こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。
「最近、物忘れが増えた気がする…」
「家族や自分の将来を考えると、認知症が心配…」
年齢を重ねるにつれて、このような不安を感じる方は少なくないでしょう。日本の高齢化が進む中、認知症は誰にとっても身近な問題です。
実は、その不安、毎日の「睡眠」と深く関係しているかもしれません。
これまで「認知症になると睡眠障害が起こりやすくなる」と考えられてきましたが、近年の研究では「睡眠の問題が、将来の認知症の発症リスクを高める」という逆の関係性も明らかになってきました [1, 3] 。
今回は、睡眠と認知症に関する大規模な研究論文を基に、私たちの未来の健康を守るために「睡眠」がいかに重要であるかを、分かりやすく解説していきます。

2017年に学術雑誌『Sleep』で発表された、約7万人を対象とした27の研究を統合・分析した論文によると、驚くべき事実が明らかになりました [1] 。
それは、何らかの睡眠の問題を抱えている人は、そうでない人と比べて、認知機能の低下やアルツハイマー病を発症するリスクが平均で1.68倍も高いということです。
もう少し詳しく見ると、以下のようになります。
さらに、この研究では「もし睡眠の問題を社会全体で解決できれば、アルツハイマー病の約15%は予防できる可能性がある」とも結論付けています。
これは、質の良い睡眠を確保することが、認知症の有効な予防策になり得ることを強く示唆しています。

「睡眠の問題」と一言で言っても、様々な種類があります。同論文では、どの睡眠の問題が特に認知症のリスクを高めるのかも分析しています [1] 。
以下のグラフは、睡眠の問題の種類別に、認知機能低下やアルツハイマー病のリスクがどれだけ高まるかを示したものです。
睡眠の問題の種類別リスク倍率
| 閉塞性睡眠時無呼吸 | 2.37倍 |
| 睡眠時間(長すぎ/短すぎ) | 1.86倍 |
| 睡眠の質(寝つきが悪い等) | 1.62倍 |
| 不眠症 | 1.38倍 |
| 概日リズム異常 | 1.38倍 |
出典: Bubu, O. M., et al. (2017). Sleep, 40(1), zsw032. を基に作成 [1]
このグラフから、「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)」のリスクが2.37倍と、突出して高いことが分かります [1] 。
睡眠時無呼吸は、寝ている間に何度も呼吸が止まったり浅くなったりする病気で、大きないびきや日中の強い眠気を伴うことが特徴です。
呼吸が止まると、脳への酸素供給が不足する「低酸素状態」になります。この低酸素状態が、認知症の原因物質とされるアミロイドβの産生を促してしまう可能性が指摘されています [1, 4] 。
次いでリスクが高いのは、睡眠時間が長すぎたり短すぎたりする「睡眠時間(量)」の問題です。一般的に睡眠不足が体に悪いことは知られていますが、この研究では、7~8時間の睡眠を基準とした場合、7時間未満の短時間睡眠の人よりも、8時間を超える長時間睡眠の人のほうが、認知症のリスクがより高いという傾向が見られました [1] 。長すぎる睡眠は、うつ病や他の疾患のサインである可能性も考えられるため、注意が必要です。
寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、ぐっすり眠れた気がしない、といった「睡眠の質」の低下も、リスクを1.62倍に高めます [1] 。特に、総睡眠時間に対する実際の睡眠時間の割合を示す「睡眠効率」の低下は、認知症リスクと強く関連することが示されています。いくら長く寝床にいても、途中で何度も目が覚めていては、睡眠の質は低いままなのです。
また、興味深いことに、この研究では「自己申告による睡眠の問題」よりも、睡眠計(アクチグラフ)などを用いた「客観的な測定による睡眠の問題」の方が、より高いリスク(1.80倍 vs 1.49倍)を示しました [1] 。これは、ご自身が感じている以上に睡眠状態が悪化している可能性があることを意味しています。
では、なぜ質の良い睡眠をとることが認知症予防につながるのでしょうか。
私たちの脳は、日中の活動でたくさんの「ゴミ(老廃物)」を溜め込んでいます。認知症(アルツハイマー病)の原因の一つと考えられている「アミロイドβ」も、この老廃物の一種です [3] 。
近年の研究で、脳にはこの老廃物を洗い流して掃除する「グリンパティックシステム」という特別な仕組みがあることが分かってきました [5] 。そして、このお掃除システムは、私たちが深く眠っている間に最も活発に働くのです [5, 6] 。
つまり、睡眠不足が続いたり、睡眠時無呼吸などで睡眠の質が低下したりすると、脳のお掃除が十分に行われず、アミロイドβなどの有害な老廃物が脳内に蓄積しやすくなります。この蓄積が、将来の認知症発症につながるのではないかと考えられているのです [1, 3] 。

今回のコラムでは、最新の研究論文を基に、睡眠の問題が認知症のリスクを著しく高めることを解説しました。
「たかが睡眠」と軽視せず、毎日の睡眠を大切にすることが、10年後、20年後のあなたの脳の健康を守るための、最も身近で効果的な投資と言えるでしょう。
もし、「大きないびきを指摘される」「日中、眠くて仕方がない」「しっかり寝ても疲れが取れない」といった症状に心当たりがある方は、認知症のリスクを高める睡眠時無呼吸症候群などが隠れている可能性があります。
当クリニックでは、睡眠に関する専門的な検査や治療を行っております。一人で悩まず、ぜひお気軽にご相談ください。
[1] Bubu, O. M., Brannick, M., Mortimer, J., Umasabor-Bubu, O., Sebastião, Y. V., Wen, Y., … & Anderson, W. M. (2017). Sleep, cognitive impairment, and Alzheimer’s disease: a systematic review and meta-analysis. Sleep, 40(1), zsw032.
[2] 内閣府. (2023). 令和5年版高齢社会白書 第1章 高齢化の状況.
[3] 認知機能と睡眠障害の関連|J-STAGE
[4] 睡眠時無呼吸症候群|慶應義塾大学病院 KOMPAS
[5] Reddy, O. C., & van der Werf, Y. D. (2020). The sleeping brain: harnessing the power of the glymphatic system through lifestyle choices. Brain sciences, 10(11), 868.
[6] 第36回 脳内の老廃物排除の仕組み:グリンパティックシステム|日本脳科学連合