運動でぐっすり眠れる? 効果を決めるのは“時間帯と強度”

「夜遅くに運動すると眠れなくなるのでは?」──そんな疑問を持ったことはありませんか? 実は近年の研究によって、運動が睡眠に与える影響は「どんな運動を、いつ行うか」で大きく変わることが分かってきました。

まずは、“運動そのもの”が睡眠に与える一般的な効果から見てみましょう。

軽めの運動は眠りを助ける

体を動かした日はよく眠れた、という経験を持つ人は少なくないでしょう。その感覚を裏付けるように、2023年に発表されたレビュー論文[1]では、運動と睡眠の関係が検証され、軽度〜中強度の運動が睡眠を改善することが明らかになっています。

対象となったのは、若年者から高齢者、さらには不眠症の方まで幅広い集団であり、いずれの層においても効果が確認されました。

運動の種類は多様で、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動に加え、筋トレやヨガ、太極拳などでも睡眠改善が報告されています。具体的には、入眠時間の短縮、睡眠時間の延長、睡眠効率の改善、夜間の中途覚醒の減少が示されています。

さらに、定期的に運動を続ける人ほど安定して睡眠の質が高いことが報告されています。実際にどれくらい運動すればよいのかについては、WHOが成人に対して週150~300分の中強度の有酸素運動を推奨しています [3]。加えてこのレビュー論文[1]でも、週4~7回の有酸素運動あるいは週3回の中強度の運動は、睡眠の質の向上につながるとされています。生活習慣の一部として取り入れやすいことから、「運動は自然に眠りを改善する方法」として期待されています。

運動が睡眠に影響する仕組み

運動が睡眠に良いとされる背景には、いくつかの仕組みがあります。例えば、運動による体温上昇とその後の低下は自然な眠気を促し、またストレスや不安を軽減することで入眠しやすくなると考えられています。さらに、運動は自律神経バランスを安定させることが知られています。

また、運動によって分泌が高まるBDNF(脳由来神経栄養因子)は、脳の神経細胞の成長や修復を促進し、神経同士のつながり(シナプス)を強めるはたらき(抗うつ効果)があります。こうした作用によって脳の働きが整い、スムーズな睡眠を作り、さらにはストレスをやわらげることにも関係すると考えられています。

最近のレビュー論文[3]では、運動によるBDNFの増加が、睡眠障害を含むさまざまな心身の不調の改善と関連する可能性が報告されています。こうした仕組みが組み合わさって、運動は睡眠全般に良い影響を及ぼすと考えられています。

夜遅い運動はどうか ─── 最新の大規模研究から

一方で、運動の「タイミング」や「強度」が睡眠にどう影響するのかを解明したのが、2025年に発表されたこちらの大規模研究です[2]。14,689名を対象に、ウェアラブル機器で約400万泊分のデータを解析し、運動の終了時刻と強度を軸に睡眠への影響が分析されました。結果は次のように整理できます。

就寝6時間以上前に終了

この時間帯に運動を終えた場合、入眠については軽度〜中強度では大きな変化は見られませんでした。
ただし、睡眠時間に関しては運動強度が高いほど長くなる傾向があり、特に高強度では入眠も早まるというプラス効果が確認されています。

つまり、「夕方までに済ませる運動」は、睡眠に良い影響を与える可能性があります。

就寝6~4時間前に終了

この時間帯に軽度〜中程度の運動を行っても、入眠や睡眠時間は運動しない日とほぼ変わらず、影響は認められませんでした。また、高強度になると、6時間以上前で見られた「早寝・睡眠延長」の効果は確認されず、中立的な結果となりました。

就寝4時間前以内に運動を終えた場合

この時間帯に運動を行うと、すべての強度で入眠が遅れ、睡眠時間も短くなる傾向が見られました。特に高強度運動では影響が顕著で、就寝2時間前の運動では入眠が約36分遅れ、睡眠時間が約20分短縮していました。
さらに遅い時間帯に及ぶほど影響は大きく、夜遅くの高強度運動では、睡眠効率が低下し、夜間のRHR(心拍数)が上昇、HRV(心拍変動)が低下するなど、交感神経が優位のまま体が休まらない状態となっていました。

このことから、夜遅くの激しい運動は睡眠の質を損ねる可能性があると考えられます。

ポイント

  • 6時間以上前:安心して運動でき、高強度でプラス効果
  • 6~4時間前:軽・中度は影響なし、高強度ではプラス効果が見られなかった
  • 就寝4時間前以内に運動を終えた場合:強度が高いほど悪化(入眠遅延・睡眠時間短縮)

運動は睡眠にとって基本的にプラスですが、時間帯には注意が必要です。理想は就寝4時間以上前までに終えること。一方で、夜遅くの激しい運動は逆効果になることもあります。

早めに体を動かす、夜なら軽めにとどめる。この工夫だけで睡眠の質が変わり、翌朝の目覚めが良くなるかもしれません。

参考文献

[1] Alnawwar R, Younis S, Jelinek HF, El-Massry MA, et al.
The Effect of Physical Activity on Sleep Quality and Sleep Disorder: A Systematic Review. Cureus. 2023;15(8):e43595. doi:10.7759/cureus.43595. PMID: 37719583; PMCID: PMC10503965.

[2] World Health Organization. Physical activity. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/physical-activity

[3]Lukkahatai N, Ong IL, Benjasirisan C, Saligan LN. Brain-Derived Neurotrophic Factor (BDNF) as a Marker of Physical Exercise or Activity Effectiveness in Fatigue, Pain, Depression, and Sleep Disturbances: A Scoping Review. Biomedicines. 2025;13(2):332. doi:10.3390/biomedicines13020332. PMID: 40002745; PMCID: PMC11853410.

[4]Leota J, Presby DM, Le F, Czeisler MÉ, Mascaro L, Capodilupo ER, Wiley JF, Drummond SPA, Rajaratnam SMW, Facer-Childs ER.
Dose-response relationship between evening exercise and sleep. Nat Commun. 2025;16:4832. doi:10.1038/s41467-025-58271-x. PMID: 40234380; PMCID: PMC12000559.