眠れない夜に、布団で粘るのは逆効果?── 寝床での過ごし方を見直すヒント

夜、布団に入ったもののなかなか眠れず、「そのうち眠れるはず」と目を閉じたまま時間が過ぎていってしまうことは、多くの人にとって身近な経験かもしれません。

頭の中では明日の予定や気がかりなことが浮かび、眠ろうとするほど意識が冴えてしまう──そんな夜を繰り返している方もいるでしょう。

眠れない状態でも布団から出ずに横になり続ける行動は、一見すると自然な対処のように思えます。しかし、不眠に対する治療や研究の中では、このような行動が、かえって眠りにくさを長引かせる可能性があると考えられています。

「布団で粘る」行動と眠りにくさの関係

不眠に対しては、考え方(認知)や行動のパターンに注目する認知行動療法が用いられることがあります。その中でも、不眠を対象として考えられた方法が CBT-I(不眠症の認知行動療法)です。CBT-Iにはいくつかの方法が含まれており、このコラムではその中でも刺激制御療法(stimulus control therapy)を取り上げます。

刺激制御療法は、ベッドを「眠ること」と結びつけることを目的とした、古くから提唱されてきた行動的アプローチです[1]。眠れない状態で長時間ベッドにとどまり、緊張や覚醒が続くと、ベッドが「眠る場所」ではなく、「目が覚めている状態」と結びついてしまう可能性があります[2]。

この療法では、眠れないこと自体を無理に解決しようとするのではなく、眠れないときにどのような行動をとるかに注目します。とくに、眠れない状態で長時間ベッドの中にとどまる行動は、入眠しにくさや睡眠の不安定さと関係している可能性があると示されています[2,3]。

研究ではどのような効果が示されているのか

CBT-Iは、不眠に対する薬を使わない治療法(非薬物療法)として、研究や臨床で広く扱われてきました。刺激制御療法は、CBT-Iを構成する代表的な方法の一つとして位置づけられています[3]。

刺激制御療法を取り入れた治療の効果については、複数の研究結果をまとめた検討が報告されています[4]。これらの研究では睡眠の状態を評価する際に、主に次のような指標が用いられています。

・寝つくまでにかかる時間(入眠潜時)
・夜中に目が覚める頻度
・眠れないという主観的なつらさの程度

これらの指標において、睡眠の状態に改善がみられることが報告されています[4]。

実際に、慢性不眠の成人患者15名を対象に刺激制御療法を実施した小規模研究では、治療前に平均約77分であった入眠潜時が、治療後には約33分まで短縮したと報告されています[2]。この改善は3か月および6か月の追跡時点でも概ね維持されていました。さらに、週あたりの入眠困難の日数や中途覚醒の頻度も減少し、主観的な起床時の爽快感の改善も示されています。ただし、この研究は少人数を対象としたものであり、著者ら自身も、より大規模な検証が必要であると述べています[2]。

その後に行われた複数の研究をまとめた検討でも、刺激制御療法を含む治療によって、入眠潜時や夜間覚醒、不眠の主観的症状といった指標において一定の改善がみられることが報告されています[4]。

一方で、改善の程度や現れ方にはばらつきがあり、すべての人に同じような効果がみられるわけではないことも指摘されています[4]。刺激制御療法は一定の有効性が示されているものの、効果の現れ方には個人差がある治療として理解されています。

また、CBT-I全体についての総説では、この治療が1回の実施で即座に効果が現れる方法ではないことも強調されています[3]。刺激制御療法を含むCBT-Iは、ある程度まとまった期間にわたって行動を続けながら、睡眠の変化を確認していくことを前提とした治療とされています。

なお、刺激制御療法を含むCBT-Iの研究では、入眠潜時や夜間覚醒、主観的な不眠症状といった指標が主に評価されています。総睡眠時間や日中の眠気については、研究ごとに主要な評価項目として扱われていない場合もあり、結果を一貫した形で比較することは難しいとされています[4]。

