睡眠時間と心臓病・脳卒中の意外な関係──寝不足でも寝すぎでも血圧が上がる!?

テスト前の徹夜、休日の寝溜め──あなたの睡眠時間は毎日バラバラではありませんか?実は、睡眠時間が短すぎても長すぎても、心臓や血管の病気のリスクが高まることが、世界中の研究で分かってきました。今回は、36万人以上のデータを統合した研究を中心に、睡眠と心血管疾患の関係を見ていきましょう。

世界中のデータが示した驚きの事実

2022年、研究チームが睡眠時間と心血管疾患(心臓病や脳卒中など)に関する10の研究を統合し、総計361,041人という膨大なデータを分析しました[1]。対象となったのは、高血圧、心筋梗塞、冠動脈疾患、心不全、心房細動、脳卒中など、命に関わる病気ばかりです。

さらに、2020年には別の研究チームが107万人以上のデータを分析し、睡眠と高血圧の関係を調べています[2]。短時間睡眠(6時間未満)の人は約1.14倍、長時間睡眠(9時間以上)の人は約1.16倍、高血圧のリスクが高いことが示されました。これらの大規模研究が共通して示したのは、「睡眠時間が短すぎる人も長すぎる人も、心血管疾患のリスクが高い」という事実でした。

睡眠不足で血圧が上がる仕組み

睡眠時間が6時間未満の人では、驚くべき結果が出ています。高血圧を持つ人の割合が46.12%──つまり、約2人に1人が高血圧になっているのです[1]。さらに、心血管イベント(心房細動、心筋梗塞、脳卒中など)のリスクも、7〜8時間睡眠の人と比べて7.18%と明らかに高くなっていました。

では、なぜ睡眠不足で血圧が上がるのでしょうか?

  1. 交感神経が興奮状態に
    睡眠不足になると、体の「戦闘モード」を司る交感神経が過剰に働きます[3]。これにより心臓がドキドキし、血管が収縮して血圧が上昇します。実験では、たった1晩の睡眠不足でも血圧が上がることが確認されています。
  2. ストレスホルモンが増える
    睡眠不足はストレス状態です。体はコルチゾールというストレスホルモンを多く分泌し、これが血管を傷つけ、炎症を起こします[3]。血管が硬くなり、血圧がさらに上がるという悪循環に陥ります。
  3. 塩分が欲しくなる
    睡眠不足の人は、なぜか塩辛いスナック菓子が食べたくなることが研究で示されています[3]。塩分の取りすぎは高血圧の原因になります。さらに、腎臓の塩分排出機能も低下するため、体に塩分がたまりやすくなります。
  4. 夜間の血圧が下がらない
    健康な人は、夜寝ている間に血圧が10〜20%下がります(これを「ディッピング」と呼びます)。しかし、睡眠不足の人は夜間も血圧が下がりにくく、心臓や血管が24時間ずっと高い圧力にさらされることになります[2]。これは心臓病のリスクを高める重要な要因です。

寝すぎも要注意:U字型の関係

意外なことに、睡眠時間が9時間以上と長すぎる場合にもリスクがありました。長時間睡眠グループでは、高血圧30.71%、冠動脈疾患6.55%、心不全1.11%と、こちらもリスク増加が見られました[1]。

これは「U字型の関係」と呼ばれるパターンです。グラフにすると、睡眠時間が短すぎても長すぎても病気のリスクが高く、真ん中の7〜8時間で最も低くなる、アルファベットの「U」の形になります。

長時間睡眠がなぜ良くないのかは、まだ完全には分かっていません。しかし、9時間以上眠らないと疲れが取れない状態自体が、何らかの健康問題のサインかもしれません。また、長く寝すぎると運動不足になり、代謝が低下することも指摘されています。

中学生・高校生も無関係ではない

「心臓病なんて大人の話でしょ?」と思うかもしれません。しかし、若いうちからの睡眠習慣が、将来の健康を左右します。

実際、睡眠不足の中高生では、すでに血圧が高めになっていることが報告されています[4]。夜遅くまでスマホを見る、塾や部活で忙しくて睡眠時間が短いといった生活を続けていると、知らないうちに体にダメージが蓄積されていきます。

特に思春期は、体の成長にたくさんの睡眠が必要な時期です。アメリカ睡眠財団は、中高生には8〜10時間の睡眠を推奨しています[5]。「テスト前だから」「レポートがあるから」と徹夜を繰り返していると、将来の心血管疾患リスクを高めてしまうかもしれません。

今日からできること

心臓と血管を守るために、今日からできることがあります。

  1. 年齢に応じた睡眠時間を確保する
  • 成人(18〜64歳):7〜8時間を目標に
  • 中高生(14〜17歳):8〜10時間を確保
  • 高齢者(65歳以上):6時間程度でもOK
    この範囲が最も心血管疾患リスクが低いとされています。週末だけでなく、平日も同じ睡眠時間を確保しましょう。
  1. 毎日同じ時刻に寝て起きる
    「平日5時間、週末12時間」のような生活は、体のリズムを乱します。毎日のリズムを一定に保つことが、血圧の安定につながります。
  2. 寝る前のスマホは控える
    スマホのブルーライトは、眠りを促すメラトニンというホルモンの分泌を妨げます。寝る前はスマホを置いて、読書や音楽でリラックスしましょう。
  3. 日中の過度な眠気に注意
    十分寝ているはずなのに日中とても眠い場合、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害の可能性があります。気になる場合は、睡眠外来で相談してみてください。

まとめ:「ちょうど良い睡眠」が心臓を守る

36万人以上のデータが示したのは、睡眠時間が短すぎても長すぎても心血管疾患のリスクが高まるということです。適切な睡眠時間(成人で7〜8時間、中高生で8〜10時間、高齢者で6時間程度)を保つことは、健康的な食事や適度な運動と同じくらい重要です。

心臓病や脳卒中は、ある日突然起こるのではありません。若いうちからの生活習慣の積み重ねが、将来の健康を決めます。今夜から、「ちょうど良い睡眠」を意識してみませんか?あなたの心臓は、質の良い睡眠を待っています。

引用文献

[1] Laksono S, Yanni M, Iqbal M, Prawara AS. Abnormal Sleep Duration as Predictor for Cardiovascular Diseases: A Systematic Review of Prospective Studies. Cardiol Res Pract. 2022;2022:9969107.

[2] Han B, Chen WZ, Li YC, Chen J, Zeng ZQ. Sleep and hypertension. Sleep Breath. 2020;24(1):351-356.

[3] Gangwisch JE. A review of evidence for the link between sleep duration and hypertension. Am J Hypertens. 2014;27(10):1235-1242.

[4] Javaheri S, Storfer-Isser A, Rosen CL, Redline S. Sleep quality and elevated blood pressure in adolescents. Circulation. 2008;118(10):1034-1040.

[5] Hirshkowitz M, Whiton K, Albert SM, et al. National Sleep Foundation’s sleep time duration recommendations: methodology and results summary. Sleep Health. 2015;1(1):40-43.