「ショートスリーパー」は努力でなれる?短時間睡眠の遺伝的真実とリスク

こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。

仕事や家事、趣味に没頭するあまり、つい睡眠時間が6時間を切ってしまう毎日を過ごしていませんか?

「毎日5時間睡眠でもなんとか動けているから、私はショートスリーパーなのかもしれない」
「トレーニングをすれば、ナポレオンのように3時間睡眠でも活躍できる人になれるはず」

忙しい現代人にとって、短い睡眠時間でも健康に活動できる「ショートスリーパー」は非常に魅力的な存在です。しかし、医学的な観点から見ると、単なる「寝不足」と「真のショートスリーパー」には、遺伝子レベルでの決定的な違いがあることがわかってきました。

本記事では、2021年に発表されたショートスリーパーの遺伝子に関する論文[1]などの科学的根拠に基づき、ショートスリーパーの正体について解説します。

ショートスリーパー(NSS)とは何か?

医学的に「真のショートスリーパー」と呼ばれる人々は、ナチュラル・ショート・スリーパー(Natural Short Sleepers:NSS)と定義されています。

彼らは通常、4〜6時間程度の睡眠で十分に休息が取れ、日中に眠気や認知機能の低下、気分の落ち込みなどがなく、健康的な生活を送ることができます[1]。これは、「無理をして睡眠時間を削っている」状態とは根本的に異なります。

一方で、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人の場合、最低でも6時間以上の睡眠時間を確保することが推奨されています[2]。多くの人にとって、6時間未満の睡眠は「睡眠不足」の状態であり、心身に悪影響を及ぼすリスクが高いのです。

科学が解明した「ショートスリーパーの遺伝子」

なぜ、短い睡眠でも健康でいられる人がいるのでしょうか? 近年の研究により、NSSには特定の「遺伝子変異」が関与していることが明らかになってきました。つまり、ショートスリーパーであるかどうかは、生まれつきの体質(遺伝)によってほぼ決まっている可能性が高いのです。

2021年のYookらによる研究レビューでは、以下の遺伝子が睡眠時間の短縮に関与していると報告されています。

遺伝子名 主な働き・特徴 研究で確認された影響(1)(3)
DEC2 (hDEC2 P385R) 体内時計(概日リズム)の調整に関わる遺伝子。 この変異を持つ人は、持たない家族に比べて平均睡眠時間が約1.8時間短い(6.25時間 vs 8.06時間)ことが報告されています。
ADRB1 (β1-アドレナリン受容体) 覚醒や活動レベルの調節に関わる受容体。 変異を持つ人は、持たない人に比べて1日あたり約2時間睡眠時間が短い傾向があります。発生率は10万人あたり約4人と非常に稀です。
NPSR1 (ニューロペプチドS受容体) 覚醒、抗不安、記憶に関わる受容体。 マウス実験において、睡眠時間が短縮しても記憶力が維持されることが確認されました。睡眠不足への耐性が高い可能性が示唆されています。
Yook et al. (2021)[1]および Shi et al. (2019)[3]のデータを基に当院作成

努力で遺伝子は変えられない

上記の表にあるような遺伝子の変異は、生まれ持ったものです。 例えば、DEC2という遺伝子に変異がある家系では、同じ家族内でも変異を受け継いだ人だけがショートスリーパーとなり、そうでない人は通常の睡眠時間を必要とすることが分かっています[1]。

また、ADRB1という遺伝子の変異は、非常に稀(10万人に約4人)ですが、この変異を持つ人は睡眠要求量が少なくても活動的に過ごせることが示されています[3]。

これらの研究結果は、ショートスリーパーが「訓練」や「慣れ」で獲得できるものではなく、「家族性自然短時間睡眠(Familial natural short sleep:FNSS)」と呼ばれる遺伝的な体質であることを強く示唆しています。

あなたはどっち?「ショートスリーパー」と「隠れ睡眠不足」の見分け方

「自分もこの遺伝子を持っているかもしれない」と思う方もいるかもしれません。しかし、真のショートスリーパーは非常に希少な存在です。 以下のチェックリストに当てはまる場合、あなたはショートスリーパーではなく、慢性的な睡眠不足(睡眠負債)に陥っている可能性があります。

休日は平日よりも長く寝てしまう(寝だめをする)

真のショートスリーパーは、平日・休日問わず短時間睡眠で一定しています。休日に長く寝るということは、平日の睡眠が足りていない証拠です。

日中に強い眠気を感じたり、カフェインがないと集中力が続かない

NSSの人々は、短時間睡眠でも日中のパフォーマンスが低下しません。

家族に短時間睡眠の人がいない

ショートスリーパーは遺伝する傾向(常染色体優性遺伝など)があります(3)。親兄弟全員が長時間眠るタイプであれば、あなただけがショートスリーパーである確率は低くなります。

無理な短時間睡眠が招くリスク

ショートスリーパーの遺伝子を持たない人が、無理に睡眠時間を削ることは危険です。 自分では「慣れた」と思っていても、脳や体はダメージを受けています。

  • 生活習慣病リスクの上昇:睡眠不足は糖尿病、高血圧、肥満のリスクを高めます。
  • 認知機能の低下:集中力、記憶力、判断力が低下し、仕事のミスや事故につながりやすくなります。
  • メンタルヘルスの悪化:うつ病や不安障害のリスクに関連することが知られています。

稀な例として、遺伝的背景がないにもかかわらず、脳外科手術(水頭症の治療)の後に後天的にショートスリーパーのような状態になった症例報告もありますが、これは極めて特殊なケースであり、一般的な「努力」で再現できるものではありません。

おわりに

ショートスリーパー(NSS)は、特定の遺伝子変異によって、少ない睡眠時間でも健康を維持できる非常に稀な体質の人々を指します。 多くの研究が示すように、これは「努力して習得する技術」ではなく「生まれ持った性質」です。

「睡眠時間を削って時間を作りたい」という気持ちはわかりますが、遺伝的なショートスリーパーでない限り、十分な睡眠時間を確保することが、結果として日中のパフォーマンスを最大化し、将来の健康を守ることにつながります。

「しっかり寝ているつもりなのに疲れが取れない」「自分が睡眠不足なのかどうかわからない」といったお悩みがある場合は、背景に睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害が隠れている可能性もあります。無理に睡眠時間を削ろうとせず、まずは専門医にご相談ください。

参考文献

[1]Yook JH, et al. Some Twist of Molecular Circuitry Fast Forwards Overnight Sleep Hours: A Systematic Review of Natural Short Sleepers’ Genes. Cureus. 2021 Oct 25;13(10):e19045.
[2]厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド 2023(案).
[3]Shi G, Xing L, Wu D, et al. A rare mutation of β1-adrenergic receptor affects sleep/wake behaviors. Neuron. 2019;103(6):1044–1055.e7.