睡眠不足が子どもの視力を奪う ー20万人の研究が明かす近視リスク1.66倍の衝撃ー

夜更かしが成長に悪いことは誰もが知っています。しかし、睡眠不足が子どもの「視力」にも深刻な影響を与えることは、あまり知られていません。日本では小学生の約4割、中学生の約6割が近視であり、最新の国際研究で「睡眠不足」が近視の重要なリスク要因であることが明らかになってきました。

20万人超の研究が示す衝撃のリスク

2023年、オーストラリアの研究チームが学術誌『Clinical and Experimental Ophthalmology』に画期的な研究を発表しました[1]。世界各国で実施された31の独立研究を統合したメタアナリシスで、対象者数は実に20万5,907人にのぼります。これほど大規模な統合解析は、睡眠と近視の関係を調べた研究として過去最大級です。 結果は衝撃的でした。睡眠時間が短い子どもは近視リスクが1.66倍に跳ね上がり(95%信頼区間: 1.14-2.42、11研究56,047人)、逆に十分な睡眠をとる子どもは近視リスクが37%低下しました(オッズ比0.63、95%信頼区間: 0.51-0.78、15研究122,115人)[1]。さらに睡眠の質が悪い子どもでも近視リスクが1.24倍に増加することがわかりました(95%信頼区間: 1.05-1.47、4研究11,697人)[1]。

図1.  短い睡眠時間と近視リスクの関連。11研究56,047人の統合解析により、睡眠不足の子どもは近視リスクが1.66倍に増加することが示されました[1]。

就学前の睡眠が学童期の視力を決める

2025年、中国の研究チームが1,561人の子どもを出生時から7歳まで追跡した「Ma’anshan出生コホート研究」の成果を発表しました[2]。この研究の重要な点は、就学前(4歳、5.5歳、6歳)の睡眠パターンを詳細に記録し、その後の視力への影響を調べたことです。

結果、4歳時点で「社会的時差ボケ」(平日と休日の睡眠リズムのずれ)が1時間以上ある子どもは、7歳時の近視リスクが1.38に増加し(95%信頼区間: 1.03-1.85)、眼軸長(眼球の奥行き)も有意に伸びていました(β=0.12mm、95%信頼区間: 0.02-0.21)[2]。5.5歳時点で睡眠時間が不足している子どもでは、眼軸長の伸びがさらに顕著でした(β=0.16mm、95%信頼区間: 0.07-0.24)[2]。

図2. 就学前(4~6歳)における睡眠時間、睡眠習慣、社会的時差ボケの変化パターン。この時期の睡眠の乱れが学童期の視力に影響します[2]。

睡眠リズムの乱れが視力に与える影響

Ma’anshan研究でとくに注目されるのは「社会的時差ボケ」の影響です。平日は早寝早起きでも、週末に夜更かしして朝寝坊する生活パターンは、就学前の子どもでも珍しくありません。しかし、このような睡眠リズムの乱れが、眼球の発育に悪影響を及ぼすことが明らかになりました[2]。具体的には、4~6歳の間に「社会的時差ボケ」が増加していくパターンを示した子どもでは、眼軸長/角膜曲率半径比が3を超えるリスクが1.55倍に上昇しました(95%信頼区間: 1.01-2.37)[2]。

なぜ睡眠不足が近視を引き起こすのか

体内時計の乱れと眼球の発育

眼球の成長は体内時計(概日リズム)の影響を強く受けています。網膜では昼間に分泌されるドーパミンと、夜間に分泌されるメラトニンが眼球の成長を調節しています。規則正しい睡眠リズムは、この2つのホルモンバランスを最適に保つために不可欠です[1][2]。睡眠不足や不規則な睡眠は、ドーパミン分泌を低下させ、眼軸が異常に伸びる(近視化する)原因となります。

研究の限界と今後の課題

これらの研究には重要な限界もあります。Wang et al.[1]のメタアナリシスに含まれる研究の多くは横断研究であり、因果関係を完全に証明するものではありません。また、Ma’anshan研究[2]では睡眠データを保護者からの質問票で収集しており、実際の睡眠時間との誤差(想起バイアス)が含まれる可能性があります。さらに、屋外活動時間や近業作業時間などの交絡因子を完全に排除することは困難です。今後は、客観的な睡眠測定装置を用いた長期縦断研究が必要とされています。

視力を守るための睡眠習慣

研究結果から導かれる実践的なアドバイスは以下の通りです。

  1. WHO推奨に従い、4~6歳児は1日10時間以上の睡眠を確保すること
  2. 平日と休日の睡眠リズムの差を1時間以内に抑えること
  3. 就寝1時間前からスクリーンタイムを避けること
  4. 日中は屋外活動の時間を確保すること

です。とくに就学前の時期は、視覚系の発達にとって極めて重要な時期です。この時期に良好な睡眠習慣を確立することが、将来の近視予防につながります。

まとめ

20万人を超える大規模研究により、睡眠不足が子どもの近視リスクを1.66倍に高めることが明らかになりました。さらに、就学前の睡眠習慣が学童期の視力に長期的な影響を与えることも示されました。子どもの視力を守るために、今日から十分な睡眠時間と規則正しい睡眠リズムの確保を心がけましょう。

参考文献

[1] Wang XX, Liu X, Lin Q, Dong P, Wei YB, Liu JJ. Association between sleep duration, sleep quality, bedtime and myopia: a systematic review and meta-analysis. Clin Exp Ophthalmol. 2023;51(7):673-684.

[2] Wang M, Tong J, Zhu D, et al. Sleep Duration, Sleep Habits, and Social Jetlag From 4 to 6 years Their Impacts on Myopia Among School-Aged Children: The Ma’anshan Birth Cohort Study. Nat Sci Sleep. 2025;17:365-378.