加齢とともに変化する睡眠──年齢とともに睡眠はどう変わるのか

年齢を重ねるにつれ、「眠りが浅くなった気がする」「夜に何度も目が覚める」「早朝に自然と目が覚める」と感じることが増えてきたという方も多いのではないでしょうか。こうした変化には、単に“年齢のせい”と片付けられない理由があります。睡眠を支える脳の機能や体内時計のはたらきが、年齢とともに少しずつ変化していくことが背景にあります。

このコラムでは、加齢による睡眠の特徴とその背景について複数の研究で報告されている内容をご紹介します。

加齢で起こる睡眠の変化

加齢とともに現れやすい睡眠の変化には、いくつか特徴的なパターンがあります。
ここでは、その代表的なものを見ていきましょう。

深い睡眠(徐波睡眠)の大幅な減少

睡眠の中でも最も深い段階である徐波睡眠(N3)は、加齢とともに大きく減少することが知られています[1]。N3の段階では、眠りの深さを反映する脳波(徐波活動:slow-wave activity)がみられますが、この脳波の強さも年齢とともに大きく低下します。若い頃と比べてみても、この深い睡眠の減少は、加齢に伴うさまざまな変化の中でも特に顕著なものです。

徐波睡眠(深い睡眠)は、記憶保持に関わることが研究で示されていて、この段階の睡眠が十分に確保されているほど覚えた情報を保ちやすい傾向があります。高齢の方でも、徐波睡眠が比較的保たれている場合には、記憶の維持も良好に保たれやすい一方、この段階の睡眠が少ない場合には記憶を維持するはたらきが弱まりやすいことが報告されています[1]。因果関係は明らかではないものの、徐波睡眠の量が記憶の状態と結びついていることがうかがえます。

夜間に目が覚めやすくなる

年齢を重ねると、「夜中に何度も目が覚めてしまう」「まとまって眠れない」といった現象が増えていきます。加齢とともに睡眠を安定して保つはたらきが弱まり、夜間に目が覚めやすくなることが研究で報告されています[2]。そのため、布団に入っている時間が長くても、実際に眠れている時間が短くなりやすい傾向(睡眠効率の低下)がみられます。睡眠が細切れになることで、日中の活動に影響が及ぶ可能性があることも示されています[2]。

一方で、「年齢とともに寝つきが悪くなる」という印象を持つ方も多いですが、これまでの研究では、眠りにつくまでの時間は若い年代より“わずかに”延びるものの、その変化はごく小さいことが報告されています。また、夜中に目が覚めた場合でも、再び眠りに戻るまでの時間は高齢の方でも比較的保たれており、若い方と大きく変わらないことがわかっています[2]。

睡眠リズムが前倒しになりやすくなる

加齢にともない、体内時計のリズムは若い頃より早い方向へとずれやすくなること(位相前進)が知られています。体内時計は本来、明るさと暗さのサイクルに合わせて一日のリズムを保っています。一方、高齢になると体内時計が光に対して示す感受性が弱まり、周囲の環境の明暗に合わせて体内時計のリズムを整える力も低下しやすくなることが報告されています[3]。

なぜこのような変化が起こるのか:背景にあるメカニズム

では、こうした睡眠の変化がなぜ起こるのか、その背景を見ていきましょう。
そこには、脳のはたらきや体内の仕組みの加齢変化が関わっています。

深い睡眠が減る背景:脳の前頭前野の加齢変化

深い睡眠の減少には、脳の構造の変化が関係しています。特に、前頭前野では加齢に伴って灰白質の減少や皮質が少しずつ薄くなるといった構造の変化がみられ、これらの変化が徐波活動の低下と関連していることが報告されています。前頭前野の変化は個人差が大きく、こうした個人差が、同じ年齢でも深い睡眠が多い人と少ない人がいる要因の一つと考えられています[1]。

また、徐波活動の低下は、深い睡眠の減少だけでなく、 睡眠を維持する力の弱まりとも関連しています[1]。

眠りが途切れやすくなる背景:視床下部VLPOのはたらきの変化

深い睡眠の減少に加えて、睡眠を安定して保つ仕組みにも、加齢の影響が及ぶことが示されています。睡眠を維持する大切な役割を担っているのが、脳の視床下部にある VLPO腹外側視索前野:ventrolateral preoptic nucleus) と呼ばれる領域です。

VLPOには睡眠を促す神経細胞があり、GABAやガラニンといった神経伝達物質を放出します。これらの物質は、覚醒を保つ神経(ヒスタミンやノルアドレナリン、セロトニンなど)の活動を抑えることで、眠りが安定しやすくなります[4]。

高齢の方では、VLPOとその周辺にあるガラニンを出す神経細胞の数に個人差があり、細胞数が少ない方ほど夜間の睡眠が途切れやすい傾向が報告されています[5]。こうした変化は、睡眠を維持する力が弱まり、夜間に目が覚めやすくなる背景の一つと考えられています。

睡眠リズムが前倒しになりやすくなる背景:体内時計の変化

加齢にともなって、私たちの体内時計は若い頃より早い方向へずれやすくなること(位相前進)が報告されています[3]。体内時計は本来、光と暗さのリズムに合わせて一日の活動サイクルを整えていますが、高齢になると光に対する感受性が弱まり、外界の明暗に合わせてリズムを調整する力も低下することが知られています[3]。

また、昼と夜の間でのメラトニン分泌の差(振幅)が年齢とともに小さくなることも示されています[3]。メラトニンの振幅が低下すると、体内時計のリズムを保つ力が弱まりやすくなると考えられています。

こうした変化が重なることで、体内時計が刻む睡眠・覚醒リズム全体が若い頃より前倒しになりやすくなり、その結果、比較的早い時間に眠気を感じたり、朝早く目覚めやすくなったりすることがあります。

まとめ

歳を重ねるにつれて、若い頃には感じなかった睡眠の変化やそれに伴う不安が出てくることがあります。加齢による睡眠の変化は、脳の構造や体内時計の働き、メラトニン分泌など複数の変化が重なって生じる、誰にでも起こりうる自然な変化です。徐波睡眠の減少、夜間覚醒の増加、睡眠効率の低下、体内時計の前倒しなども、その一部と考えられています。

ただ、こうした変化が続いて日中の過ごし方や体調に影響が出ると、生活のしづらさにつながることもあります。眠りに関するご心配や悩みがあれば、どうぞお気軽に当院へご相談ください。

参考文献

[1] Mander BA, et al. Sleep and Human Aging. Neuron. 2017. 94(1):19-36. PMID: 28384471 ;  PMCID: PMC5810920
[2] Li J, et al. Sleep in Normal Aging. Sleep Med Clin. 2018. 13(1):1-11. PMID: 29412976 ; PMCID: PMC5841578
[3] Hood S, et al. The aging clock: circadian rhythms and later life. J Clin Invest. 2017. 127(2):437-446. PMID: 28145903 ; PMCID: PMC5272158

[4] Arrigoni E, et al. The Sleep-Promoting Ventrolateral Preoptic Nucleus: What Have We Learned over the Past 25 Years? Int J Mol Sci. 2022.23(6):2905.PMCID: PMC8954377 ; PMID:35328326.

[5] Lim ASP, et al. Sleep is related to neuron numbers in the ventrolateral

 preoptic/intermediate nucleus in older adults with and without Alzheimer’s disease. Brain. 2014;137(10):2847–2861.PMCID: PMC4163039 ; PMID: 25142380.