睡眠時間を増やすと運動パフォーマンスはどう変わる?― 睡眠が運動能力に与える影響を研究結果から読み解く

日常的に運動やトレーニングを行っている方の中には、「しっかり練習しているのに成果が出にくい」「疲れが抜けず、思うように体が動かない」と感じた経験がある方も多いのではないでしょうか。

こうした悩みの背景として、慢性的な睡眠不足が関係している可能性が指摘されています。

これまでの睡眠研究では、睡眠時間が不足すると集中力の低下、反応の遅れ、気分の悪化などが起こりやすいことが示されてきました。一方で、「睡眠時間を意識的に増やすことで、心身の状態がどのように変化するのか」を数週間にわたって詳しく調べた研究は、実はそこまで多くありません。

特に運動パフォーマンスとの関係については、睡眠不足による悪影響は知られているものの、睡眠を十分に確保した場合の変化については、十分に検討されてこなかったのが実情です。こうした背景から、「睡眠時間を増やすこと」が運動能力や日中の状態にどのような影響を与えるのかが注目されています。


睡眠時間を意識的に増やすと、何が変わったのか?―研究の概要

今回紹介する研究では、アメリカの大学バスケットボール選手を対象に、通常の生活を送っている期間と、意識的に睡眠時間を増やす期間を設け、それぞれの状態を比較しています[1]。

対象となったのは、健康な男子大学生バスケットボール選手11名です。まず2~4週間は普段どおりの生活を送り、その後5~7週間にわたって「可能な限り睡眠時間を確保する」期間が設定されました。この睡眠延長期間では、毎晩10時間ベッドに入ることを目標とし、夜間睡眠に加えて日中の仮眠も認められていました。

睡眠時間は、活動量計(アクチグラフ)と睡眠日誌を用いて客観的・主観的に記録されました

その結果、睡眠延長期間には、1日あたり平均で約1時間半前後、実際の睡眠時間が増加していたことが確認されています。

短期間の「寝だめ」ではなく、数週間にわたり継続的に睡眠時間を確保するという点が、この研究の大きな特徴です。


スピードや正確さに見られた変化―運動パフォーマンスの指標から

睡眠時間の変化に伴い、運動パフォーマンスがどのように変わったのかを評価するため、研究ではバスケットボールに特化した複数の指標が用いられました。

具体的には、以下のような項目が測定されています。

  • 全力疾走によるスプリントタイム(距離:282フィート=約86メートル)
  • フリースローの成功率
  • 3ポイントシュートの成功率

その結果、睡眠延長期間の終了時点では、スプリントタイムが短縮し、シュートの成功率が高くなる傾向が示されました[1]。

たとえば、スプリントでは86メートル走で平均で0.7秒程度の短縮がみられ、シュート成功率も一定の改善が認められています。

図1 睡眠延長期間におけるスプリントタイムの推移

[1]より引用。日本語の注釈は筆者が挿入したもの。

横軸は睡眠延長の日数、縦軸はスプリントタイムの変化量(秒)です。縦軸がマイナスになるほど、走るのにかかる時間が短くなった、つまりスピードが向上していることを意味します。

図からは、睡眠延長が進むにつれて、スプリントタイムが全体として短縮する方向に推移している様子が読み取れます。日ごとのばらつきはありますが、平均値では徐々に速くなる傾向が示されています。


反応時間・眠気・気分の変化から考える「睡眠不足」の影響

この研究では、運動パフォーマンスだけでなく、反応時間や日中の眠気、気分の変化についても評価が行われました。

反応時間は、心理運動覚醒課題(PVT)と呼ばれるテストを用いて測定されています。このテストは、刺激に対してどれだけ素早く反応できるかを評価するもので、集中力や覚醒度の指標として広く用いられています。

睡眠延長期間後には、平均反応時間が短縮し、反応の遅れが少なくなる傾向が認められました[1]。また、500ミリ秒以上の反応遅延(いわゆる「反応の抜け」)の回数も減少しています。

図2 睡眠延長期間における反応時間の推移

[1]より引用。日本語の注釈は筆者が挿入したもの。

横軸は睡眠延長を始めてからの日数、縦軸は反応時間の変化量(ミリ秒)を表しています。縦軸がマイナスの方向にあるほど、反応が速くなっていることを意味します。折れ線は平均値、周囲の幅はばらつき(標準偏差)を示しています。

この図を見ると、睡眠延長が進むにつれて、反応時間が徐々に短縮する傾向がみられます。日ごとの変動はあるものの、全体としては反応の遅れが少なくなっていく方向に推移していることがわかります。

さらに、日中の眠気はエプワース眠気尺度(ESS)を用いて評価され、睡眠延長後には眠気の程度が低下していたことが示されています。加えて、気分状態を評価する質問票では、疲労感の低下や活力の向上といった変化も報告されています。

これらの結果から、睡眠時間を十分に確保することは、運動そのものだけでなく、集中力や疲れにくさといった日中のコンディションにも関係する可能性が考えられます。


この研究結果をどう受け取るべきか

今回の研究は「多くの人が自覚していない慢性的な睡眠不足」が、運動能力や日中の状態に影響している可能性を考えるうえで、重要な示唆を与えています。実際、研究に参加した選手たち自身も、「自分に必要な睡眠時間を過小評価していた可能性がある」と感じていたことが報告されています[1]。

一般の方にとっても、「運動や活動量を増やす前に、まず睡眠時間を見直してみる」という視点は、体調管理の1つのポイントになるかもしれません。十分な睡眠を確保しても疲れが取れない、眠気や集中力低下が続くといった場合には、睡眠の質や睡眠障害の有無を含めて、専門医に相談することも選択肢の一つです。


参考文献

[1]Mah CD, Mah KE, Kezirian EJ, Dement WC. The effects of sleep extension on the athletic performance of collegiate basketball players. Sleep. 2011 Jul 1;34(7):943-50. doi: 10.5665/SLEEP.1132. PMID: 21731144; PMCID: PMC3119836.