学校の始業時刻は早すぎる?──思春期では早起きが負担に

思春期になると、つい夜ふかしをしてしまったり、朝なかなか起きられなかったりすることがあります。朝起きるのがつらいと感じたことがある人も多いかもしれません。

この背景には、体内時計のリズムの変化があります。思春期では、体内時計のリズムが後ろにずれやすく、眠気が訪れる時間が遅くなる傾向があります。この変化は生理的なものであり、生活習慣の見直しや本人の努力で簡単に変えられるものではありません。

就寝時刻が遅くなりやすい一方で、学校の始業時刻に合わせて起床しなければならず、十分な睡眠時間を確保しにくい状況が生じています。

こうした状況に対して、「学校の始業時刻が早すぎるのではないか」という指摘があります。

思春期の睡眠と学校始業時刻に関する提言

米国小児科学会は思春期の睡眠不足を考慮し、中学・高校の始業時刻は8時30分以降とすることが望ましいと提言しています[1]。

では、なぜこのような提言がされているのでしょうか。

思春期に睡眠時間が不足すると、身体的健康や精神的健康、学習面などに悪影響が及ぶことが指摘されています。こうした影響を防ぐためには、必要な睡眠時間の確保が重要とされています。始業時刻が早い場合には、十分な睡眠時間の確保が難しいため、始業時刻の見直しが重要とされています[1]。

始業時刻と睡眠に関する研究

学校の始業時刻と睡眠時間の関係については、複数の研究が行われています。

レビュー論文[2]では、始業時刻が異なる学校同士を比べた研究や、実際に始業時刻を遅らせて変化をみた研究などがまとめられています。

始業時刻の違いと睡眠時間

まず、始業時刻が異なる学校を比べた研究では、始業時刻が遅い学校ほど、生徒の睡眠時間が長い傾向が示されています。これは、起床時刻が遅くなることによる影響が大きく、就寝時刻は大きく変わらないことが多いとされています。

始業時刻を遅らせた場合の変化

また、実際に始業時刻を遅らせた研究でも、平日の睡眠時間が長くなることがほぼ一貫して示されています。30分程度の変更でも睡眠時間が長くなることが確認されており、複数の研究で同様の結果が得られています。

始業時刻を遅らせた場合には、起床時刻が遅くなる傾向が報告されています。一方で、就寝時刻は多くの場合大きく変わらず、結果として睡眠時間が延びると考えられています。

さらに、学校生活への影響としては、出席率の向上、遅刻の減少、授業中の居眠りの減少、気分や学業面の改善などが報告されています。

具体的な研究例

米国シアトルの高校で行われた研究では、アンケートによる自己申告に加え、腕に装着する機器(アクチグラフ)を用いた測定も行われています。始業時刻を7時50分から8時45分に遅らせたところ、生徒の1日の睡眠時間は6時間50分から7時間24分(中央値)に延びたことが報告されています[3]。

図に示すように、学校のある日(A)では、始業時刻の変更後は朝の活動が始まる時間が遅くなっており、起床時刻が遅くなっていることがうかがえます。一方、学校のない日(C)には大きな変化はみられません。また、睡眠時間(B)は始業時刻変更後に長くなっていることが示されています。こうした変化から、始業時刻を遅らせることで睡眠時間が長くなる可能性が考えられます。

これに対して、米国ロードアイランド州の高校生を対象とした研究では、学年が上がる際に始業時刻が8時25分から7時20分に早まったところ、睡眠時間が約20分短くなったことが報告されています。さらに、日中の眠気も増加していました。

このように、始業時刻を遅らせた場合には睡眠時間が延びる一方で、早まった場合には睡眠時間が短くなり、日中の眠気が増す傾向がみられます。

また、イギリスで行われた研究では、ある学校で13~16歳の生徒を対象に、始業時間を2年間、8時50分から10時へと大幅に遅らせてその影響が観察されました。この期間には、病気による欠席が大きく減少し、学業成績が向上していました。さらに、その後1年間、始業時刻を再び8時50分に戻すと、病欠日数は増加し、学業成績も低下する傾向がみられたと報告されています[4]。

図中のyear 0は始業時刻変更前の期間(8時50分始業)、year 1およびyear 2は変更後の期間(10時始業)、year 3は再び8時50分始業に戻した期間を示しています。

始業時刻を10時に変更した期間には、病欠日数(左)は減少し、学業成績(右)は向上しています。一方で、始業時刻を元に戻した後には、病欠日数は増加し、学業成績も低下する傾向がみられています。

この研究では睡眠時間そのものは測定していませんが、始業時刻の変更に伴い、欠席日数や学業成績に変化があることが確認されています。

学校始業時刻をめぐる社会的な動き

海外では、学校の始業時刻を見直す動きがみられます。

米国では、米国睡眠医学会(AASM)や米国小児科学会(AAP)などの専門家団体からの提言を受けて、始業時刻の見直しの必要性に対する認識が高まりつつあります。

州レベルでの制度整備も一部で進められています。たとえばカリフォルニア州では、すべての公立校を対象に、中学校は8時以降、高校は8時30分以降とする制度が導入されています(California Senate Bill No.328)。

また、フロリダ州でも、思春期の睡眠に配慮した開始時刻を定める法律が2023年に成立しており、2026年から施行される予定です。州全体での制度化に加え、学区や自治体単位での始業時刻の見直しが行われています[5]。

こうした動きは米国にとどまらず、他の国や地域でも学校始業時刻の見直しに関する議論が行われ、実際に見直しが進められている地域もあります。

まとめ

思春期では体内時計が夜型にシフトするため、就寝時刻が遅くなりやすく、早い始業時刻に合わせて起きることが負担となる場合があります。そのため、必要な睡眠時間を確保できていないことが指摘されています。

成長期においては、心身の健康を保ち、学業に支障なく取り組むためにも、十分な睡眠時間を確保することが大切です。

今回ご紹介した研究では、学校の始業時刻が遅くなることで、平日の睡眠時間が延びるだけでなく、欠席の減少や学業成績の向上といった変化が報告されています。

思春期特有の体内時計や睡眠の特徴を踏まえ、学校始業時刻の在り方については今後検討が進んでいくことが期待されます。

参考文献

[1] Adolescent Sleep Working Group; Committee on Adolescence; Council on School Health. School Start Times for Adolescents. Pediatrics. 2014;134(3):642–649. PMID: 25156998 ; PMCID: PMC8194457
[2] Wheaton AG, et al. School Start Times, Sleep, Behavioral, Health, and Academic Outcomes: a Review of the Literature. J Sch Health. 2016;86(5):363–381. PMID: 27040474 ; PMCID: PMC4824552
[3] Dunster GP, et al. Sleepmore in Seattle: Later School Start Times Are Associated With More Sleep and Better Performance in High School Students. Science Advances. 2018;4(12):eaau6200. PMID: 30547089 ; PMCID: PMC6291308
[4] Kelly P, et al. Is 8:30 a.m. Still Too Early to Start School? A 10:00 a.m. School Start Time Improves Health and Performance of Students Aged 13–16.   Front Hum Neurosci. 2017;11:588. PMID: 29276481 ; PMCID: PMC5727052.

[5] American Academy of Sleep Medicine. Sleep advocacy in action: Shaping the future of school start times. 2023.