こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。
寒さが厳しくなると、
「朝、布団から出るのが極端につらい」
「日中も強烈な眠気が続く」
「無性に甘いパンやチョコレートが食べたくなる」
といった変化を感じることはありませんか?
「寒くて動きたくないだけ」「自分の意志が弱いからだ」と自分を責めてしまう方も多いですが、実はこれ、「季節性感情障害(SAD:Seasonal Affective Disorder)」、通称「冬季うつ」と呼ばれる医学的な症状である可能性が高いのです。
今回は、SADという言葉が生まれて40年となる2024年に発表された最新の学術論文[1]を基に、なぜ冬になると私たちの体は「冬眠モード」になってしまうのか、そのメカニズムと対策を解説します。

一般的なうつ病では「眠れない(不眠)」「食欲がない」という症状が多く見られますが、冬季うつ(SAD)の症状は「非定型」と呼ばれ、正反対の特徴が現れることが分かっています[1]。
これらの症状は、まるで動物が冬の寒さに備えてエネルギーを蓄え、活動を抑えようとする「冬眠(ハイバネーション)」の反応に酷似しています[1]。
これまで、冬季うつの原因は「体内時計のズレ(概日リズムの乱れ)」だけで語られることが多くありました。もちろんリズムも関わっていますが、近年の研究でより直接的な原因として注目されているのが、幸せホルモン「セロトニン」の季節変動です。
私たちの脳内には、精神を安定させ、覚醒を促す神経伝達物質「セロトニン」があります。最新の研究では、日照時間が短くなる冬の時期には、このセロトニンを回収してリサイクルする「セロトニントランスポーター」という掃除役のタンパク質が脳内で過剰に増えてしまうことが示唆されています。
掃除役が増えすぎた結果として、脳内で働くべきセロトニンがすぐに回収されてしまい、慢性的な「セロトニン不足」の状態に陥ります。これが気分の落ち込みや意欲低下の直接的な要因となります。
さらに、冬に甘いものや炭水化物を無性に食べたくなる現象も、このセロトニン不足が関係しています。糖質を摂取すると一時的に脳内でのセロトニン合成が促進されるため、脳が手っ取り早くセロトニンを増やそうとして過食という形の防衛反応を起こしているのです。
日光が十分あるため、セロトニンが脳内で活発に働き、気分も安定し活動的になる。
光不足で「回収役」が増えすぎ、セロトニンが不足。気分の低下・過食を引き起こす。
※Rybakowski (2024), Matheson et al. (2015)等の知見を基に作成
最新の論文では、興味深い「進化論的な仮説」も紹介されています。 それは、私たちが持つ冬季うつの素因は、かつて氷河期を生き抜いたネアンデルタール人から受け継いだ遺伝子によるものではないか、という説です[1]。
極寒の環境下では、エネルギーを消費して活動するよりも、食べて脂肪を蓄え、長く眠ってエネルギーを節約する個体の方が生存に有利でした。つまり、あなたが冬に眠くて食べたくなるのは「怠け」ではなく、太古の昔に獲得した「生き残るための適応戦略」の名残りかもしれないのです。
とはいえ、現代社会で冬眠するわけにはいきません。最新の研究で効果が確認されている対策をご紹介します。
冬季うつに対して最もエビデンスレベルが高い治療法は、薬ではなく「光」です。 通常の部屋の照明(500ルクス程度)では不十分で、2,500〜10,000ルクスの非常に明るい光を目から取り入れる必要があります[1][4]。
朝、起床時間に合わせて徐々に部屋を明るくする「光目覚まし時計」などを使用する方法です。 研究によると、中等度の症状であれば、高照度光療法に近い効果が期待できるとされています[1]。自然な夜明けを模倣することで、体に「朝が来た」と優しく教え、覚醒を促します。
食事では、セロトニンの材料となるアミノ酸「トリプトファン」(大豆製品、乳製品、バナナ、赤身魚など)を朝食で摂ることが基本です。 また、甘いお菓子(単純炭水化物)への渇望に対しては、血糖値の乱高下を防ぐため、食物繊維の多い「複合炭水化物」(玄米、全粒粉パン、芋類など)を選ぶことで、過食衝動をコントロールしやすくなります。

冬の不調は、気合や根性の問題ではなく、日照時間の減少に対する脳の生物学的な反応です。「冬は少しペースを落とす時期」と割り切ることも大切ですが、もし「仕事や生活に支障が出るほどの眠気がある」「過食が止められない」といった場合は、背景に治療が必要なSADが隠れている可能性があります。
当院では、睡眠障害の専門的な検査や、生活リズムのアドバイスを行っております。一人で抱え込まず、どうぞお気軽にご相談ください。
[1] Rybakowski, J. (2024). Forty years of seasonal affective disorder. Psychiatria Polska, 58(5), 747-759.
[2] Rosenthal, N. E., et al. (1984). Seasonal affective disorder. A description of the syndrome and preliminary findings with light therapy. Archives of General Psychiatry, 41(1), 72–80.
[3] Matheson, G. J., et al. (2015). Diurnal and seasonal variation of the brain serotonin system in healthy male subjects. Neuroimage, 112, 225-231.
[4] Wirz-Justice, A., & Terman, A. M. (2022). Light therapy: Why, what, for whom, how, and when (and a postscript about darkness). Praxis, 110(2), 56-62.