「ビタミンDが睡眠に関係する」と聞くと、サプリメントを飲めば眠れるようになるのでは、と考える方もいるかもしれません。しかし、現時点の研究からは、ビタミンDだけで不眠や睡眠時無呼吸症候群が改善すると断定することはできません。
一方で、ビタミンD値が低い人では、不眠の重症度や睡眠時無呼吸症候群との関連が報告されています。
ここで大切なのは、ビタミンDそのものだけではなく、ビタミンDが保たれやすい生活習慣です。日中に光を浴びる、体を動かす、食事を整える、体重を管理する――こうした生活は、睡眠のリズムや睡眠の質にも関係している可能性があるのです。
この記事では、ビタミンDと睡眠に関する研究をもとに、そこから見えてくる「睡眠を整える生活習慣」について睡眠専門クリニックの視点からわかりやすく解説します。
ビタミンDは、骨やカルシウム代謝に関わる栄養素としてよく知られています。近年は、それだけでなく、睡眠や心身の健康との関連も研究されています。ただし、ここで最初に確認しておきたいのは、「関連がある」ことと「原因である」ことは別だという点です。
Singhらは、成人484人を対象に、血清25(OH)D値、健康関連QOLを評価するSF-36、不眠の重症度を評価するInsomnia Severity Index(ISI)を用いて、ビタミンD値と心身の健康、睡眠の関連を調べました。その結果、ビタミンD値が高い人ほど、身体機能、全体的健康感、身体的健康スコアが高く、ISIスコアは低い傾向が示されました[1]。
これは、「ビタミンD値が高い人ほど、不眠症状が軽い傾向があった」と読むことができます。しかし、「ビタミンD不足が不眠を引き起こした」「ビタミンDを補えば眠れるようになる」とは言えません。なぜならこの研究は横断研究であり、ある時点でのビタミンD値と睡眠状態を比較したものだからです。
たとえば、よく眠れている人は日中の活動量が多く、外出の機会が多く、食事も整っているかもしれません。その結果としてビタミンD値が高い可能性もあります(後述しますが、ビタミンDは日光を浴びることで生成されます)。逆に、睡眠が悪い人は日中の活動量が落ち、外に出る時間が減り、生活リズムや食事が乱れやすくなっている可能性もあります。つまり、ビタミンD値は「単独の原因」というより、その人の生活全体を映す指標の一つとして見る方が自然です。

ビタミンDは「サンシャインビタミン」と呼ばれることがあります。ビタミンDは日光を浴びる習慣、屋外で過ごす時間、食事、体格、地域差など、さまざまな生活背景と関係しやすい栄養素です。
睡眠を考えるうえで大切なのは、「ビタミンDを高めればよい」という単純な話ではありません。むしろ、ビタミンDが保たれやすい生活を送れているかどうかが重要です。
たとえば、朝から日中にかけて光を浴びる習慣は、生活リズムを整えるうえで役立つでしょう。また、日中に体を動かすことは、夜の眠気の形成や体重管理にも関係します。さらに食事が偏っていれば、ビタミンDだけでなく、睡眠や疲労感に関わる他の栄養状態も乱れやすくなります。過体重がある場合には、睡眠時無呼吸症候群のリスクも考える必要があるでしょう。
つまり、ビタミンDは「飲めば眠れる成分」というより、「日光・活動量・食事・体重管理といった生活習慣を見直すきっかけ」として捉える方が、医学的にも実践的にも妥当です。
なお、Singhらの研究では、日光曝露は重要な背景因子として扱われていますが、研究の限界として、日光曝露を直接測定していない点も述べられています[1]。このことからも、「ビタミンD値だけ」を過大評価するのではなく、実際の生活習慣を丁寧に確認することが必要です。
ビタミンDと睡眠を考える際に、不眠だけでなく睡眠時無呼吸症候群にも注意が必要です。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に上気道が狭くなったり塞がったりすることで、呼吸が浅くなる、または一時的に止まる病気です。大きないびき、無呼吸の指摘、日中の強い眠気、起床時の頭痛、熟睡感のなさなどがみられることがあります。放置すると、血圧、心血管疾患、代謝異常などにも関係する可能性があるため、ただの「いびき」として軽視するべきではありません。
Hungらは、TriNetXという大規模な医療データベースを用いて、ビタミンD欠乏と新規の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)リスクとの関連を調べました[2]。この研究では、ビタミンD欠乏を25(OH)D値20ng/mL以下、ビタミンD充足を30ng/mL以上と定義し、3〜12か月以内の再測定で状態を確認したうえで、傾向スコアマッチング後に各群126,563人を比較しています。
結果として、5年間の追跡でOSAの発症は、ビタミンD欠乏群で5.7%、対照群で4.4%でした。ハザード比は1.26で、ビタミンD欠乏群の方がOSAリスクが高いことが示されました。また、重度のビタミンD欠乏ではハザード比1.39と、より高いリスクが示されています[2]。
ただし、ここでも重要なのは、ビタミンDだけを原因と考えないことです。Hungらの研究では、ビタミンD欠乏とOSAの関連は、過体重・肥満の人で強く、正常体重の人では明確ではありませんでした[2]。これは非常に重要なポイントです。ビタミンD不足そのものよりも、体重、代謝、炎症、活動量、食事、生活リズムなどが重なり合って、睡眠時無呼吸症候群のリスクに関係している可能性があるからです。
