自然な眠りをサポートする「オレキシン受容体拮抗薬」の基礎知識

自然な眠りをサポートする「オレキシン受容体拮抗薬」の基礎知識

こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。

「ベッドに入っても、なかなか寝つけない」
「夜中に何度も目が覚めて、ぐっすり眠れない」

このような不眠の悩みを抱えていませんか?実は、日本で行われた調査によると、成人の30~40%もの人々が何らかの不眠症状を経験していると言われています[1]。不眠は日中の眠気やだるさだけでなく、生活の質や心身の健康にも影響を及ぼすため、我慢せずに適切に対処することが大切です。

近年、そんな不眠治療の中で注目されているのが、「オレキシン受容体拮抗薬(きっこうやく)」という新しいタイプの睡眠薬です。これは、従来の薬とは異なる仕組みで、脳を”お休みモード”に切り替え、より自然に近い眠りを促すお薬です。

この記事では、この「オレキシン受容体拮抗薬」について、その効果や副作用、注意点などを分かりやすく解説していきます。

オレキシンとは?眠りと覚醒をコントロールする神経伝達物質

まず、この薬を理解する上で鍵となる「オレキシン」についてご説明します。

オレキシン(別名:ヒポクレチン)とは、私たちの脳の一部(視床下部)で作られる神経伝達物質の一種です。その最も重要な働きは、脳を「起きている状態(覚醒)」に保つこと。つまり、オレキシンは脳にとっての”覚醒スイッチ”のような役割を果たしています。

このオレキシンが脳内の受け皿(受容体)にカチッとはまることで、「起きろ!」という信号が脳全体に伝わり、私たちは日中活動的に過ごすことができるのです。

この「覚醒の仕組み」に注目して開発されたのが、今回ご紹介する「オレキシン受容体拮抗薬」です。

オレキシン受容体拮抗薬のしくみと従来の睡眠薬との違い

これまでの不眠症治療では、「ベンゾジアゼピン系」や「非ベンゾジアゼピン系」と呼ばれる睡眠薬が主流でした。これらのお薬は、脳の興奮を鎮める物質(GABA)の働きを強めることで、脳全体の活動にブレーキをかけ、半ば強制的に眠りを導くタイプです。

即効性が期待できる一方で、ふらつきや転倒の原因となる筋肉のゆるみ(筋弛緩作用)や、薬をやめにくくなる依存のリスク、翌朝まで眠気が残る「持ち越し効果」といった副作用が課題となることもありました[2]。

それに対し、オレキシン受容体拮抗薬は全く異なるアプローチをとります。脳にブレーキをかけるのではなく、覚醒のスイッチであるオレキシンの働きをブロックすることで、脳を興奮状態から鎮め、自然な眠気を引き出すのです。

オレキシン受容体拮抗薬の作用機序

鎮静・催眠作用のあるベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系の薬剤とは異なり「覚醒の抑制」というメカニズムで作用するため、以下のようなメリットが期待できます。

  • 入眠しやすい
  • 翌朝ふらつきにくい
  • 依存性(習慣性)が理論上ない

まさに、睡眠のリズムを「強制的に変える」のではなく「優しく整える」お薬と言えるでしょう。

日本で承認されているオレキシン受容体拮抗薬とその効果

現在、日本で処方されている主なオレキシン受容体拮抗薬は以下の3種類です。それぞれ作用の強さや持続時間が異なり、患者様の不眠のタイプや生活スタイルに合わせて医師が選択します。

  • スボレキサント(商品名:ベルソムラ)
  • レンボレキサント(商品名:デエビゴ)
  • ダリドレキサント(商品名:クービビック)
オレキシン受容体拮抗薬の特徴

ここでは、それぞれの薬の主な特徴を簡単にご紹介します。

スボレキサント(ベルソムラ)

2014年に世界で初めて承認されたオレキシン受容体拮抗薬です。
臨床試験では、薬を服用することで、客観的に見て眠っている時間が長くなり、重大な副作用も無いことが確認されています[3]。

レンボレキサント(デエビゴ)

寝つきの悪さだけでなく、夜中に目が覚めてしまう「中途覚醒」にも効果が期待できる薬です。
臨床試験では、寝つくまでの時間が短くなり、ぐっすり眠れるようになったことが報告されています[4]。

ダリドレキサント(クービビック)

現在ある3剤の中では最も新しい薬です。
臨床試験では、客観的な睡眠の改善だけでなく、患者様自身が「よく眠れた」と感じ、翌日も元気に活動できるようになったという主観的な改善も確認されています[5]。

オレキシン受容体拮抗薬の副作用と使用する際の注意点

比較的安全性の高いオレキシン受容体拮抗薬ですが、以下のような副作用が報告されています[3][4][5]。

  • 眠気の持ち越し(翌朝の眠気)
  • 頭痛、めまい
  • 倦怠感
  • 夢を見る回数の増加(悪夢を見る)
  • 幻覚

これらの症状は誰にでも起こるわけではありませんが、もし服用後に気になる症状が現れた場合は、自己判断で服用を中止したりせず、必ず処方した医師に相談してください。

また、持病のある方や他に薬を服用している方は、効果が強く出すぎたり、予期せぬ影響が出たりすることがあります。診察の際には、ご自身の健康状態や服用中の薬について、正確に医師へ伝えることが非常に重要です。

レンボレキサントの使用上の注意等

オレキシン受容体拮抗薬は健やかな眠りを目指す選択肢の一つ

オレキシン受容体拮抗薬は、これまでの睡眠薬とは違うアプローチで、私たちの心身をより自然な眠りへと導いてくれるお薬です。依存のリスクも低いことから、不眠に悩む多くの方にとって、心強い選択肢の一つとなるでしょう。

ただし、どんなお薬も、不眠の根本的な原因を解決するものではありません。薬はあくまで「眠るためのサポート」です。健やかな睡眠を取り戻すためには、生活習慣の見直しやストレス管理といったご自身の取り組みも不可欠です。

もしあなたが不眠に悩み、総合的な治療をご希望でしたら、ぜひ一度、当クリニックにご相談ください。専門医があなたに合った治療法を一緒に考えます。

参考文献

[1] 不眠症 | e-ヘルスネット(厚生労働省)

[2] 重篤副作用疾患別対応マニュアル 令和3年3月 厚生労働省

[3] 医薬品インタビューフォーム オレキシン受容体ー不眠症治療薬ースボレキサント錠 ベルソムラ錠10mg 15mg 20mg 2025年3月改訂(第15版)

[4]  医薬品インタビューフォーム 不眠症治療薬 レンボレキサント錠 デエビゴ錠2.5mg 5mg 10mg 2024年12月改訂(第10版)

[5] 医薬品インタビューフォーム オレキシン受容体拮抗薬-不眠症治療薬-ダリドレキサント塩酸塩製剤 クービビック錠25mg 50mg 2025年7月改訂(第3版)