「布団に入ってもすぐ眠れない」「寝つくまで長く感じる」。こうした感覚を持つことは、多くの人にとって身近な経験です。寝つくまでに時間がかかると、睡眠に問題があるのではないかと不安になることもあるでしょう。
「寝つきが悪い」と感じる方は少なくありませんが、「どの程度の時間であれば一般的といえるのか」という具体的な目安は、必ずしも明確ではありません。
厚生労働省が公表している最新版の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、睡眠時間や、睡眠で十分に休養がとれているかといった内容は示されていますが、入眠までの時間について具体的な基準は示されていません[1]。明確な基準が示されていないこともあり、寝つきの長さは、自分の感覚を基準に判断されやすい傾向があります。たとえば「5分以内に眠れるのが普通」と考えている場合、15分ほどかかると長く感じるかもしれません。
では、実際にはどのくらいの時間で眠りにつく人が多いのでしょうか。次に、日本人を対象にした大規模研究の結果をご紹介します。

日本人約68,000人を対象とした大規模研究では、身体の動きを記録する活動量計(加速度データ)を用いて、日常生活の中での睡眠が解析されました[2]。
この研究で報告された各年代の平均入眠潜時(寝付くまでにかかる時間)は 14.0〜16.1分 の範囲にありました。年代ごとに違いはみられるものの、著者らはその差について、生理学的に大きな違いとは言えない可能性があると述べています。

また、男女別に見ると、30〜70代では男性の方が女性よりわずかに入眠潜時が長い傾向が示されていますが、その差は数分程度です。

こうしたデータを踏まえたうえで、不眠症の評価における入眠潜時の位置づけを見てみましょう。
不眠症の診断では、入眠までの時間はどのように位置づけられているのでしょうか。
米国睡眠医学会(AASM)の慢性不眠症診療ガイドラインでは、不眠症は「十分な睡眠の機会があるにもかかわらず、入眠困難、睡眠維持困難、早朝覚醒などの夜間症状があり、それによって日中の機能障害や苦痛を伴う状態」と定義されています[3]。
入眠に30分以上かかることは、不眠を訴える人でよくみられる特徴の一つとされていますが、30分という数字だけで不眠症と判断されるわけではありません[3]。診断にあたっては、日中の疲労感や注意・集中のしづらさ、気分の変化、社会生活や仕事への影響などがあわせて評価されます。
つまり、同じ入眠時間であっても、それによって日中にどのような影響が生じているかによって、その意味合いは異なります。

「寝つきに時間がかかった」という体感は、実際に測定された入眠時間とどの程度一致しているのでしょうか。
不眠症患者を対象とした研究では、客観的に測定された入眠潜時よりも、本人が報告した入眠潜時の方が長くなる傾向が示されています[4]。つまり、測定上はそれほど長くない場合でも、「かなり時間がかかった」と感じることがあるということです。一方、睡眠に特に問題のない人では、そのずれは平均すると大きくはありません。ただし、個人レベルでは主観と客観の間に差がみられることも報告されています[4]。
このように、「長くかかったと感じること」と「実際の測定値が長いこと」は、必ずしも同じではありません。
こうした主観的な評価と客観的な測定値のずれは、睡眠誤認(sleep misperception)と呼ばれることがあります。その背景には、覚醒している状態に注意が向きやすいことや、自分が眠れているかどうかを繰り返し意識してしまうといった認知的要因が関与している可能性が指摘されています[5]。
例えば、布団に入ったあとに「まだ眠れていない」と繰り返し意識してしまったり、「どれくらい時間が経っただろう」と気にしたりすることで、体感としての入眠時間が長く感じられる可能性があります。また、翌朝に振り返る際、眠れていないと感じた時間の印象が強く残ることも、主観的な評価に影響する要因の一つと考えられています。ただし、こうしたずれが生じる仕組みは、まだ完全には解明されていません。

入眠潜時は、睡眠の状態を把握するうえでの重要な指標の一つです。日本人を対象とした研究では、その平均は十数分程度と報告されています[2]。
一方で、不眠症の評価では、入眠までの時間だけでなく、夜間の目覚めや睡眠の満足感、日中の状態、生活への影響などを含め、複数の要素を総合的にみて判断することが推奨されています[3]。
平均的な値を知ることで、自分の入眠時間が「思っていたほど特別な状態ではない」と感じる方もいるかもしれません。しかし、入眠に30分以上かかる状態が日常的に続くなど、睡眠に関する困りごとがあり、日中の生活にも影響が出ている場合には、専門家に相談することも一つの選択肢です。
気になる症状や生活への影響がある場合は、当院までご相談ください。
参考文献
[1] 厚生労働省.健康づくりのための睡眠ガイド2023.2024.
[2] Li L, Nakamura T, et al. Age and gender differences in objective sleep properties using large-scale body acceleration data in a Japanese population. Scientific Reports. 2021. PMID: 33976280. PMCID: PMC8113448.
[3] Schutte-Rodin S, et al. Clinical guideline for the evaluation and management of chronic insomnia in adults. J Clin Sleep Med. 2008;4(5):487–504.PMID:18853708 ; PMCID: PMC2576317.
[4] Ma Y ,et al. Profile of subjective–objective sleep discrepancy in patients with insomnia and sleep apnea. J Clin Sleep Med. 2021. 17(11):2155–2163. PMID:34666882 ; PMCID:PMC8636379.
[5] Harvey AG, et al. (Mis)Perception of Sleep in Insomnia: A Puzzle and a Resolution. Psychol Bull. 2011;138(1):77–101.PMID: 21967449 ; PMCID: PMC3277880.