慢性腎臓病(CKD)は世界人口の10~15%が罹患する重大な健康問題です。近年、睡眠時間とCKDリスクとの関連が注目されています。2024年に発表された大規模メタアナリシス[1]では、252万人以上のデータを解析し、睡眠時間とCKD発症リスクとの関係が明らかになりました。本記事では、この最新研究をもとに、睡眠習慣が腎臓の健康にどのような影響を与えるのかを解説します。
Kohらの研究[1]では、7~8時間の睡眠を基準として、それより短い睡眠時間でも長い睡眠時間でもCKD発症リスクが上昇することが示されました。
| 睡眠時間カテゴリー | 睡眠時間(時間) | リスク比(RR) | 解釈 |
| 極端に短い | ≤4 | 1.41 | 41%リスク上昇 |
| かなり短い | ≤5 | 1.46 | 46%リスク上昇 |
| やや短い | ≤6 | 1.18 | 18%リスク上昇 |
| 基準(適正) | 7-8 | 1 | 基準値 |
| やや長い | ≥8 | 1.15 | 15%リスク上昇 |
| かなり長い | ≥9 | 1.46 | 46%リスク上昇 |
すべてのカテゴリーで統計的に有意な関連が認められました(P < 0.01)。
出典: Koh JH, et al. Clin Kidney J. 2024;17(8):sfae177 (42研究、260万人以上のメタアナリシス)
ただし、長時間睡眠とCKDリスクの関連については、因果関係の方向性に注意が必要です。「長く寝るからCKDになる」というよりも、何らかの基礎疾患があることで睡眠時間が延びている可能性があります。健康な人は必要な睡眠時間を確保すれば自然に目が覚めますが、炎症性疾患や慢性疾患を抱えている場合、病的に睡眠時間が延長することが知られています。
睡眠不足は交感神経系を過剰に活性化させます[2]。交感神経の活性化は血圧上昇を引き起こし、腎臓への血流を低下させることで、腎機能障害の発症と進行に関与することが知られています。
睡眠不足は、血圧や体液バランスを調節するRAASに影響を与えます[2]。RAASの過剰な活性化は腎臓の線維化を促進し、CKDの進行につながります。
短時間睡眠は全身性の炎症状態を引き起こします[4]。メタアナリシスでは、睡眠不足により炎症マーカー(CRP、IL-6など)が上昇することが示されています。この慢性炎症が糸球体内皮細胞の機能障害を引き起こし、腎機能低下につながると考えられています。
睡眠不足は体内の酸化ストレスを増大させます。酸化ストレスは腎臓組織に直接的なダメージを与え、CKDの発症・進行を促進します。
Boらの台湾コホート研究[4]では、約19万人を平均5.6年追跡し、睡眠時間と睡眠の質の両方がCKD発症に影響することを示しました。この研究では、4時間未満の睡眠でハザード比1.45(95%CI: 1.22-1.71)、4~6時間でハザード比1.07(95%CI: 1.02-1.14)、8時間以上でハザード比1.12(95%CI: 1.04-1.21)と、睡眠時間がCKDリスクに関連することが確認されています。
さらに興味深いことに、この研究は睡眠の「質」も重要であることを明らかにしました。入眠しても目が覚めやすい人(ハザード比1.13)、入眠困難がある人(ハザード比1.14)、睡眠薬・鎮静剤を使用している人(ハザード比1.14)は、いずれもCKD発症リスクが高いことが示されています。つまり、「何時間寝たか」だけでなく「よく眠れているか」も腎臓の健康にとって重要なのです。
今回のメタアナリシスでは7~8時間の睡眠でCKDリスクが最も低いことが示されました。しかし、必要な睡眠時間には個人差と年齢差があります。
年齢によって必要な睡眠時間は大きく異なります。National Sleep Foundationの推奨[5]によれば、青年期(18~25歳)および成人期(26~64歳)は7~9時間、高齢者(65歳以上)は7~8時間が推奨されています。また、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」[6]では、成人は最低でも6時間以上、小学生は9~12時間、中高生は8~10時間の睡眠時間が必要とされています。逆に、高齢者では寝すぎに注意するよう呼びかけています。具体的には床上時間(寝床にいる時間)が8時間以上にならないように推奨しています。
ただし、同じ年代でも個人差は大きく、推奨時間の前後2時間程度の幅で分布することが知られています[5]。日中の眠気や疲労感がなく、すっきりと目覚められることが、その人にとって適切な睡眠時間が確保できているかどうかの重要な目安になります。
慢性的な不眠や日中の強い眠気がある場合は、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害の可能性があります。適切な診断と治療を受けることが重要です。
特に、異常に長い睡眠時間(例:毎日9時間以上)が続く場合は、背景に何らかの健康問題が隠れている可能性があります。定期的な健康診断で腎機能(血清クレアチニン、eGFR、尿検査)をチェックしましょう。

大規模研究により、睡眠時間とCKDリスクにはU字型の関係があることが明らかになりました。特に睡眠不足は、交感神経系の活性化、RAAS異常、炎症反応、酸化ストレスなど複数のメカニズムを通じて腎臓にダメージを与えます。
質の良い睡眠を7~8時間確保することは、腎臓の健康を守るために重要です。睡眠習慣の改善は、CKD予防の実践的で効果的なアプローチとなる可能性があります。
[1] Koh JH, et al. Sleep duration and risk of chronic kidney disease: A systematic review and meta-analysis of cohort studies. Clin Kidney J. 2024;17(8):sfae177.
[2] Turek NF, Ricardo AC, Lash JP. Sleep disturbances as nontraditional risk factors for development and progression of CKD: review of the evidence. Am J Kidney Dis. 2012;60(5):823-833.
[3] Bo Y, et al. Sleep and the risk of chronic kidney disease: a cohort study. J Clin Sleep Med. 2019;15(3):393-400.
[4] Irwin MR, et al. Sleep disturbance, sleep duration, and inflammation: a systematic review and meta-analysis of cohort studies and experimental sleep deprivation. Biol Psychiatry. 2016;80(1):40-52.
[5] Hirshkowitz M, et al. National Sleep Foundation’s sleep time duration recommendations: methodology and results summary. Sleep Health. 2015;1(1):40-43.
[6] 厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド2023. 2024年2月. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html