──夜間頻尿は“眠りの病気”が隠れているサインかもしれません──
「夜中に何度もトイレに起きてしまう…」
「寝ている間にトイレに起きるせいで、ぐっすり眠れた気がしない…」
こうした経験は、年齢を重ねるにつれて増えていきます。多くの方は「年を取ったから仕方ない」「膀胱が弱ったせい」と考えがちですが、実は睡眠そのものに関わる問題が夜中にトイレに起きてしまう原因となっている場合もあります。

国際尿禁制学会(ICS)や日本排尿機能学会の定義では、
「夜間に1回以上、排尿のために目が覚めること」を夜間頻尿と呼びます[1,2]。
ただし、1回程度であれば大きな支障はないことも多いです。一方で、夜間に2回以上の排尿があると、睡眠の質や日常生活のQOL(生活の質)が低下するとされています[1]。このような状態が続く場合は、医療機関に相談してみることも考えてよいでしょう。
夜間頻尿は「尿がたまった」から「目が覚める」だけではありません。睡眠が浅いために途中で目が覚め、結果的にそのときに尿意を感じているためにトイレに行くケースもあることが報告されています[3]。
また、尿意を生じさせてしまう睡眠障害もあります。その代表的な例の一つが 睡眠時無呼吸症候群 です。
睡眠時無呼吸症候群の方々における夜間頻尿の原因は、まだ完全には解明されていません。しかし、無呼吸により心血管系に負担がかかると、心臓は、体液量を減らすことで心臓の負荷を減らそうとし、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)というホルモンを分泌します。その結果、腎臓からの尿の排出が増え、夜間の尿量が増え、夜間のトイレの回数が多くなるのです[4]。

このように、「夜間頻尿が睡眠を悪化させる」だけでなく、「睡眠障害が夜間頻尿に影響を与える」という双方向の関係が存在する可能性が指摘されています。
もちろん、夜間頻尿そのものが睡眠を妨げることも大きな問題です。
夜間頻尿は高齢者における睡眠障害の最も重要な要因の一つと報告されています[5]。
夜中に繰り返し目が覚めると:
その結果、翌日の疲労感や集中力の低下につながり、生活の質(QOL)を大きく損ねてしまうのです。

年齢を重ねると夜間頻尿が増えるのは、単なる「膀胱の老化」だけではありません。
こうした複数の要因が重なり合い、夜間頻尿が起こりやすくなると考えられています。
夜間頻尿は夜のトイレだけの問題ではありません。
特に高齢者では転倒が骨折につながり、生活自立度の低下にも直結するため、夜間頻尿の影響は非常に大きいのです[3][5]。

最近、日本からも夜間頻尿と睡眠の関係を示す報告がありました。
ある調査(3,317名対象)では、夜間頻尿のある人は眠りの満足度が低い傾向にあることが明らかになりました[6]。
といった睡眠問題を訴える割合が高いことも分かっています。
特に女性の一部では、夜間頻尿があると睡眠問題のオッズ比(夜間頻尿のない人と比べて、睡眠問題が起こる可能性の比率)が11倍以上に上昇していました。
加えて、塩分と夜間頻尿との関係も日本から報告されています。
2019年に報告された長崎大学の研究では、厚生労働省の推奨する1日塩分摂取量の上限(男性8g、女性7g)を超えている夜間頻尿患者に食事指導を行い、塩分摂取量が減少した群(成功群)と減少しなかった群(不成功群)の比較を行いました。減塩成功群では、夜間排尿回数、夜間尿量が有意に低下しましたが、不成功群では、夜間排尿回数、夜間尿量が有意に増加しました[7]。
日本の夜間頻尿ガイドラインでも、どの程度減塩すれば良いかはまだ不明確だと留保はついているものの、夜間頻尿を減らすための減塩は推奨されています[8]。
夜間頻尿は膀胱だけでなく、睡眠障害や体内時計(概日リズム)の乱れとも関わっています。「夜間頻尿が睡眠を悪化させる」だけでなく「睡眠障害が夜間頻尿を招く」双方向の関係もあると分かっています。夜間頻尿は、眠りの質の低下や睡眠障害のサインかもしれず、こうした背景を知ることが、早めの受診や生活改善につながります。また減塩を中心とした生活習慣の改善も重要です。
「夜に何度もトイレで目が覚める」という症状が続くときは、泌尿器科だけでなく、睡眠の専門医に相談してみるのもよいでしょう。
参考文献
[1]日本泌尿器科学会. 夜間頻尿診療ガイドライン 2023.
[2]Meijlink J. Nocturia. Current ICS Definition. International Continence Society (ICS). Last updated June 2018.
[3]Bliwise DL. Nocturia and disturbed sleep in the elderly. Int Neurourol J. 2008;12(2):71–74. PMCID: PMC2735085.
[4]Raheem OA, Orosco RK, Davidson TM, Lakin C. Clinical predictors of nocturia in the sleep apnea population. Urol Ann. 2014;6(1):14–18. PMCID:PMC3963340.
[5]Ancoli-Israel S, Bliwise DL, Nørgaard JP. The effect of nocturia on sleep. BJU Int. 2011;107(7):998–1003. PMCID: PMC3137590.
[6]Nonaka H, Suzuki S, Negoro H, Ikeda A, Chihara I, Kandori S, Nishiyama H. Association between nocturia and sleep issues, incorporating the impact of lifestyle habits perceived as promoting sleep in an internet survey. Sci Rep. 2025;15:17508. doi:10.1038/s41598-025-02587-7.
[7]Matsuo, T., Miyata, Y., & Sakai, H. (2019). Effect of salt intake reduction on nocturia in patients with excessive salt intake. Neurourology and urodynamics, 38(3), 927–933. https://doi.org/10.1002/nau.23929
[8] 日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会 2024 夜間頻尿ガイドライン 第二版
https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/37_nocturia_v2.pdf