「よく寝れば寝るほど健康にいい」――多くの人がそう信じていますが、高齢者の聴力に関しては必ずしもそうではないようです。最新の研究で、特に高年齢層において、睡眠時間と聴力の間の意外な関係が明らかになりました。

アメリカで行われた大規模な研究では、20歳から69歳までの4,883人を対象に、睡眠時間と聴力の関係を年齢別に詳しく調べました[1]。その結果、全体としては睡眠時間と聴力閾値(聞こえる最小の音の大きさ)の間にわずかに「U字型」の関係性が見られ、特に年齢別に分析すると重要な違いが浮かび上がりました。
若年層(20〜35歳)や中年層(36〜55歳)では、睡眠時間と聴力の間には統計的に有意な関連が見られませんでした。睡眠時間が短くても長くても、あまり影響がなかったのです。しかし、56歳から69歳の高年齢(高齢者)グループでは、睡眠時間7〜8時間を転換点とする明確なU字型の関係が観察されたのです。
高齢者では寝なさすぎも寝すぎ(8時間以上)も、聴力閾値が高い(つまり聴力が悪い)傾向が見られました。なお、別の研究でも、60歳以上の高齢者で9時間以上眠る人は、7〜9時間眠る人と比べて、会話周波数で1.3dB、高周波数では2.7dB、より大きな音でないと聞こえない状態であることが報告されています[2]。
高齢者で睡眠時間と聴力の関係が顕著に現れる理由として、加齢に伴う複数の健康問題が関係していると考えられています。高血圧、糖尿病、高コレステロールなどの基礎疾患は高齢者に多く、これらが内耳の微小循環や代謝バランスに影響を与えやすいのです。
興味深いことに、性別でも違いが見られました。男性では睡眠時間と聴力のU字型関係が明確でしたが、女性では有意な関連は認められませんでした。この違いには、男女のホルモンの違いや、騒音への曝露の違いなども関係している可能性があります。
なぜ高齢者の長時間睡眠と聴力低下に関連が見られるのでしょうか。この研究は横断研究であるため、「長時間睡眠が聴力を悪化させる」と断定できるものではありません。
第一に、何か別の健康問題が長時間睡眠と聴力低下の両方を引き起こしている、疑似相関・逆因果の可能性があります。高齢者に多い様々な疾患や、あるいは耳鼻科的な疾患自体が聴力を低下させていると同時に、その体の不調によって睡眠時間が長くなってしまう可能性があります。人間は必要な時間眠れば勝手に目が覚めるので、50代半ばを過ぎているのに8時間以上も寝てしまう段階で、何か不調があるのではないか、ということです。
第二に、もし本当に長時間睡眠そのものが聴力に影響を与えうるとすれば、過度の臥床時間による心血管機能の低下や循環系の効率低下が、内耳の微小循環にダメージを与える可能性によるものが提案されています。長時間睡眠は全身性の炎症反応や酸化ストレスの上昇と関連するという報告もあります。
これらの研究結果から、特に高齢者が注意すべき点が見えてきます。
まず、7〜8時間程度の睡眠時間と良好な聴力が関連していました。これは多くの健康ガイドラインが推奨する高齢者の睡眠時間と一致しています。通常、高齢者になったら8時間以上眠り続けることはできません。厚生労働省の「睡眠ガイド2023」でも触れられていますが、過度に長い床上時間は避けた方が良いでしょう。
また、重要なのは、もしも高齢者で睡眠時間が実際にとても長くなっている場合、それが健康問題のサインである可能性です。高齢者の長い床上時間は、それ自体が健康上のリスクであると同時に[3]、背景に何らかの疾患が隠れている可能性もあります。特に、以前より明らかに睡眠時間や床上時間が長くなったし、不調があるという場合は、医師に相談することが大切です。
高齢者(特に56歳以上)では、睡眠時間と聴力にU字型の関係が見られ、8時間を超える長時間睡眠は聴力低下と関連していました。一方、若年層や中年層ではこのような関係は見られませんでした。高齢者では長過ぎる床上時間に気をつけ、また、長い床上時間の背景にある健康問題にも注意を向けることで、聴力を含めた全身の健康維持につながる可能性があります。
[1] Yang X, Ju K, Wu R, Liu B, Zhao Q, Jiang T. Relationship between sleep duration and hearing loss among adults aged 20–69: exploration of the U–shaped curve pattern. Front Neurosci. 2025;19:1621044. doi: 10.3389/fnins.2025.1621044
[2] Long L, Tang Y. Association between sleep duration and hearing threshold shifts of adults in the United States: National Health and Nutrition Examination Survey, 2015-2016. BMC Public Health. 2023;23(1):2305. doi: 10.1186/s12889-023-17204-3
[3] da Silva AA, de Mello RG, Schaan CW, Fuchs FD, Redline S, Fuchs SC. Sleep duration and mortality in the elderly: a systematic review with meta-analysis. BMJ Open. 2016;6(2):e008119. doi: 10.1136/bmjopen-2015-008119