さらに近年の研究では、刺激制御療法の効果は「寝室を睡眠と再び結びつける」という当初の説明だけでは十分に説明できない可能性も指摘されています[4]。頭の過度な覚醒を低下させることや、睡眠習慣を安定させることが効果に関与している可能性も考えられています。作用の仕組みについては検討が続いており、今後の研究が求められています。

刺激制御療法で具体的に何をするのか

刺激制御療法は、「眠れない状態で寝床にとどまる時間が長くなるほど、寝床が覚醒と結びつきやすくなる」という考え方にもとづいて提唱された行動的アプローチです[1]。

Bootzinが示した刺激制御療法の基本的な原則では、次のような行動が中心になります[1]。

  • 眠気を感じたときにのみ寝床に入る
    意識的に眠ろうとして寝床に入るのではなく、実際に眠気があるときに寝床に入ります。
  • 寝床では読書やテレビ視聴を行わない
    寝床を睡眠以外の活動と結びつけないようにします。読書やテレビ視聴に限らず、スマートフォンやタブレットの操作、動画視聴なども、寝床では行わないようにしましょう。いずれも、寝床を「目が覚めて活動する場所」と結びつけないようにするためです。
  • 眠れない場合はいったん起きて別の部屋に移る
    寝床に入っても眠れないときには、無理に寝床にとどまらず、いったん起きて別の部屋に移ります。
  • 再び眠れない場合同じ対応を繰り返す
    夜中に目が覚めて再び眠れない場合も、同様に寝床を離れます。目が覚めた状態で長く寝床にとどまらないことが重視されています。

これらの原則は、寝床で覚醒状態を長く続けないことによって、寝床と睡眠との結びつきを強めることを目的としています[1]。

その後の研究では、寝床を離れるまでの目安時間には若干の幅が示されていますが、15~20分程度眠れないと感じた場合には、いったん寝床を離れることが一つの目安とされています[3,4]。

CBT-Iでは、これらに加えて、起床時刻を毎日ほぼ一定に保つことの重要性も重視されています[3]。前夜の睡眠時間にかかわらず起床時刻を一定にすることで、睡眠と覚醒のリズムを整えることが意図されています。日中の昼寝を避けることも、睡眠習慣を安定させるための工夫として説明されています[3,4]

刺激制御療法は、睡眠を意志の力で直接コントロールしようとする方法ではなく、眠りやすい状態を行動の工夫から整えていく方法です。

まとめ:眠れない夜の行動を見直すという視点

眠れない夜に布団の中で粘ってしまう行動は、多くの人にとって自然な反応です。しかし刺激制御療法では、眠れない時間の過ごし方そのものが睡眠の状態に影響する可能性が示されています。

刺激制御療法は、「がんばって眠る」ことを求めるものではなく、寝床と睡眠との結びつきを行動の側から考え直す方法です。一方で、不眠が慢性化している場合や生活の中での工夫だけでは改善が難しい場合には、専門的な評価と治療が必要になることもあります。

眠れない夜が続くときは、一人で抱え込まず、当クリニックの受診をご検討ください。

参考文献

[1]Bootzin RR. Stimulus control treatment for insomnia. Proceedings, 80th Annual Convention, APA. 1972. p.395–396.

[2]Baillargeon L, et al. Stimulus-control: nonpharmacologic treatment for insomnia. Can Fam Physician. 1998;44:73–79. PMID: 9481465 ; PMCID: PMC2277555

[3]Walker J, et al. Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia (CBT-I): A Primer. Klin Spec Psihol. 2022;11(2):123–137. PMID: 36908717 ; PMCID: PMC10002474

[4]Demers Verreault M, et al. The effectiveness of stimulus control in cognitive behavioural therapy for insomnia in adults: A systematic review and network meta-analysis. Journal of Sleep Research. 2023;33(3):e14008.