こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。
「しっかり寝たはずなのに、なんだか疲れが取れない…」
「日中の集中力が続かない…」
こんな風に感じたことはありませんか?
実は、プロのアスリートたちが練習と同じくらい「睡眠時間」を大切にしているのには、明確な理由があります。多くの研究によって、睡眠が単なる休息ではなく、私たちの筋力や持久力、そして日中の活動効率を大きく左右する重要な要素であることが証明されているからです[1]。
このコラムでは、スポーツをされる方はもちろん、日常生活の質を高めたいすべての方に向けて、睡眠不足が心身に与える影響と、質の良い睡眠の重要性を科学的な根拠に基づいて分かりやすく解説します。

睡眠が足りないと、私たちの身体は普段通りの力を発揮できなくなります。複数の研究を整理した論文[1]でも、睡眠不足が身体パフォーマンスに与える悪影響について、さまざまな実験結果が紹介されています。
その中でも分かりやすい実験を一つご紹介しましょう。フランスのMouginを中心とする研究グループが、健康な7人の被験者を対象に行った実験です[2]。
Mouginは、7名の被験者を対象に、自転車型運動測定機器(エルゴメーター)を使って睡眠制限が運動能力に及ぼす影響を調べました[2]。フィットネスバイクのような機械を使い、被験者に「少しキツい」と感じる強さ(10分間のウォームアップの後、最大酸素摂取量の75%にあたる強度)で20分間運動してもらいました。その際の身体の変化を、以下の2つの条件で比較しました。
その結果、睡眠を制限した日(条件B)は、十分な睡眠をとった日(条件A)に比べて、同じ運動をしているにもかかわらず、心拍数と呼吸数が明らかに増加しました。さらに、筋肉が疲れるとたまる「乳酸」という物質の値も上昇していたのです。これは、睡眠不足によって心臓や肺、筋肉への負担が増え、より早く疲れを感じやすい状態になっていたことを意味します[2]。
さらに、同じ研究グループの別の実験では、睡眠時間が4時間の日と十分な睡眠の日で、30分間の自転車運動のパワーを比較しました。すると、睡眠不足の日はペダルをこぎ続ける力が、平均で約15ワットも低下していました[3]。これは、小さな電球を一つ灯せるくらいの力が失われてしまった、とイメージすると分かりやすいかもしれません。
このようなパフォーマンスの低下は、自転車運動に限りません。テニスではサーブの精度が落ちる、短距離走ではタイムが遅くなるなど、様々なスポーツで同様の報告がされています[1]。
もちろん、すべての研究で同じ結果が出ているわけではありません。しかし、睡眠不足が私たちの身体を「疲れやすい状態」にし、本来の力を出しにくくさせることは、多くの研究が示す事実です。
これはアスリートだけの話ではありません。
「階段を上るだけで息が切れる」
「通勤で少し早歩きしただけで疲れてしまう」
「夕方になると集中力が切れてしまう」
もしあなたがこのように感じているなら、それは睡眠不足が原因かもしれません。

睡眠不足の影響は、パフォーマンスの低下だけにとどまりません。実は、怪我のリスクも高めてしまうことが分かっています。ここでは、スポーツを頑張る12歳から18歳の中高生を対象に行われた、非常に興味深いアメリカの研究をご紹介します[4]。

アメリカのMilewskiを中心とする研究チームは、12~18歳の生徒112人を対象に、21か月間追跡した調査を行いました。
その結果、睡眠時間が短い選手グループでは、3人に2人(65%)が怪我を経験したのに対し、十分な睡眠をとっていた選手グループでは、怪我をしたのは3人に1人未満(31%)でした。

同じ調査で、1晩の睡眠時間が8時間未満の選手は、8時間以上眠っている選手に比べて怪我のリスクが約1.7倍高いことがわかりました(多変量解析:学年や性別、競技種目など他の要因も含めて考慮)。睡眠時間だけで比較した単変量解析では、この差はさらに大きく2.1倍に達しました。


なぜ、このような差が生まれるのでしょうか? 原因は、睡眠不足による注意力や反応速度の低下、そして筋肉疲労の蓄積にあると考えられています[1, 4]。
例えば、
ほんの一瞬の判断の遅れや身体の反応の鈍りが、捻挫や肉離れといった大きな怪我につながってしまうのです。これは中高生だけでなく、大学生やプロ選手、そして趣味でスポーツを楽しむ一般の方々にも当てはまることです[1]。
今回は、科学的な研究結果をもとに、睡眠不足が「パフォーマンス低下」と「怪我のリスク増加」という2つの大きな問題を引き起こすことを解説しました。
もしあなたが「最近疲れやすい」「最高のパフォーマンスを発揮したい」「怪我なく活動したい」と感じているなら、まずはご自身の睡眠習慣を見直すことから始めてみましょう。
質の良い睡眠は、心と身体の健康を守るための最も基本的で重要な投資です。もし、眠りに関するお悩みが続くようであれば、我慢せずにぜひ一度、当クリニックのような専門機関にご相談ください。
[1] Charest, J., & Grandner, M. A. (2020). Sleep and Athletic Performance: Impacts on Physical Performance, Mental Performance, Injury Risk and Recovery, and Mental Health. Sleep medicine clinics, 15(1), 41–57.
[2] Mougin F, Simon-Rigaud ML, Davenne D, Renaud A, Garnier A, Kantelip JP, & Magnin P (1991). Effects of sleep disturbances on subsequent physical performance. European journal of applied physiology and occupational physiology, 63(2), 77–82.
[3] Mougin F, Bourdin H, Simon-Rigaud ML, Nhu UN, Kantelip JP, & Davenne D (2001). Hormonal responses to exercise after partial sleep deprivation and after a hypnotic drug-induced sleep. Journal of sports sciences, 19(2), 89–97.
[4] Milewski, M. D., Skaggs, D. L., Bishop, G. A., Pace, J. L., Ibrahim, D. A., Wren, T. A., & Barzdukas, A. (2014). Chronic lack of sleep is associated with increased sports injuries in adolescent athletes. Journal of pediatric orthopedics, 34(2), 129–133.