睡眠不足で人に優しくなれなくなる!?―研究が示した“睡眠と助け合い”の意外な関係

「寝不足だと、人に冷たくなってしまう」

そんな関連性がなんと近年の研究によって示唆されました。

2022年に発表された研究で、たった1晩の睡眠不足によって、人が「誰かを助けたい」と感じる度合いが低下することが示され、日常生活での助け合い行動や、社会全体の寄付行動にまで影響が及ぶ可能性が検討されています。

そしてその背景には、「他人の立場や気持ちを考える脳の働き」が関係していることも分かってきました。

本記事では、こうした研究結果をもとに、

睡眠不足が人の“優しさ”や“助け合い”にどのように関わっているのかを、一般の方にも分かりやすく解説します。


「助けたい気持ち」は睡眠不足でどう変わるのか?

睡眠不足というと、集中力の低下やイライラ、体調不良といった影響を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし近年の研究では、睡眠不足が人との関わり方や思いやりの気持ちにも関係している可能性が示されています。

2022年に発表された研究では、睡眠が不足すると「誰かを助けたい」と感じる気持ちが弱まることが、実験や日常生活、さらには社会全体のデータを通じて検討されました[1]。

この研究の特徴は、単に気分や主観的な印象を調べただけでなく、行動・脳の働き・社会データという複数の視点から睡眠と「助け合い」の関係を分析している点にあります。

ここからは、この研究でどのような結果が示されたのかを、順を追って見ていきます。


1晩の寝不足で起きた変化―実験研究が示した結果

研究の最初の実験では、健康な若年成人を対象に、

  • 十分な睡眠をとった状態
  • 1晩まったく眠らなかった状態

この2つの条件で、「人を助けたいと思う気持ち」がどのように変化するかが調べられました。

その結果、多くの参加者において、睡眠不足の翌朝には「助けたい気持ち」が低下する傾向がみられました[1]。

この変化は、見知らぬ人に対しても、友人や同僚といった身近な相手に対しても、同様に観察されています。

重要なのは、この結果が「気分が落ち込んだから」「やる気が出なかったから」といった単純な理由だけでは説明しきれなかった点です。研究では、気分や努力量、共感性といった要因を統計的に考慮したうえでも、睡眠不足と助け行動の低下との関連が残ることが示されています[1]。

図1:1晩の睡眠不足と「助けたい気持ち」の変化


脳はどう影響を受けていたのか?―“他人の気持ちを考える脳”の変化

この研究では、脳画像(fMRI)を用いて、睡眠不足が脳の働きにどのような影響を与えるかも調べられました。

注目されたのは、「社会的認知ネットワーク」と呼ばれる脳のネットワークです。

社会的認知ネットワークとは、

  • 他人の気持ちを想像する
  • 相手の立場や考えを理解する

といった、対人関係に欠かせない働きを担う脳領域の集合体です。

研究の結果、睡眠不足の状態では、この社会的認知ネットワークの活動が低下しており、その低下の程度が大きい人ほど、「助けたい気持ち」も弱くなる傾向が示されました[1]。

つまり、睡眠不足になると、

「相手のことを考える脳の働き」が十分に機能しにくくなり、その結果として助け行動が減る可能性

が示唆されたのです。


日常生活でも見られた影響―数日間の睡眠と助け合い

次に研究者たちは、実験室ではなく、日常生活の中での睡眠と助け行動の関係を調べました。

参加者は数日間、自身の睡眠状況と「人を助けたい気持ち」について毎日記録しました。

その結果、

  • 睡眠時間の長さよりも
  • 睡眠の質(途中で目が覚める、ぐっすり眠れたか)

が重要であり、睡眠の質が低下した翌日は、助けたい気持ちも低下しやすいことが示されました[1]。

この結果は、「たった一晩の徹夜」だけでなく、日常的な睡眠の乱れも、人との関わり方に影響する可能性があることを示しています。

図2:睡眠の質と翌日の助け行動の関係


社会全体でも見られた影響―寄付行動から分かったこと

さらに研究では、社会全体の行動データとして、米国の寄付行動が分析されました。

米国ではサマータイム開始時に、実質的に睡眠時間が短くなることが知られています。

その週の寄付データを調べたところ、

サマータイム開始直後の週には、寄付金額が減少する傾向

が確認されました[1]。

これは個人レベルの「気持ち」だけでなく、社会全体の助け合い行動にも、睡眠不足が影響する可能性を示唆する結果といえます。

図3:サマータイム移行週と寄付金額の変化


この研究から私たちが考えたいこと

この研究は、睡眠不足や睡眠の質の低下によって、必ずしも「性格が悪くなる」「優しくなくなる」と断定するものではありません。

しかし、睡眠が不足した状態や睡眠の質が悪い状態では、

  • 他人の気持ちを考える余裕が減る
  • 結果として助け行動が減る可能性がある

という視点を、私たちに提示しています。

日常生活の中で、

「最近、人に冷たくなっている気がする」

「余裕がなくて周りに気が回らない」

と感じるとき、背景に睡眠の問題が隠れている場合もあるかもしれません。


睡眠に悩みがある方へ

睡眠不足や睡眠の質の低下は、本人の努力だけで解決できないことも多くあります。

いびき、不眠、夜中に何度も目が覚める、日中の強い眠気などが続く場合には、睡眠障害が関係している可能性も考えられます。

「最近よく眠れていない」「生活や人間関係に影響が出ている気がする」と感じた場合は、当院までお気軽にご相談ください。


参考文献

[1]Ben Simon E, Vallat R, Rossi A, Walker MP. Sleep loss leads to the withdrawal of human helping across individuals, groups, and large-scale societies. PLoS Biol. 2022 Aug 23;20(8):e3001733. doi: 10.1371/journal.pbio.3001733. Erratum in: PLoS Biol. 2023 Nov 15;21(11):e3002394. doi: 10.1371/journal.pbio.3002394. PMID: 35998121; PMCID: PMC9398015.