「昨日は徹夜だったから、ちょっと記憶があいまいかも…」
そのように感じた経験はありませんか。
睡眠不足が集中力や判断力に影響することはよく知られていますが、近年の研究では、睡眠不足が“記憶の正確さ”にも影響する可能性が報告されています。
ある実験研究では、睡眠時間が短かった人や24時間眠らなかった人は、実際には見ていない出来事を「見た」と答える割合が高くなる傾向が示されました[1]。
特に、出来事を記憶する段階で睡眠不足だった場合に、その影響が強く表れる可能性が示唆されています。
本記事では、睡眠不足と「偽記憶(false memory)」の関係について、科学的研究をもとにわかりやすく解説します。
私たちの記憶は、ビデオのようにそのまま保存されているわけではありません。
出来事を思い出すときには、さまざまな情報を組み合わせて再構成しています。
そのため、あとから与えられた誤った情報に影響を受けることがあります。
たとえば、
このとき、後から読んだ誤情報を「実際に見た」と思い込んでしまうことがあります。
このように、実際には経験していないことを経験したと信じてしまう現象を「偽記憶(false memory)」と呼びます。
では、睡眠不足はこの現象にどのように関わるのでしょうか。
Frendaらの研究[1]では、2つの実験が行われました。
大学生を対象に、前日の睡眠時間を自己申告してもらい、記憶テストを実施しました。
その結果、
5時間以下の睡眠だった群はそれ以上眠った群と比べて実際には存在しないニュース映像を「見た」と回答する割合が高い傾向が示されました(図1)。

ただし、すべての比較が統計的に明確な差を示したわけではなく、「関連が示唆された」という結果です。
次に研究者らは、24時間の完全断眠を行った群と、8時間睡眠をとった群を比較しました(図2)。
さらに重要なのは、「いつ眠れなかったか」を分けて検討した点です。
結果、A条件では、断眠群の偽記憶率が睡眠群より高くなりました。つまり、出来事を最初に記憶する段階で睡眠不足だった場合、後から与えられた誤情報を「実際に見た」と思い込みやすくなる可能性が示されています。
一方、B条件では、断眠群と睡眠群の間に明確な差は認められませんでした。この結果から、少なくともこの研究では、出来事を記憶したあとに睡眠不足になった場合よりも、記憶する時点で睡眠不足だった場合のほうが、偽記憶に関係しやすい可能性が示唆されます。

この研究では、気分や眠気の強さ、ワーキングメモリ能力との関連も検討されました。
しかし、
と偽記憶率との間に明確な関連は認められませんでした。
つまり、単に「眠いから注意力が落ちた」という説明だけでは十分ではない可能性があります。
研究者らは、睡眠不足が出来事を記憶として「符号化(エンコーディング)」する過程を弱める可能性を指摘しています。
正確な記憶の土台が弱くなると、後から与えられた誤情報に影響されやすくなる、というようなメカニズムが考えられます。
この研究結果は、次のような場面でより重要な意味を持ちます。
特に、新しい情報を覚える必要がある場面や後から事実確認が必要になる場面では注意が必要です。
もちろん、この研究は健康な若年成人を対象とした実験であり、すべての状況にそのまま当てはまるわけではありません。
しかし、「徹夜しても覚えているから大丈夫」という感覚が、必ずしも正確とは限らない可能性は考慮すべきでしょう。
本研究[1]では、
が示されました。
睡眠は、単に疲労回復のためだけではなく、正確な記憶を形成するためにも重要な役割を担っていると考えられます。
重要な情報を扱う前日には特に、十分な睡眠を確保することが望ましいでしょう。
参考文献
[1]Frenda SJ, Patihis L, Loftus EF, Lewis HC, Fenn KM. Sleep deprivation and false memories. Psychol Sci. 2014 Sep;25(9):1674-81. doi: 10.1177/0956797614534694. Epub 2014 Jul 16. PMID: 25031301.