実際、同研究の多変量解析では、肥満はOSAの強いリスク因子として示されています[2]。つまり、睡眠時無呼吸症候群を考えるうえでは、「ビタミンDを補うかどうか」だけでは不十分です。体重管理、運動習慣、飲酒、睡眠姿勢、鼻づまり、顎や気道の形態、基礎疾患なども含めて総合的に評価する必要があります。
ビタミンDと睡眠の関係を考えるとき、まず見直したいのはサプリメントではなく、毎日の生活です。もちろん、血液検査で明らかなビタミンD欠乏があり、医師が必要と判断した場合には、補充療法が検討されることもあります。しかし、自己判断でサプリメントを増やす前に、生活全体を見直すことが大切です。
まず意識したいのは、朝から日中にかけて光を浴びることです。朝の光は、生活リズムを整える手がかりになります。起床後も暗い部屋で過ごし、日中も屋内中心、夜は強い光を浴び続ける生活では、睡眠のリズムが乱れやすくなります。日中に外へ出る時間を少しでも確保することは、ビタミンD状態だけでなく、睡眠リズムを整える面でも意味があります。
次に、日中の活動量です。睡眠は、夜だけで作られるものではありません。日中にどれだけ活動したか、どの程度体を使ったか、昼夜のメリハリがあるかが、夜の眠りに関係します。疲れすぎるほど運動する必要はありませんが、座りっぱなしの時間が長い方は、短い散歩や階段の利用などから始めるとよいでしょう。屋外での活動が増えれば、結果として日光を浴びる時間も増えやすくなります。
食事も重要です。ビタミンDだけに注目するのではなく、たんぱく質、魚、卵、乳製品などを含め、全体として偏りの少ない食事を意識することが大切です。
そして、睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合には、体重管理も避けて通れません。Hungらの研究で、ビタミンD欠乏とOSAリスクの関連が過体重・肥満の人で強く示されたことは、生活習慣全体を見直す必要性を示しています[2]。体重を急激に落とす必要はありませんが、飲酒量、夜食、運動不足、睡眠不足による食欲増加など、体重増加につながる習慣を一つずつ確認することが現実的です。
ビタミンD不足が気になるとき、自己判断でサプリメントを飲み始める方もいます。
しかし、睡眠の問題がある場合、本当に確認すべきなのは「なぜ眠れないのか」「なぜ熟睡感がないのか」です。
寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、早朝に目が覚めてしまう、日中の眠気が強いといった症状が続く場合、不眠症だけでなく、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、概日リズム睡眠・覚醒障害、うつ状態、不安、薬剤の影響などが隠れていることがあります。
特に、大きないびき、睡眠中の無呼吸の指摘、朝の頭痛、日中の強い眠気、血圧が高い、体重が増えてきた、夜間頻尿がある、といった場合には、睡眠時無呼吸症候群の評価が必要になることがあります。ビタミンD値だけを見て安心したり、サプリメントだけで対応したりするのは適切ではありません。
今回取り上げた2つの研究は、ビタミンDと睡眠の関連を考えるうえで有用です。しかし、どちらの研究も「ビタミンDを補えば睡眠障害が治る」と証明したものではありません。Singhらの研究は横断研究であり、因果関係までは判断できません[1]。Hungらの研究は大規模な後ろ向きコホート研究で、時間的な関係や用量反応関係は示されていますが、観察研究である以上、未知の交絡因子を完全に除くことはできません[2]。
だからこそ、結論はシンプルです。睡眠とビタミンDの関係を考えるときに大切なのは、ビタミンDそのものを特別視しすぎないことです。ビタミンD値は、日光、活動量、食事、体重、健康状態といった生活全体を反映している可能性があります。
睡眠に悩んでいる方は、サプリメントに答えを求める前に、まず生活全体を見直してみてください。そして、いびきや無呼吸、強い眠気、不眠が続く場合には、自己判断せず、睡眠専門医に相談することをおすすめします。
参考文献
[1]Singh AK, Kumar S, Mishra S, Rajotiya S, Debnath S, Raj P, Bareth H, Singh M, Nathiya D, Tomar BS. The effects of vitamin D levels on physical, mental health, and sleep quality in adults: a comprehensive investigation. Front Nutr. 2024 Nov 15;11:1451037. doi: 10.3389/fnut.2024.1451037. PMID: 39619283; PMCID: PMC11604434.
[2]Hung KC, Yu TS, Lai YC, Hsu CW, Yew M, Yu CH, Chen IW. Vitamin D deficiency and subsequent risk of obstructive sleep apnea: a multi-institutional retrospective study. Front Nutr. 2025 Nov 12;12:1651712. doi: 10.3389/fnut.2025.1651712. PMID: 41311801; PMCID: PMC12648596.