こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。
あなたは「痛みに弱い人」ですか? 実は、痛みへの弱さに睡眠不足が関係しているって知っていましたか?
一晩の徹夜で、「痛みを感じやすくなる」ことが実験で明らかになっています。


研究には、健康な成人25人が参加しました[1]。
同じ人が、「十分に眠った翌日」と「一晩徹夜した翌日」の2回に分けて、腕に温度刺激を与えられ、どの温度から痛みを感じ始めるかが比べられました。
この実験では、腕に当てて温熱刺激を与える装置(熱刺激プローブ)が使われました。
温度はやけどの危険がない範囲に制御されており、金属プレートの温度を少しずつ上げていき、被験者が「痛い」と感じた時点でボタンを押すという方法です。
温度が高くなるほど痛みを感じやすくなるため、どの温度で「痛い」と感じるかが、痛みの感じやすさの指標になります。
測定の結果、睡眠の有無で明確な違いが見られました。
睡眠をとったときは平均43.9℃で痛みを感じ始めたのに対し、徹夜のあとは平均42.5℃と、1.4℃低い温度でも痛いと感じるようになっていました。
多くの参加者で徹夜のあとに痛みを感じ始める温度が下がっており、個人差を超えて一貫した傾向が見られました[1]。

このときの脳の活動を、fMRI(機能的MRI:脳の血流変化をもとに、どの部位が活動しているかを画像で調べる技術)で記録したところ、次のような変化が見られました。
睡眠不足のあとには一次体性感覚野の反応が強まっていました[1]。
一次体性感覚野とは、皮膚などを通して感じ取る触覚や痛み、温度といった感覚を受け取る脳の領域で、感覚情報の処理を担う頭頂葉に位置します[2]。
一方で、線条体や島皮質など、痛みの強さやつらさを感じたり調整したりする領域では、活動が低下していました。また、視床や側坐核などでも低下が報告されています[1]。
視床は痛みなどの信号を大脳皮質(感覚を受け取り判断する脳の表面)へ伝える中継点であり[3]、側坐核はその痛みのつらさを和らげる働きを担います[4]。
これらの働きが弱まることで、痛みの伝達や抑制の調整がうまくいかず、多くの場合、痛みを強く感じやすくなると考えられています[1]。

この研究では、前半の実験とは別の参加者グループとして、18〜68歳の一般の男女60人を対象に、日常生活での睡眠と痛みの関係も解析されました[1]。
参加者は、自宅で数日間にわたり「前夜の睡眠の状態(時間・質)」と「翌日の痛みの感じ方」を日誌に記録しました。また、アクチグラフにより、睡眠効率などの客観的な指標も測定されました。
この睡眠日誌では、おおむね4〜5日分の記録が集められています。
その結果、一晩ごとの睡眠時間や睡眠の質の小さな変動でも、翌日の痛みの感じ方が変化していることがわかりました。
さらに同じ日誌データを詳しく解析すると、「前夜の睡眠の質や睡眠効率」と「翌日の痛みの感じ方」を比較した際に、次のような傾向が見られました。
• 眠りの質や深さが悪かった翌日は、痛みを強く感じやすい
• 一方で、睡眠時間の長さだけでは明確な関連は見られなかった
つまり、「どれくらい寝たか」よりも、「どれだけ深く休めたか」が、痛みの感じ方に関係していることが示されました。
また、眠りが浅くなりやすい入院中などの環境では、この仕組みが痛みを強める一因になる可能性も考えられています。

この研究では、一晩の睡眠不足が痛みの感じ方と脳の反応を変えることが示されました。
なお、この結果は短期間の徹夜や一晩の睡眠不足を対象としたものであり、長期的な影響については今後の検証が必要です。
眠りが浅いと感じるときは、生活習慣や環境を見直すことも大切です。
「寝不足の影響が気になる」「眠りの質が悪い気がする」など、睡眠に関するお悩みがあれば、我慢せずに、当クリニックのような専門機関にご相談ください。
参考文献
[1] Krause AJ, Prather AA, Wager TD, Lindquist MA, Walker MP. The Pain of Sleep Loss: A Brain Characterization in Humans.J Neurosci. 2019; 39(12):2291–2300. PMID: 30692228; PMCID: PMC6433768
[2] 医療情報科学研究所 編.「病気が見える vol.7 脳・神経 第2版」 メディックメディア, 2021, p.34, p.190
[3] Torrico TJ, Munakomi S. Neuroanatomy, Thalamus. StatPearls [Internet]. 2023 Jul.
[4] Harris HN, Peng YB. Evidence and explanation for the involvement of the nucleus accumbens in pain processing.Neural Regen Res. 2020;15(4):597–605.PMID: 31638081; PMCID: PMC6975138