あなたの「だるさ」は腸からのSOS。脳と腸の対話を取り戻し、快眠を手に入れる方法

あなたの「だるさ」は腸からのSOS。脳と腸の対話を取り戻し、快眠を手に入れる方法

こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。

「夜、ぐっすり眠ったはずなのに、朝から体がだるい…」

「しっかり寝る時間をとっているのに、日中も眠気がとれない…」

厚生労働省の調査によると、日本人の約5人に1人が「睡眠で休養が十分にとれていない」と感じています [1]。もしあなたがこのような悩みを抱えているなら、その原因は単なる寝不足ではなく、お腹の中の「腸内環境」にあるのかもしれません。

近年の研究で、睡眠不足が腸内環境を悪化させ、その悪化した腸内環境がさらに睡眠の質を下げるという、まるで「負のループ」のような関係があることが明らかになってきました [2]。

今回は、この恐ろしい悪循環の正体と、それを断ち切るための具体的な方法について、科学的な根拠を基に分かりやすく解説します。

ステップ1:睡眠不足が「腸」を攻撃する

「たかが睡眠不足」と侮ってはいけません。私たちの体は、睡眠不足を大きなストレスとして捉えます。

このストレスが引き金となり、体の中では次のような静かな異変が起こります。

1.腸の守備力が下がる(腸管バリア機能の低下)

ストレスホルモンの影響で、腸の壁を守っているバリア機能(粘液、糖衣、細胞間接着因子等)が弱まることがしられています [2]。これは、家の鍵が壊れて、招かれざる客が簡単に入ってこられる状態に似ています。

2.腸内細菌のバランスが崩れる

私たちの腸内には、数百種類、数十兆個もの細菌が暮らしており、その集まりは「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」と呼ばれています。腸のバリアが弱まると、この細菌たちのバランスが崩れ、「悪玉菌」に分類される菌が優勢になり、体を守ってくれる「善玉菌」が減ってしまいます。実際に、マウスの睡眠を妨害する実験では、腸内のラクトバチルス科(善玉菌の一種)が減少し、ラクノスピラ科といった特定の菌が増えることが報告されています [2, 3]。

つまり、睡眠不足は、腸の守備力を下げ、腸内環境を直接的に悪化させる原因となるのです。

ステップ2:「腸」からの逆襲が睡眠を妨げる

腸内環境が悪化すると、今度は腸があなたの睡眠に「逆襲」を始めます。

・脳と腸の連携が乱れる

腸と脳は「腸脳相関」というネットワークで密接につながっており、互いに情報をやり取りしています。腸内細菌は、神経伝達物質やホルモンを通じて、脳の機能に間接的に影響を与えます。腸内環境が悪化すると、この連携がうまくいかなくなり、脳が司る睡眠のリズムにも悪影響が及ぶと考えられています [2]。

・炎症を引き起こす「細菌の成分」が漏れ出す

腸の壁がゆるむと、通常は腸内にとどまっているはずのLPS(リポ多糖)といった「細菌の成分(毒素)」が、血液中に漏れ出してしまいます [2]。これらの成分は、体内で炎症反応を引き起こし、感染症にかかった時のような強い眠気や倦怠感の原因となることが知られています [2, 5]。

このように、乱れた腸内環境は、睡眠の質を内側からじわじわと蝕んでいくのです。

【図解】抜け出せない!睡眠と腸の悪循環

ここまで見てきたように、睡眠不足と腸の不調は、互いが原因となり結果となる「負のループ」を形成しています。

睡眠と腸の悪循環(修正版)

😴睡眠不足・質の低下

ストレスが増え、体のリズムが乱れる。

(腸の守備力が下がり、悪玉菌が増える)

🦠腸内環境の悪化

睡眠ホルモンの材料が不足し、だるさの原因物質が作られる。

(脳が休まらず、さらに眠りが浅くなる)

負のループが完成

じゃあ、一体どこから手をつければいいの?」と思いますよね。ご安心ください。このループは、生活の中のちょっとした工夫で断ち切ることができます。

悪循環を断ち切る3つの新習慣

【最優先】睡眠の質と量を確保する

腸内環境を整えるための最初のステップは、意外にも「質の良い睡眠を、決まったリズムでとること」です。毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きることを心がけ、体内時計を整えることから始めましょう。

腸が喜ぶ「菌のエサ」を食べる

腸内にいる善玉菌を元気にし、その働きを助けましょう。善玉菌のエサとなる「食物繊維」(野菜、海藻、きのこ、雑穀、豆、果物類)や、善玉菌そのものを含む「発酵食品」(ヨーグルト、納豆、チーズなど)を毎日の食事に少しずつプラスするのがおすすめです [6]。一般的な味噌は製造過程で加熱殺菌されていることが多いですが、発酵によって生み出された体に良い成分が含まれています。

ストレスを軽減する習慣を持つ

日中の精神的なストレスも、ストレスホルモンを通じて腸にダメージを与えます [2]。そのため、心身をリラックスさせ、ストレスを軽減する習慣は、間接的に腸内環境をサポートすることにつながります。ベッドに入る30分〜1時間前はスマートフォンを置き、温かいノンカフェインのハーブティーを飲むなど、心と体を「おやすみモード」に切り替える時間を作るのも良いかもしれません。

まとめ

今回は、寝ても疲れが取れない不調の陰に潜む「睡眠と腸の悪循環」について解説しました。この負のループを断ち切る鍵は、睡眠と腸を別々のものと考えず、両方から同時にケアしてあげることです。

ただし、これらのセルフケアを試しても改善が見られない場合は、背景に睡眠時無呼吸症候群などの専門的な治療が必要な病気が隠れている可能性もあります。

当院では、睡眠に関するあらゆるお悩みに専門医が対応いたします。一人ひとりの状態に合わせて、生活習慣のアドバイスから専門的な治療まで、総合的なサポートを提供しておりますので、一人で悩まず、どうぞお気軽にご相談ください。

参考文献

[1] 厚生労働省. (2019). 平成30年国民健康・栄養調査報告. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/h30-houkoku_00001.html

[2] Matenchuk, B. A., Mandhane, P. J., & Kozyrskyj, A. L. (2020). Sleep, circadian rhythm, and gut microbiota. Sleep Medicine Reviews, 53, 101340.

[3] Poroyko, V. A., Carreras, A., Khalyfa, A., Khalyfa, A. A., Leone, V., Peris, E., … & Gozal, D. (2016). Chronic sleep disruption alters gut microbiota, induces systemic and adipose tissue inflammation, and insulin resistance in mice. Scientific reports, 6(1), 35405.

[4] Yano, J. M., Yu, K., Donaldson, G. P., Shastri, G. G., Ann, P., Ma, L., … & Hsiao, E. Y. (2015). Indigenous bacteria from the gut microbiota regulate host serotonin biosynthesis. Cell, 161(2), 264-276.

[5] Krueger, J. M., Pappenheimer, J. R., & Karnovsky, M. L. (1982). The composition of sleep-promoting factor isolated from human urine. The Journal of biological chemistry, 257(4), 1664-1669.

[6] 厚生労働省 e-ヘルスネット. (2019). 腸内細菌と健康. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html