「早く寝なければ」「明日に響いてしまう」 その思いが強いほど、かえって眠れなくなってしまうことはないでしょうか。
不眠症では、眠ろうとする“努力”そのものが緊張や不安を高め、入眠を妨げている可能性が指摘されています。
近年、不眠症に対する心理療法の一つである逆説志向療法(パラドキシカル・インテンション)が、この悪循環に働きかける方法として再評価されています。
2022年に発表された系統的レビューおよびメタ解析では、入眠困難や睡眠に関する不安に対する効果が検討されました[1]。
本記事では、逆説志向療法の理論的背景、そして最新の研究結果について、一般の方にもわかりやすく解説します。
睡眠は本来、意識的に「がんばって」するものではなく、自律的な生理現象です。
しかし不眠が続くと、「眠らなければならない」という意識が強まり、就床時に強い緊張や焦りを感じるようになることがあります。
この状態では、「うまく眠れるかどうか」に対する不安や過度な自己監視が、覚醒水準を高め、かえって眠りを妨げる可能性があると考えられています[1]。
理論的には、次のような悪循環が想定されています。
この悪循環をどこで断ち切るかが、不眠症に立ち向かうための一つの焦点となります。
逆説志向療法は1970年代に報告された心理療法で、「眠ろうと努力する」のではなく、“できるだけ起きていようとする”という逆説的な指示を用います[2]。
具体的には、
といった方法がとられます。
目的は、「眠らなければ」というプレッシャーを弱めることです。
眠ることを“目標”にしないことで、不安を軽減し、結果的に自然な入眠を促す可能性があると考えられています[2]。
2022年に発表された系統的レビューおよびメタ解析では、逆説志向療法を検討した10件の臨床試験が統合されました[1]。
「何も治療を行わない群」や待機群と比較した場合、逆説志向療法は入眠潜時の短縮において大きな効果を示しました(図1)[1]。
【図1】逆説志向療法と受動的対照群の入眠潜時の比較

図1は、逆説志向療法と「治療を行わない群」を比較した研究結果をまとめた図です。
このような図は「フォレストプロット」と呼ばれ、複数の研究結果を統合して示す際に用いられます。
① 横軸(−3 〜 1)の意味
図の横軸は「効果の大きさ(標準化平均差:SMD)」を示しており、数値の絶対値が大きいほど治療群と対照群の差が大きいことを意味します。つまり中央の「0」は、「両群に差がない」ことを示します。
この図では、左側に行くほど“改善方向”になります。
② 黒い四角と横線
横線が「0」をまたいでいない場合、その研究では統計学的に差があると判断されます。
③ 一番下の黒いひし形(ダイヤ)
図の最下段にある黒いひし形は、すべての研究をまとめた統合結果を示します。
この研究では、統合効果 −0.82(95%信頼区間 −1.25〜−0.38)と報告されています[1]。
これは、逆説志向療法が治療を行わない群と比較して、入眠潜時(寝つくまでの時間)を短縮したことを意味します。
④ どのように解釈すべきか
全体として、この図からは、
が読み取れます。
逆説志向療法は、「眠ろうとする努力」が不眠を悪化させている可能性に着目した心理療法です。
メタ解析では、入眠潜時の短縮や睡眠パフォーマンス不安の軽減が示唆されました[1]。
ただし、研究数や対象の限界もあり、効果の大きさや適応については慎重な解釈が必要です。
不眠の背景には、生活習慣、心理的要因、身体疾患などさまざまな要素が関与します。
治療法の選択は、症状や背景に応じて専門医と相談しながら検討することが重要です。
参考文献
[1] Jansson-Fröjmark M, Alfonsson S, Bohman B, Rozental A, Norell-Clarke A. Paradoxical intention for insomnia: A systematic review and meta-analysis. J Sleep Res. 2022 Apr;31(2):e13464. doi: 10.1111/jsr.13464. Epub 2021 Aug 17. PMID: 34405469.
[2]Ascher LM, Efran JS. Use of paradoxical intention in a behavioral program for sleep onset insomnia. J Consult Clin Psychol. 1978 Jun;46(3):547-50. doi: 10.1037//0022-006x.46.3.547. PMID: 670496.