寝だめして解消!」
多くの方が、このような週末を過ごしているのではないでしょうか。
しかし、その習慣が知らず知らずのうちに、まるで時差ぼけのような状態を体内で引き起こし、将来の心臓病のリスクを高めている可能性があるとしたら、どうしますか?
今回は、平日と休日の睡眠リズムのズレである「社会的ジェットラグ(ソーシャル・ジェットラグ)」と、心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中など)のリスクとの関係を明らかにした研究[1]を基に、その危険性と対策について分かりやすく解説します。

海外旅行に行くと、現地の時間と自分の体内時計がずれてしまい、日中に眠くなったり、夜に眠れなくなったりする「時差ぼけ」を経験したことがある方も多いでしょう。
社会的ジェットラグとは、これと似たような状態が、私たちの日常生活の中で起こっていることを指す言葉です。具体的には、仕事や学校がある平日の「社会的なスケジュール」と、休日の「体内時計に基づいた自然な睡眠リズム」との間に生じるズレのことです[2]。このズレを数値化したものが社会的ジェットラグと呼ばれます。
例えば、
このような生活を送っていると、平日の起床時刻と休日の起床時刻に3時間のズレが生じます。これは、毎週のように3時間の時差がある場所に旅行しているのと同じような負担を体に強いていることになるのです。

ポルトガルの研究グループは、交代勤務で働く301人の労働者を対象に、社会的ジェットラグと心血管疾患のリスクとの関連性を調査しました[1]。この研究では、驚くべき結果が明らかになりました。
社会的ジェットラグが1時間増えるごとに、心血管疾患のリスクが31%も増加したのです。
このリスクの上昇は、年齢、性別、運動習慣、カフェインの摂取量といった、心血管疾患に影響を与える他の要因を考慮しても、独立した危険因子として確認されました。つまり、他の生活習慣が比較的健康的であっても、社会的ジェットラグが大きいだけで心臓や血管の病気になる危険性が高まるということです。
以下のグラフは、社会的ジェットラグの大きさ別に、心血管疾患のリスクが高い人、高血圧の人、喫煙者の割合を示したものです[1]。社会的ジェットラグが大きくなるほど、これらの健康リスクを持つ人の割合が明らかに高くなっていることが分かります。
特に、社会的ジェットラグが4時間以上のグループでは、喫煙者の割合が約80%にものぼっています。これは、社会的ジェットラグが極端に大きい人はふだんは極端な寝不足であったり、あるいはシフト勤務に従事していて睡眠に問題が生じたりしている可能性が高く、それが喫煙という眠気覚まし行動につながっている可能性が考えられます。また、不健康な生活習慣を持つ人は健康意識が低く、睡眠リズムも乱れていることも考えられます。
出典: Gamboa Madeira S, et al. J Sleep Res. 2021[1] を基に作成
心血管疾患高リスク者の割合
高血圧者の割合
喫煙者の割合
ご自身の社会的ジェットラグがどのくらいあるのか、簡単な計算でチェックしてみましょう[1]。社会的ジェットラグは、休日の睡眠の中央時刻と、平日の睡眠の中央時刻の差の絶対値で計算されます 。
この場合、あなたの社会的ジェットラグは「2時間30分」となります。研究では、2時間を超えると様々な健康リスクが高まる可能性が示唆されています[1]。
では、どうすればこの危険な「体内時計の乱れ」を防ぐことができるのでしょうか。今日から始められる対策をご紹介します。
最も効果的なのは、平日も休日も、なるべく同じ時間に起きることです。休日に寝だめをしたい気持ちは分かりますが、そのズレが体内時計を狂わせる最大の原因です。どうしても長く寝たい場合でも、平日との差は2時間以内に抑えることを目指しましょう(この研究では、社会的ジェットラグが2時間以下のグループが比較対象として用いられています)[1]。
朝の太陽光は、ずれてしまった体内時計をリセットする最強のスイッチです。朝はカーテンを開けておき、しっかりと光を浴びる習慣をつけましょう。体内時計が整いやすくなり、夜の自然な眠気にもつながります。
人には、生まれつき「朝型」「夜型」といったクロノタイプがあります[3]。交代勤務をされている方は、自分のクロノタイプと勤務時間のミスマッチが、大きな社会的ジェットラグや睡眠不足の原因になっている可能性があります[4]。 実際に、クロノタイプに合わせてシフトを調整することで、睡眠が改善し、体内時計の乱れが減少したという研究報告もあります[5]。自分のタイプを知り、可能な範囲で働き方を工夫することも重要です。

良かれと思ってしていた休日の「寝だめ」が、実は「社会的ジェットラグ」という形で体に負担をかけ、将来の心臓病のリスクを高めているかもしれません。
健康な毎日を送るためには、睡眠の「量」だけでなく、睡眠の「リズム」を整えることが非常に重要です。まずはご自身の睡眠習慣を見直し、平日と休日のズレをできるだけ小さくすることから始めてみませんか?
もし、睡眠リズムの乱れや日中の眠気、寝つきの悪さなどでお悩みの場合は、一人で抱え込まず、ぜひ当クリニックのような睡眠の専門医にご相談ください。
[1] Gamboa Madeira, S., Reis, C., Paiva, T., Moreira, C. S., Nogueira, P., & Roenneberg, T. (2021). Social jetlag, a novel predictor for high cardiovascular risk in blue-collar workers following permanent atypical work schedules. Journal of sleep research, 30(5), e13380.
[2] Wittmann, M., Dinich, J., Merrow, M., & Roenneberg, T. (2006). Social jetlag: misalignment of biological and social time. Chronobiology international, 23(1-2), 497–509.
[3] Roenneberg, T., & Merrow, M. (2016). The circadian clock and human health. Current biology : CB, 26(10), R432–R443.
[4] Juda, M., Vetter, C., & Roenneberg, T. (2013). Chronotype modulates sleep duration, sleep quality, and social jet lag in shift-workers. Journal of biological rhythms, 28(2), 141–151. [5] Vetter, C., Fischer, D., Matera, J. L., & Roenneberg, T. (2015). Aligning work and circadian time in shift workers improves sleep and reduces circadian disruption. Current biology : CB, 25(7), 907–911.
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