筋トレと睡眠── 睡眠不足はトレーニング成果にどう関係するのか

筋トレと睡眠をどう考えるか

筋力トレーニングの成果は、トレーニングそのものだけで決まるわけではなく、その後の体の状態とも関係していると考えられています。トレーニングを継続していても、思うように成果を実感しにくいと感じる背景には、トレーニング量や栄養だけでなく、睡眠の状態も一因として関係している可能性があります。

近年、睡眠時間が短い状態や、一晩まったく眠らない状況が、筋肉を維持・修復する過程や、運動時に発揮されるパフォーマンスと関係している可能性が研究で示されています。

このコラムでは、睡眠と筋肉の反応、運動パフォーマンスの関係を、研究データをもとに整理します。

一晩まったく眠らない状態が、筋肉のたんぱく質合成に与える影響

まず、通常睡眠条件(CON)と一晩まったく眠らない条件(DEP)を比較したデータをもとに、睡眠の状態が、筋肉の中で起こる反応とどう関係しているのかを見ていきます。

対象と比較の方法

対象となったのは、健康な若年男女13人(男性7人、女性6人)です。
同じ参加者が、

  • 通常どおり約8時間の睡眠をとった条件(CON)
  • 一晩まったく眠らない条件(DEP)

の両方の条件で過ごし、比較が行われました。

このように、同一人物内で条件を比べる方法がとられており、個人差の影響ができるだけ小さくなるよう工夫されています。

何を調べたのか

比較されたのは、食後に筋肉の中でどれだけ新しくたんぱく質が合成されているかです。

これは「骨格筋タンパク質合成」と呼ばれ、筋肉の中で新しいたんぱく質が作られる過程を反映する指標として用いられています。

結果──睡眠条件の違いによる変化

その結果、一晩まったく眠らない条件(DEP)では、通常睡眠条件(CON)と比べて、食後の骨格筋タンパク質合成率が有意に低下していました。低下の程度は、参加者全体で約18%でした。

図を見ると、男性参加者では全員で低下がみられた一方、女性参加者では低下した人と上昇した人が混在していることが分かります。ただし、この研究は男女差を検討する目的で設計されたものではなく、性別による違いについて結論づけることはできないとされています。参加者全体でみると、睡眠条件の違いによって骨格筋タンパク質合成が低下したことがわかります。

この結果の位置づけ

ここで示されているのは、筋肥大や筋力の増加そのものではありません。評価されているのは、あくまで短期的に起こる筋肉内の反応です。そのため、この結果から、長期的に筋肉量が減る、あるいは筋トレの成果が出なくなるといった結論を直接導くことはできません。

一方で、このデータは、一晩まったく眠らない状態では、筋肉が成長しづらくなる可能性を示しています。これは、筋トレの成果が積み上がっていく過程を考えるうえで、背景となる体の状態を理解する手がかりになります。

睡眠不足は翌日の運動パフォーマンスにどう影響するのか

次に、一時的な睡眠不足が翌日の運動パフォーマンスに与える影響について見ていきます。これまでの研究をまとめて分析した論文では、睡眠不足後の運動パフォーマンスは、通常の睡眠が確保された条件と比べて、複数の運動種目をまとめて評価すると、低下する傾向があることが示されています[2]。

この影響は、特定の運動種目に限られたものではありません。筋力、瞬間的に力を発揮する能力(パワー)、高強度インターバル運動(短時間の高負荷運動と休憩を繰り返す運動)、持久系の運動、さらには技術的な正確さや判断を必要とする運動など、さまざまな運動カテゴリーにおいて、通常睡眠時と比べて、睡眠不足後にパフォーマンスの低下が観察されています。[2]。

睡眠不足のパターンによる違い

この分析では、どのように睡眠時間が削られたかにも着目しています。その結果、一晩まったく眠らない場合や、早く起きる必要があり睡眠時間が短くなった場合には、運動パフォーマンスの低下が一貫してみられました。一方で、寝る時間が遅くなったことで睡眠時間が短くなった場合には、影響が比較的小さいことも報告されています[2]。

起床から運動までの経過時間との関係

この分析では、起床してから運動を行うまでにどれだけの時間が経過しているかという点も検討されています。

分析の結果、睡眠不足がある条件では、起床から運動を行うまでの時間が1時間長くなるごとに、運動パフォーマンスは平均して約0.4%低下するという関係が示されました[2]。たとえば、睡眠不足の条件下で早朝に起床し、約12時間後に運動を行った場合には、より早い時間帯に運動した場合と比べて、約5%のパフォーマンス低下が生じる可能性があると示されています[2]。

この関係を、24時間以上の断眠などを含む複数研究のデータを統合して視覚的に示したものが、次の図です。

運動を行う時間帯との関係

運動を行う時間帯も、影響の大きさに関係していました。

睡眠不足の影響は、午後や夕方に行われる運動で一貫して大きく、一方で、朝に行われる運動では影響が比較的小さい傾向が示されています[2]。

これは、体内時計による一日のリズムよりも、起床から運動までに経過した時間の長さが、パフォーマンス低下に強く関係している可能性を示しています。

筋トレを続けている人にとっての意味

これらの結果は、睡眠不足が筋トレの効果そのものを直接左右することを示しているわけではありません。しかし、トレーニング時に発揮できる力や集中力、運動パフォーマンスが低下しやすくなり、「思うように成果を実感しにくい」と感じる背景になる可能性があります。

まとめ:筋トレの成果を支える土台としての睡眠

筋トレの成果は、トレーニング刺激そのものだけでなく、その後に体の中で起こる回復の過程や、トレーニング時に発揮できるパフォーマンスの積み重ねによって形づくられます。これまでに紹介した研究からは、睡眠が不足した状態では、筋肉内の反応や翌日の運動パフォーマンスが変化しうることが示されています[1,2]。

筋トレの成果を振り返る際、トレーニング内容や栄養だけでなく、睡眠という土台にも目を向けることも、一つの手がかりになるかもしれません。

参考文献

[1] Lamon S, et al. The effect of acute sleep deprivation on skeletal muscle protein synthesis and the hormonal environment. Physiol Rep. 2021. 9(1):e14660. PMID:33400856 ; PMCID: PMC7785053.

[2] Craven J, et al. Effects of Acute Sleep Loss on Physical Performance: A Systematic and Meta-Analytical Review. Sports Med.  2022. 52(11):2669–2690. PMID: 35708888 ; PMCID: PMC9584849.