こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。
「しっかり寝ても疲れが取れない」
「夜中に何度も目が覚めてしまう」……。
こうした睡眠の悩みは、日中の集中力低下だけでなく、長期的には心身の健康リスクにもつながりかねません。
これまでのコラムでも睡眠と栄養の関係についてお伝えしてきましたが、今回取り上げるのは、世界的に健康長寿の食生活として知られる地中海式食事法(Mediterranean Diet)です。
心臓病や糖尿病のなどの生活習慣病対策として有名なこの食事法ですが、2022年に発表された最新の学術レビュー論文[1]をはじめ、近年の研究で「睡眠の質」や「睡眠時間」にも良い影響を与える可能性が明らかになってきました。
なぜ地中海の食事が眠りに良いとされるのか、最新の科学的根拠(エビデンス)に基づいて解説します。

地中海式食事法は、イタリアやギリシャなど地中海沿岸諸国で1960年代以前から伝統的に行われていた食生活のことです。単なるダイエット法ではなく、ユネスコの無形文化遺産にも登録された健康的なライフスタイルです。
この食事法の最大の特徴は、抗酸化作用のある植物性食品をベースに、良質な脂質を摂取する点にあります[1]。
控えるもの: 赤身肉(牛肉、豚肉)、加工肉(ハム、ソーセージ)、精製された砂糖、お菓子
積極的に食べるもの: 植物性食品(野菜、果物、豆類、ナッツ、全粒穀物)、オリーブオイル(主な脂質源)、魚介類
適度に食べるもの: 乳製品(ヨーグルトやチーズ)、鶏肉、卵、赤ワイン(食事とともに適量)

実際に、この食生活は睡眠にどのような影響を与えるのでしょうか。
2022年のレビュー論文によると、「地中海式食事法の遵守度(どれくらい忠実に守っているか)が高いほど、睡眠の質が良く、適切な睡眠時間が確保できている」という関連性が複数の研究で報告されています[1]。
イタリアの成人約2,000人を対象とした研究(MEAL研究)では、地中海式食事法のスコアが高い人ほど、「睡眠の質が良好」である確率が高いことが示されました[2]。特に、野菜、果物、魚、オリーブオイルなどをバランスよく摂っている人ほど、スムーズな入眠と関連している傾向が見られています。
アラブ首長国連邦の大学生を対象とした研究では、地中海式食事法を実践している学生は、夜型よりも朝型である可能性が高く、睡眠に関する悩みが少ないという結果が報告されています[3]。

地中海の食事が睡眠をサポートする理由として、論文では主に以下の3つのメカニズムが相互に作用していると考えられています[1]。
野菜や果物に含まれるポリフェノールや、オリーブオイルには、抗酸化・抗炎症作用があることが知られています。睡眠不足は体内の「炎症」レベルを高めることがありますが、逆に慢性的な微弱炎症が睡眠リズムに悪影響を与える可能性も指摘されています。地中海式食事法に含まれる豊富な抗酸化物質は、この炎症を抑える働きが期待され、脳のストレスを和らげることで安眠をサポートすると考えられています。
脳内物質である、情動に関与する「セロトニン」や、睡眠リズムを調整するホルモン「メラトニン」は、アミノ酸の一種であるトリプトファンから作られます。地中海式食事法で豊富な魚介類(オメガ3脂肪酸)やビタミンB群は、このセロトニンやメラトニンの合成プロセスを助ける重要な役割を果たします。これらを食事からバランスよく摂ることは、夜の自然な眠気の準備につながります。
食物繊維が豊富な植物性食品は、腸内細菌のエサとなり、腸内環境を多様で豊かな状態にします。近年、「脳腸相関」と呼ばれる脳と腸の密接な関係が注目されています。腸内環境が整うことで、抑うつや不安、そして睡眠を生じさせる原因になる炎症性物質が少なくなり、結果として睡眠の質の向上に寄与する可能性が示唆されています。
以下の表に、地中海式食事が睡眠にアプローチする仕組みをまとめました。
栄養素がどのように体に働きかけ、睡眠をサポートするのかをまとめました。
| メカニズム | 関連する主な食品 | 睡眠へのメリット |
|---|---|---|
| ① 抗炎症・抗酸化作用 | ・野菜、果物(ポリフェノール) ・オリーブオイル ・ナッツ類 | 脳や体内の慢性的な炎症(酸化ストレス)を抑え、睡眠リズムの乱れを防ぐ。 |
| ② 睡眠ホルモンの材料 | ・魚介類(オメガ3脂肪酸) ・全粒穀物、豆類 ・ビタミンB群 | セロトニンやメラトニンの合成を助け、夜の自然な眠気を準備する。 |
| ③ 腸内環境の改善 | ・全粒穀物(食物繊維) ・発酵食品 ・野菜、果物 | 抑うつや不安、睡眠の乱れの原因となる炎症性物質を減らす。 |
(参考文献[1]のTable 1や本文などを基に作成)
いきなり全ての食生活を地中海風に変える必要はありません。日本の食卓にも取り入れやすい要素はたくさんあります。無理のない範囲で、以下の「置き換え」から始めてみましょう。いきなり全ての食生活を地中海風に変える必要はありません。日本の食卓にも取り入れやすい要素はたくさんあります。無理のない範囲で、以下の「置き換え」から始めてみましょう。
小腹が空いたらスナック菓子や甘いお菓子ではなく、無塩のナッツ(アーモンドやくるみ)や季節のフルーツを選びましょう。良質な脂質とビタミンが補給できます。
普段使っているサラダ油の一部を、抗酸化作用のあるエキストラバージンオリーブオイルに変えてみましょう。加熱料理だけでなく、サラダや豆腐にかけるのもおすすめです。
白米や白い食パンを、玄米、雑穀米、全粒粉パンなど、精製度の低い「茶色い炭水化物」に置き換えてみましょう。食物繊維が増え、腸内環境の改善に役立ちます。
夕食のメインディッシュで、赤身肉(牛・豚)の頻度を少し減らし、サバ、イワシ、サケなどの魚を食べる回数を「週2回以上」目指しましょう。缶詰やお刺身を活用すると手軽です。
食生活を整えることは、日々の活力だけでなく、毎日の睡眠の質を支える重要な土台となります。 地中海式食事法は、特定の食材だけを食べる極端なダイエットではありません。「野菜と魚を増やし、質の良い油を摂る」というシンプルな心がけが、あなたの眠りを変えるきっかけになるかもしれません。
もちろん、睡眠の悩みには食事以外にも様々な要因が関係しています。生活習慣を改善しても「眠れない」「日中の眠気が強い」といった症状が続く場合は、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害が隠れている可能性もあります。どうぞお一人で悩まず、当院までお気軽にご相談ください。
[1]Scoditti E, Tumolo MR, Garbarino S. Mediterranean Diet on Sleep: A Health Alliance. Nutrients. 2022 Jul 21;14(14):2998.
[2]Godos J, Ferri R, Caraci F, Cosentino FII, Castellano S, Galvano F, Grosso G. Adherence to the Mediterranean Diet is Associated with Better Sleep Quality in Italian Adults. Nutrients. 2019 Apr 28;11(5):976.
[3]Naja F, Hasan H, Khadem SH, Buanq MA, Al-Mulla HK, Aljassmi AK, Faris ME. Adherence to the Mediterranean Diet and Its Association With Sleep Quality and Chronotype Among Youth: A Cross-Sectional Study. Front Nutr. 2021;8:805955.